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有須inワンダーランド!<6> 

「差し出た真似をいたしました」
店の奥に位置する小部屋で、豪奢な椅子にふんぞり返った早川へ、和田が頭を下げる。主人の意思を汲み取ったつもりではあるが、命じられた以上の行動であることに間違いはない。叱責は覚悟の上だ。
「まったくだ。だが、戸惑った顔は可愛かったな」
「真っ直ぐな方でございますな。あれではさぞかし生き辛かったでしょう」
和田が頭を下げたまま、言葉を紡ぐ。まだ主人の許しは得ていない。
「お前も気に入ったか?」
「旦那様のお傍に置きたいタイプではございます」
その言葉に、早川は機嫌よくうなずいた。
「あまり出過ぎた真似はするなよ。僕の手で手に入れたい」
「はい」
深く頭を下げて、和田が主人の前から退く。それを横目で見ながら、早川は今度蔵斗が来たら、何を食べさせようかと考えていた。
律儀な性格だ。きっと最初は遠慮するだろう。この間、『将』でも一杯目だけしか奢らせてはいなかった。
「でも、僕は美作とは違うよ」
優しくするだけじゃ、蔵斗はきっと落ちてこない。言葉は少ないが、きちんと自分というものを持っている。強引に持っていったところで、土壇場で拒否されるのが目に見えるようだ。
だが、勝算はある。そう早川は考えていた。自分には美作にないものがあるのだ。

「やぁ、有須」
「あ、早川さん。こんばんは」
蔵斗の持ち場はころころと変る。元々は、倉庫か夜間のセッティング業務など、人の嫌がる仕事に廻らされている。特に、倉庫の品出しは体力仕事のために、どうしても身体の大きな蔵斗に回ってくることが多い。
だが、何処で品出しをしていようと、数日に一度の割合で早川に見つけられてしまう。最初は偶然だと考えていた蔵斗も、こう度重なるとそうではないことぐらいは検討が付く。
つまり、早川は蔵斗に会いに来ているのだ。
「早川さま、何かございますか?」
目敏く早川を見つけた店員が駆け寄る。蔵斗に会いに来る度に、何かしら購入する早川は、店にとっても大事なお客様になっていた。
何かしらと言っても早川の買う品は、かなり値の張るものばかりだ。PC売り場ならば高性能のモバイルパソコン。家電売り場ならば、機能的でコンパクトなアイロンや掃除機などである。
一つ一つはそんなに高価なものではないが、付き合いで買えるような金額でもない。
「そうだな。有須、ソファが欲しいんだが」
くるりと早川が蔵斗を振り返った。今日は、蔵斗は家具売り場で品出しをしていた。といっても、ここは家電量販店。売ってあるのは、ソファや机、ダイニングセットなどの日用品でしかない。とてもあんな店のオーナーである早川に薦められるようなものではない。
「あ、ありません」
「何言ってんだ? 早川様、失礼いたしました。こちらなどはいかがでしょう?」
無視された形になった蔵斗の同僚が、慌てて満面の笑みを浮かべるが、早川は一顧だにしない。
「何故かな? 有須」
「あんな場所に置くような家具はうちでは扱ってません」
蔵斗は、自分には不似合い極まりない、ビルの中とは思えない中世風の調度に囲まれた部屋を思い浮かべる。
「従業員のロッカールームに置くんだよ。仕事の合間に休んでもらうためにね」
そういうことならばと蔵斗は売り場を見渡した。落ち着いた色合いの手頃な二人掛けのソファを見つけて近寄る。
「こちらでは?」
言葉少なに薦める蔵斗に早川がうなずいた。
「どうしてこれを薦めてくれたのかな?」
「特殊加工がしてあって、服に座りしわが寄らないんです」
従業員と聞いて、早川の店のメイドや和田の格好を思い起こしたのだろう。早川はソファにどっかりと腰掛ける。
「うん。座り心地もいいな。これを貰おう」
すっと立ち上がった早川に、蔵斗がほっとした笑みを浮かべた。
「ありがとうございました!」
きちんと身体を折って頭を下げる。早川を従業員がレジへと案内するのを見送って、蔵斗はすぐに品出しへと戻っていった。

「お前、少しは笑えばいいんだよ」
ロッカールームでいきなり後ろから掛かった声に、蔵斗は顔を上げる。見ると昼間に早川の応対をしていた同僚・相馬だった。小柄であるが、きびきびとして話題も豊富で、常に皆の中心にいるような人物だ。
「今日、早川さんに笑ってただろ? あんな風に笑えば?」
「え?」
あっけに取られた蔵斗の返事も待たずに、言いたいことだけ言い終えると、相馬はさっさとロッカールームを出て行った。
ロッカーに残された蔵斗は、しばらく相馬に掛けられた言葉の意味を考える。
自分のようなデカイ男が笑っても似合わないだけだと思っていたが、そうではないのだろうか?
いつも通りに蔵斗が着替え終わる頃には、皆いない。店の通用口から表通りに出ると、やたらと夜風が身に沁みる気がした。
『またおいで』
優しい美作の声が蘇る。相馬に掛けられた言葉のことを話したいと思う。蔵斗の足が繁華街へと向いたのはもはや必然だった。

以前はおずおずと開いた店の扉を開けることに戸惑いは無い。会員制パブ『将』はそれほど蔵斗に馴染んだ場所になっていた。
「よう、アリス」
「こ、こんばんは」
店の客たちが声を掛けてくる。覚悟はしているが、逞しい身体にふんどし一丁の姿はやはり目のやり場に困る。その蔵斗の物慣れなさが可笑しいのか、店にさざめくような笑いが広がった。
「やぁ、いらっしゃい。アリス」
「美作さん」
笑顔を向ける美作に、蔵斗はほっとして名前を呼ぶ。だが、カウンターへ着こうとした蔵斗の足がぴたりと止まった。
「何だ。ちゃんと笑えるじゃん」
「相馬、さん」
カウンターで美作の前に座っていたのは、相馬だ。面白がるように蔵斗を見るその視線は、店でも一部の先輩同僚に『生意気だ』と称されてはいたが、悪びれない物言いと素直さで周囲の人間たちに可愛がられてもいた。
何故ここで相馬と出逢うのか解らない。相馬がこれでふんどし姿ならば、即座に常連だなと納得するが、相馬は普通にジャケットとジーンズという店を出たときのままの格好だった。
蔵斗は知らず、恨みがましい視線を相馬に浴びせていた。やっと掴んだ自分の場所を持っていかれたような気持ちは、過去に何度も味わったものだ。
「おお、怖ッ」
口では怖いと言いつつも、まったく怯む様子の無い相馬をじろりと美作が睨みつけた。
「ソフィア」
「え?」
威嚇するように呼ばれた名に、蔵斗は周囲を見回す。ソフィアと呼ばれていた美少女は何処にもいない。睨むような美作の視線の先にいるのは相馬だった。

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