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上巳<転げ落ちた先に+番犬の憂鬱> 

3月のJガーデンのペーパーSSです。
ひな祭りがテーマとのことで、こうなりました。
本編はこちら

【上巳】

「鈴木さん、ちょっといいですか?」
「ああ? 何だ?」
俺は非常に不機嫌な声を上げた。当たり前だ。この年度末に入って、忙しくない部署なんかあるものか。
やっと残業を片付けて帰る所なのに、と思ったところで罪はない。
声を掛けてきたのは、バイトで入ったメッセンジャーの大学生だ。
「いえ、いいです」
不機嫌丸出しなのが判ったのか、メッセンジャーはすぐに引き下がる。
「待てよ。飯食いながらなら時間あるぞ」
面倒な話らしい。が、コイツの面倒の元は大抵が恋人になったばかりの人事課長のことだ。
アイツの話なら、滅多な人間には話せないだろうし、弱みを握れそうなら面白い。
そう考えて、俺は帰ろうとするメッセンジャーの襟首を捕まえた。
「す、鈴木さん?」
「奢るから、話して行けよ」
俺は自分でも人が悪いと思いながら、囁いた。


「ビールでいいか?」
「いえ、自転車なんで」
メッセンジャーというバイト柄、コイツの自転車はいわゆるロードバイクという奴で、しかも自転車部だと云う脚力でこげば、そこらのバイクよりスピードは出る。さすがに酒は不味いか。まぁ、俺も酒は止められてる身なんで、二人して焼き鳥片手にウーロン茶という間抜けな選択になった。
「で? お前のことだから、どうせ宮川だろう?」
真面目なスポーツマンといった風情のメッセンジャーは、複雑そうな顔でうなずいた。
宮川、お前俺と同じ年だぞ。こんな子供に悩ませやがって。
「真幸さんが、変なんです」
「変? アイツが人が悪いのは何時ものことだろうが」
人事課の課長であるコイツの恋人は、四十前の癖にやたらと色気のある男だ。人事の要職に就いているだけあって、妙に聡く、時折黒い尖った尻尾が閃いているような奴である。
それが、こんな子供に本気だというだけでも、俺には十二分に変だと思えるのだが。
「いえ、そうなんですけど、そうじゃなくて……」
何だ? 妙に引っかかるな。
「今日は、妙に優しいんです」
「優しい?」
メッセンジャー・上総は非常に納得がいかなさそうな顔で話し出した。
「何ていうか、俺が料理を作るじゃないですか、そうすると冷蔵庫の前で材料出してくれたり、パン焼いてる間に珈琲入れてくれたり」
「いつもはしてないよな?」
俺たちの年代の一人暮らしの男の常としては、それは非常にかいがいしい。第一、宮川には似合わん。
「皿出してくれたこともないですよ!」
あ、やっぱりな。それが。
「今日だけ、か。お前の誕生日とか、何かの記念日とか」
「誕生日は四月です。出逢った記念日はバイトに来た日ですし、付き合い始めたのは初夏でしたから」
おいおい、宮川。初夏にはもう手を出してたのか? まぁ、あの色っぽさなら若いコイツじゃ我慢できなかったのは解るが。
「ええ~~~と、今日な、今日は。あ…っ」
「鈴木さん、何か解りました? 俺、帰るの怖いんですけど」
いや、それは不味いって。
「お前は何だと思ってるんだ?」
「もう、俺に飽きたとか……、別れる前とか優しくなるっていうじゃないですか」
そんな風に考えるもんか。いつも冷たいのも考えものだな。
俺は常日ごろの自分の言動を思い出し、ちょっとだけ反省した。
「それは無いと思うぞ。今日、一緒に飯とか云われてるんじゃないのか?」
俺と食ったなんて云ったら、俺が明日嫌味を云われそうだ。
「そうなんですけど。最悪の事態を考えちゃって」
「いいから、行け」
頭を抱える上総を俺は促して立ち上がった。
焼き鳥屋を出たところで、俺の方も不味い奴と出くわして立ちすくむ。やだな、コイツ誤解してるぜ。
「義彦。帰るぞ」
低音の響く声で云われて、俺は素直にうなずいた。下手な言い訳はしないに限る。
「渥美。ついでにコイツ、ご主人様のところに送ってやって欲しいんだけど?」
「必要ない」
俺には甘い筈の恋人に断言されて、俺は内心頭を抱えた。確かに綺麗な身とは云い難いが、即座に浮気を疑われても。
「真幸さん?」
上総が怪訝そうな声を上げる。渥美の後ろから現れた宮川に、俺は肩を竦めた。
「宮川。お宅の番犬。捨てられんじゃないかって怯えてるぜ」
「上総?」
宮川が目を見開いて、上総を見ている。
後は、自分たちでやってくれ。俺は身を翻して渥美のセルシオへ向った。
それだけで渥美にはどういうことかは解ったらしい。さっきまでの高圧的な空気はなりを潜め、連れ立って歩く。
うやうやしく開けられた助手席へと身を置くと、ドアが閉められ、運転席へ座った渥美はすぐに車を発進させる。さすがに路上駐車は不味い。
「今日は上巳だろう?」
走り出した車で、俺は渥美に話し掛けた。上巳。一般的には桃の節句と云う。
今でこそ、女性のみの節句だが、元々は穢れを払い厄災を避ける目的で形代を流す行事だ。
武家の流れを組む家などでは、まだ行事として残っていたりする。
「お前も宮川に付き合って来たのか?」
でなければ、宮川と渥美が一緒に現れるのはおかし過ぎるのだ。
「まぁな。宮川が真剣にやってるし、俺も付き合うだけならと思って」
大人の男が二人でやることでもあるまいに。だが、俺たちのことを思って、俺たちのためにやってくれたのなら、悪くない。
「今日は、俺も一緒に料理しようか?」
「お前が? 止めとけ」
ちょっとだけ、手伝うのも悪くないと思ったのだが。もっとも、俺の手伝いじゃ邪魔にしかならんか。
「女王陛下は、そこにいてくれるだけでいい」
「つまらんな」
クスクス笑う俺の顎を掬い上げ、渥美の唇が軽く俺に触れた。
それもまた幸せの形だ。

<おわり>

<収まるべきところ>

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