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身勝手な男<3> 

「佐伯さんには幻滅ぅ~」
「そぉ? あたしはいつもの気取ってる佐伯さんよりいいなぁ」
「あれは気取ってるの? 能面みたくない?」
「久世さん、弱りきってたよね~。可愛い~」
「おい、さっそく俺の話か?」
月曜の朝の給湯室はおしゃべり雀どもの巣だ。朝からにぎやかな事この上ない。
「やだ~~~、聞いてたんですか?」
「聞いてたんじゃないの。聞こえたんだよ」
俺は女の子達の横で、コーヒーを入れた。インスタントは、熱い湯で濃い目に入れると匂いが引き立つ。
「久世さん。云ってくれたら、コーヒーくらい私が入れますよ」
同じ庶務課の本田美弥が、可愛らしく口を尖らせた。
「いいよ。俺の息抜きでもあるし、このフロア禁煙だしな」
暗にタバコ休憩代わりの気分転換だと、匂わせる。課長や部長でもあるまいし、コーヒーくらいで揉めたくは無い。オンナは当たり前のこととして要求されるのを、嫌がる生き物だ。
「そう云えば、あの後、佐伯さんどうしたんですか?」
「あんまり荒れてたから、家に泊めた。何か悩みがあった風だけど…」
経理課の東海林が、興味津々と云った風で聞いてくる。
こういう女は、はぐらかすと追及が鋭くなるので、適当な情報は与えておくに限る。後は勝手に自分で想像をたくましくしてくれるだろう。
「ああ。それであんなに酔ってたんですね」
「みたいだね。まぁ、俺の勝手な想像かもしれないけどな」
嘘は吐いてない。というところがコツ。俺の家は商店街のど真ん中だ。誰かに見られていないと云う保障は無い。
「あ、そうだ。美弥ちゃん。先週の作業日報。渥美工芸さんとこ足りないみたいなんだけど……」
「え~、チェックもれかなぁ?」
「休憩終わったら、も一回、チェックしといてくれる? 終わったら、経理廻しておいてね」
俺はさりげなく仕事に話を戻して、給湯室を後にした。
大体、朝一番の給湯室で噂をばら撒いておけば、後から追及されることは無い。
特に、経理と庶務、受付が一緒になった総務部では、このオンナたちの噂話から、とんでもない話が流れることだってある。
特に、今回のターゲットは、入社以来、クールで誰とも関わりを持たなかった、営業部の佐伯英次の初のアフターファイブの様子だ。尾ひれが付くと、とんでもないことになる。
酒乱などと云うことになったら、上司の覚えはさすがにめでたくないだろう。
「感謝しろよ。佐伯――――」


「久世!」
げッ、佐伯? 噂をすれば何とやらという奴だ。
「ヤマキのウェルドアンカー、一箱、手に入らないか?」
「一箱って、ダンボールで?」
まさか、30本入りの一箱じゃないだろう。だったら、こんなに慌てて駆け込んでくる筈がない。発注ミスか?
「草壁工業の図面、チェックしてたら、一枚が三階層分だったんだ。今日の午後の配送予定」
「販売部は?」
俺は自分の席のパソコンを開いた。まず、販売部の店頭在庫をチェックする。
「販売倉庫には無い。取り付け、明日なんだ」
「五反田と、六郷の店舗に多めにあるな。美弥ちゃん、電話確認よろしく」
店舗在庫ということは朝から売れてる可能性だってある。在庫が多目の店舗から廻ることにはしたが、在庫が多いのは、普段売れているからなのだ。
「あやちゃん、営業部の名前でヤマキに注文入れて」
「はい! 誰ですか? 佐伯さん」
横で聞いてた芳野あや子が、何げにキツイ一言を添えた。ミスしたのは誰かと聞いているのだ。
「渡部」
予想通りの名に、げんなりとした空気が流れる。渡部は今年で入社二年目になる営業部員だが、とかくうっかりミスが多い。しかも、反省の色が無いものだから、何度も同じミスを繰り返すのだ。
「草壁工業さん分ですね。現場名は?」
草壁工業は工務課のお局がうるさいところだ。伝票が遅れたりしたら、発注ミスにはすぐに気付かれる。
「フォレストガーデン・くすのき」
「了解。笹島さん、発伝お願いします!」
やっぱり突発事項には女の子の方が動きが早い。てきぱきと発注伝票が経理課まで廻る。
まぁ、今回は頼んできたのが佐伯と云うのも大きいかもしれないが。
「久世さん。六郷店舗、一箱押さえました」
「サンキュ、美弥ちゃん。佐伯、行くぞ!」
電話確認してくれていた本田美弥の声を潮に、俺は佐伯を伴って、六郷の店舗へと向かうために、車を出すことにした。


「助かった…」
二時間後に何とか配送トラックに間に合ったときには、二人して大きく息を吐いた。
「渡部の野郎、今回で三度目の発注ミスだ。見積もり詳細と、図面はよく合わせろって云っておけよ」
「まったくだ。あの馬鹿は何の為に図面まで貰ってきているか解かっちゃいない」
慣れてきた頃のミスは誰にでもあるが、頻繁すぎる。
「三時に差し入れさせろよ。こうしょっちゅうじゃ、そのうち女子社員のスト食らうぞ」
「営業事務課では、もう食らってるよ。渡部の見積もりは俺しかやらない」
営業部と云っても、実質のセールスに廻る営業課と、サポートをこなす営業事務課に分かれている。見積もりやカタログの発注などの的確なサポートがあるのと無いのは、大きな違いだ。
あれ?
「お前、営業課じゃなかったっけ?」
「先々月から営業事務課に飛ばされた」
そうだよな。確か今年の労働保険の申請のときは、まだこいつ営業課だったぞ。
「飛ばされた???」
「一応、一時的措置となってるけど、本決まりになるのも、多分、そう先のことじゃない」
そりゃそうだ。本決まりなら、総務の俺が知らない筈は無い。何かやらかしたとは聞いてないぞ?
「イロイロあってな」
唇だけを歪めた笑いは、何処か自嘲するような感じだ。
「渡部が渋ったら、俺が差し入れするよ」
佐伯は片手を軽く上げて、営業部へと続く階段を上がって行った。


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