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有須inワンダーランド!<12> 

「お前、何も聞かないんだな」
「え?」
相馬は女装趣味であることをあえて隠したことはない。友人連中には知っている人間も多い。中にはそれで疎遠になったものもいる。認めてくれている連中も一度は必ず聞いてくるのだ。
「どうしてあんな格好してるのか、ってな」
「雅さんから理由は聞きました」
蔵斗の顔には、何を今更聞かれるのか判らないと書いてある。想像力の欠如も甚だしいが、ひたすら真面目な人格もそれを助長しているのだろう。
「雅は男の野蛮さを見下しているからな。俺はもっとストレートだ。お前、出身何処?」
「茨城です。工場と田んぼしかない田舎町です」
「俺は九州。結構都会ではあるんだけどな。でも気質っていうのか『男は男らしく、女は女らしく』っていうのは、まだ強い」
相馬は遠く生まれた土地への思いを馳せた。
相馬は幼い頃から、レースやリボンなどの、ふわふわしてひらひらしたものが好きだった。優しい手触りと日に透ける薄布の感触は幸せを思わせるもので、純粋に綺麗だと思った。魅せられるままに絵を描くようになるのも早かった。イラストのモチーフは、お姫様のようなふわふわしたドレスを身に着け、綺麗なものに囲まれた部屋で過ごす女の子ばかりだ。
相馬の描くイラストは男女問わず好評で、相馬はそれなりの人気者であった。
だが、女の子たちは思春期以前から、やはり可愛らしい女の子の隣にはカッコいい男を並べることを求める。それは相馬の描くイラストに自己を投影したかったのかもしれない。リクエストに応えて描いた男は、お姫様の隣に並ぶのに相応しい王子様だったが、マントのように綺麗な布を纏っていた。相馬にはそれは会心の出来だった。
その辺りからだろうか。皆が何となく相馬を敬遠しはじめたのは。
イラストは徐々に男性モチーフが増えたが、それはいつも綺麗な薄布やリボンを纏っていた。
「思春期に入ると、違和感は半端なくなってた。俺はずっと綺麗なものが好きで、そういうものに囲まれたかった。姉のウエディングドレスが羨ましいと思っていた」
蔵斗は語り続ける相馬をじっと見つめる。今の相馬は、あの美少女とは似ても似つかないが、あれが相馬の考える理想の相馬なのかもしれない。
「別に男でいるのが嫌だとかじゃなくて、ああいう綺麗でふわふわでひらひらしたものに囲まれたいんだよな」
「綺麗でしたよ。動くのが信じられないくらい。まるでお人形みたいで」
ぼそりと蔵斗が呟くのに、相馬が物思いに沈んでいた瞳を上げた。
呆然と蔵斗を見つめる相馬と、蔵斗の視線が絡む。だが、視線を外したのは相馬が先だった。
「まいった……」
頭を抱え込む相馬に、蔵斗は不安そうな視線を向けた。何が悪かったのか、何か気を悪くしたのだろうか。他人の昔話などを聞いたのは初めての蔵斗だ。何か反応をしなければいけなかったのだろうかと、おろおろとしてしまう。
「お前、すごいわ。こりゃ、将棋さんがやられる筈だ」
「何…が?」
口説くでもお世辞でもなく、ストレートに『綺麗』などと口に出せるのは、本来の素直さか。それとも言葉が少ないだけか。相馬は自分の顔が紅く染まっていることを自覚していた。だが、そんな相馬を見ても、蔵斗は何か怒らせたのかと怯えるだけだ。
怒りで席を立った相馬は、二度と蔵斗には話し掛けてこないだろう。せっかく話せるようになったのに。と蔵斗は唇を噛む。
そんな蔵斗に気付いたのか、相馬はぽんと頭に手を置いた。
「そんな顔すんな。照れてるんだよ」
「照れる……?」
意外な言葉に蔵斗が首を捻る。
「お前、ホント天然っつーか」
立ち上がる相馬を、不思議そうな視線で蔵斗が見上げた。
「ほら、そろそろ行くぞ。お前、着替えるの遅いんだろ」
「一緒、にですか?」
「ここまで来て、何で店行くのに別々なんだよ」
蔵斗を促して立ち上がった相馬の後ろに付いて歩く。その二人の組み合わせは目を引くらしく、何人かが振り返って眺めていた。

「顔を上げろ」
蔵斗を伴って店まで来た相馬は、ロッカールームの前で振り返ると、蔵斗の背を押し出した。図らずも茅場と同じ言葉を相馬からも言われて、蔵斗ははっとした。
「後は普段どおりでいいんだよ。少しでも顔見せろ」
ごくりと蔵斗は口中に溜まった唾を飲み込む。少しでも先に進んだら何かが変るのだろうか。例えば、相馬のように。早川や和田や茅場のように。
頭を掠めるもうひとつの面影を蔵斗は振り払った。
思い切って顔を上げる。
がちゃりとドアを開いた。
「おーす」
「はよっ!」
反射的に挨拶をした二人の同僚たちの顔が、蔵斗を認めて胡乱に曇る。それを見た蔵斗は、思わず気後れし下を向きそうになった。が、その背を相馬に叩かれる。
「おはよう、ございます!」
緊張したままの蔵斗の言葉は何処か不機嫌そうに聞こえるが、それでも顔を上げたまま言い切る。
怒鳴るような挨拶に目を見開いていた宮瀬洋子が、にっこりと笑った。
「おっはよー。今日も早いねー。あれ、相馬ちゃんも一緒?」
「朝飯、一緒だったからな。はよっ!」
「ああ、おはよ」
黙ってしまった掛川がバツが悪そうに挨拶を返す。
「朝ごはん。何処?」
「あ、シェリーズカフェ、です」
宮瀬がひょこっと顔を蔵斗の方へ差し出す。
「あそこ、何が美味しい? まだ行ったこと無いんだよね」
「俺も、はじめてで。えっと、スープセットは美味しかったです」
「おいおい、宮瀬。何で俺じゃなくて有須なんだよ」
宮瀬の質問に、言葉少なに蔵斗が答えた。それに相馬が突っ込む。
「相馬ちゃんって調子いいんだもん。美味しくなくても適当に言いそう」
頬を膨らます宮瀬の女の子らしい仕草に似合わない辛辣さに、蔵斗は思わず噴出した。
笑いながら着替えていると、妙な視線を感じて振り返る。
三人が、じっと蔵斗を見ていた。
「あの、俺」
また何かやってしまったかと蔵斗は落ち着かず、視線を彷徨わせる。
「お前、笑えたんだな」
溜息を吐き出すように、掛川が言った。それに相馬が笑い出す。
「ほら見ろ。お前がいっつも仏頂面してるからだ」
バンと音のするくらいに蔵斗の背を相馬が叩く。訳の解らない蔵斗の顔を見て、掛川と宮瀬も笑い出した。
朝から賑やかなロッカールームに、他の同僚も出勤してくる。だが、今朝は笑いの中心は蔵斗だ。その珍しい光景に足を止めたのは、一人ではなかった。

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