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有須inワンダーランド!<14> 

重々しいノッカーを鳴らすと、鉄製の扉がギィと音を立てて開く。
「いらっしゃいませ、アリスさま」
「こんばんは」
出迎える和田に、蔵斗は素直にバッグを渡した。最初は『お客様』扱いに緊張したが、『私の仕事ですから』と和田に諭され、納得した。
「早川が待っております。どうぞこちらへ」
「はい」
和田に促されるままに個室へと向う。扉を開くと同時に早川が立ち上がった。
「やぁ、有須。よく来たね」
「こんばんは、早川さん」
「有須。疲れただろう。冷たいものがいいかな?」
「いえ、早川さん。今日は帰ります」
席に着くこともなくはっきりと言った蔵斗に、早川の動きが止まる。
「どうしてか聞かせてもらってもいいだろうか?」
「すみません。俺、今日は行かなきゃいけないところがあるんです」
早川を真っ直ぐに見た蔵斗の顔は、すっきりともやの晴れたような表情を浮かべていた。
「ありがとうございました」
蔵斗が深く頭を垂れる。その言葉にどのぐらいの想いが篭められているか、察しの良すぎる早川には如実に解ってしまった。
「君は僕に告白もさせてはくれないんだな」
「すみません」
「やれやれ、こんなにはっきりと断られるとは思っても見なかった。いい人でいるのも考えものだ」
力が抜けたように椅子に座り込む早川に、蔵斗は驚いてしまった。そんなに落胆されるとは思っても見なかったのだ。蔵斗の目に思わず涙が滲む。泣きそうな表情で顔を上げた蔵斗の頭を、早川はぽんと叩いた。
「意地悪をしたいわけじゃないんだ。悔しいだけだよ。和田、あれを」
気配を殺して留まっていた和田が、主人の命令にすっと下がる。我に返った蔵斗はぐいっと腕で涙を拭った。
「プレゼントをあげるよ。それを身に着けて行くこと。僕の想いを袖にするならそのぐらいの覚悟は見せて欲しいからね」
「プレ、ゼント?」
ちぐはぐな言葉に、蔵斗は首を傾げる。
「旦那様」
程なくして戻ってきた和田は手ぬぐいのようなものを早川へと渡して、すぐに下がった。
「上手くいくように祈ってる」
笑いながら差し出された、和紙に包まれたものは真っ白な布が畳まれたものだ。それを手にした蔵斗は、ますます疑問が湧いてくる。
「手ぬぐい、ですか?」
「よく、見てごらん」
笑みを深くする早川に、蔵斗は手ぬぐいをひっくり返した。そこには小さく『褌』と書かれている。
蔵斗はぎょっとして早川を見た。
「どうして……」
「君のお相手が一番喜びそうなものだと思ったんだけどね。もしかして、間違ってるかな?」
蔵斗はぶんぶんと首を振る。もう一度向かい合いたい。見つめられることが恥ずかしくて、いつも目線を逸らしていた相手。
「行っておいで。その代わり、フラれたらちゃんと僕のところへ帰ってきて」
「すみま……」
謝ろうとして、蔵斗は思い直した。この数日、いろいろな人から言われたことだ。応える言葉はそれじゃない。
「ありがとうございます」
深く頭を下げて、扉を開く。和田から手渡されたビニール製のバッグを肩にかけた。
「まいったな。こんなにあっさりとフラれるとは思ってもみなかった」
「吹っ切れたような感じでございました」
「そうだね。今日、店に行ったら楽しそうだったよ」
いつも下を向いて、眉間に皺を寄せていた蔵斗がうっすらと口元に笑みを浮かべていた。他の店員たちとも言葉を交わしていた。
「仕方が無い。もう有須は選んだんだ」
椅子に沈み込んでいた身体を起こす。
「悪い、和田。今日はもう休ませてもらう」
「承知いたしました。あまりお過ごしにはなられませんよう」
自室へと向う早川の背中に、和田の控えめな声が掛かった。自棄酒を煽るつもりを見透かされて、正直煙たい思いが頭を過ぎる。だが、それも早川を思いやってのことだ。
「解った」
言葉少なに答えて、早川は足を速める。逃がしたウサギのことを未練がましく考えるのは今日だけにしよう。可愛いウサギだったが、所詮は早川のものになることのない獲物だ。あまりに物慣れない風情が可愛くて、早川にしては珍しく、いい大人を演じ過ぎた。
「僕らしくもない」
厳つい顔に隠された傷ついた心。優しく真綿で包むよりも、日の下で笑って欲しいと願ってしまったのは、早川の傲慢さか。
「いや、きっと有須の人徳だな」
最後にちょっとだけ意地の悪い事を仕掛けた自覚はある。褌を締めていくとは思えないので、あの褌を片手におろおろとするのが目に見えるようだ。
うろたえる様は、さぞ可愛いだろう。それを目にするのが美作だと言うのは業腹だが、仕方が無い。
私室のお気に入りのソファに深く腰掛け、手にしたモルトを煽る。
「ワンダーランドに迷い込んだアリス。君はとても可愛いよ。自信をもって前を向きなさい」
目に見えない誰かと乾杯するように、早川はボトルを掲げた。

早川の店を出た蔵斗が向ったのは上にある女装クラブだ。勤めだしてからこの辺りに住んではいるが、人目を気にする蔵斗に出歩く習慣は無い。仕事で通る道以外は何処に何があるのかさえ定かではなかった。
女装クラブで蔵斗を出迎えたのは、入り口近くのテーブルに腰掛けた雅だ。今日も背の高い雅によく似合うシンプルなドレスを纏っていた。
「まぁ。よく来たわね。やっと女装の良さに気づいてくれた?」
両手を大げさに広げて歌うように言葉を紡ぐ雅は、蔵斗を大歓迎してくれていることが判る。蔵斗は腰が引けるのを感じながらも、何とか用件を口にした。
「い、いえっ、その、相馬、じゃない、ソフィアさんを」
にっこりと笑って近寄ってくる雅はまさしく肉食獣だ。じりじりと後退しながらの蔵斗の言葉は悲鳴に近い。
「アリス。どうかしまして?」
「相馬じゃない、ソフィアさん。教えて欲しいことが……」
迫ってくる雅の後ろからソフィアの声が聞こえたときには、蔵斗は思わず大げさに息を吐いてしまった。
可愛らしく小首をかしげる美少女は、相馬にはとても思えないが、心当たりはここしかない。蔵斗は雅を前に縋るような視線を向けた。
「この辺りにネットカフェって何処かあります?」
「何を調べたいの?」
切羽詰った蔵斗の焦りが伝わったのか、打てば響くようにすぐに答えが返ってくる。
「褌の着方を」
蔵斗がいうや否や、ソフィアが蔵斗の手首を掴んで歩き出す。何事かと雅まで付いてきた。

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