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有須inワンダーランド!<16> 

逃げようとする頭を強い力で固定され、深く合わさった唇から舌が忍び込む。
縦横無尽に這い回るそれに、蔵斗は酸素不足で気が遠くなりそうだ。
漸く唇が離れ、飲み込みきれなかった唾液を舌ですくわれる。軽く音が出る口付けを残して、美作が離れた時、蔵斗はカウンターにすがりついた。
「アリス」
耳元で囁かれる声は、甘い中にも真剣な響きがあって、蔵斗は顔を上げる。
「店の奥の部屋。判るね? そこで待ってて」
そこならば覚えている。美作の私室だ。あの日、蔵斗が逃げ出した部屋。
胸元へと押し付けられた冷たい感触は、クラシカルな形をした古い鍵。おそらくはあの部屋の鍵だろう。蔵斗は渡されたそれを握り締めた。
「アリスちゃん」
「倉田、さん?」
緊張して右足と右手が同時に出そうなくらいガチガチな蔵斗に、倉田は冷えたグラスを差し出す。
「喉渇いてるだろ。それでも飲んで部屋へ行ってきな」
「は、はい。ありがとうございます」
受け取った蔵斗は渡された冷えたビールを一気に飲み干した。その飲みっぷりに外野から拍手が起こる。皆、正直下世話な興味津々だった。
蔵斗は鍵を差し込むと、深呼吸してドアを開く。
この間は余裕が無かったが、ぐるりと部屋を見回した。
簡易キッチンと小さな冷蔵庫。小さなテーブルと窓際にある狭い部屋の半分を占めている大きなベッド。カラス張りのドアはおそらくバスルームだろう。もう一つの小さなドアはクローゼットだろうか。本当に最低限のものしか置かれていない部屋なのに、痩身の美作が使うには大きすぎるベッドが、異様に存在感を主張している。その示す事実に気づかない程、蔵斗は鈍くは無かった。
「美作さん、カッコいいからな」
綺麗で強くて、優しくて。その上、店の経営者だ。美作がその気になれば、大抵の女や男は落ちるに違いない。このベッドでも、きっと何人もの男女が美作の相手をしただろう。
美作は自分の何処がいいのだろうか?
やっぱりからかわれているだけのような気がして、蔵斗はずんと落ち込みかける。だが、蔵斗の脳裏に厳しい目をした相馬の顔が浮かんだ。
「相手の気持ちを決め付けるな、か」
蔵斗は頭を振って後ろ向きな気持ちを追い払う。美作に直接聞けばいい。美作は一番そばで蔵斗のことが知りたいと言ってくれた。その言葉を今は信じよう。
蔵斗は窓際のベッドに腰掛けた。そこが一番美作を待つのに相応しい気がしたからだ。

「随分気が利くじゃないか」
棘のある雇い主の言葉に、倉田はフンと鼻を鳴らす。
「アンタがどういう気なのか知りませんけどね。ああいう子で遊ぶ気なら止めた方がいいっすよ。俺も寝覚め悪いんで」
「遊ぶほど俺も人は悪くないさ。ただ、この間の意趣返しはさせてもらいたいからね。しばらく任せるよ」
にやりと歪んだ笑みを見せる店主の肩を、常連のサクが掴む。一時期の遊び相手だっただけに、美作が本質的に悪い男であるのは承知の上だ。
「言っとくけど、何かあったらすぐに早川さん呼ぶよ?」
「好きにしろ。要はアリスが俺を選べば文句は無いんだろ」
冷たい言葉で、美作はサクを振り切ると、奥の私室へと向う。
「どうしたよ。サクっち。将さんがああいう人なのは知ってんじゃん」
「いや、そういうことじゃないんだよ」
声を掛けてきた褌姿の男はまだ若かった。サクの言葉の意味はまだ解らないだろう。ああいう男だからこそ、本気の恋は間違えないで欲しいのだ。逃がしたら、きっと後悔する。
「将」
サクは美作の後姿を苦い思いで見つめていた。

ドアを開くと、ベッドへと腰掛けていた蔵斗が振り向く。男を待つのにベッドの上だなど、誘っていると取られても仕方の無い状況だが、経験のほとんど無いらしい蔵斗にそんなことが解る訳も無い。
「アリス」
美作は立ち上がろうとする蔵斗の横へ座り込み、肩を押した。あっけなく蔵斗が美作を受け止める形でベッドへと転がる。
「覚悟はいいな?」
「覚悟?」
真っ直ぐに蔵斗を見つめる瞳には、蔵斗だけが映っていた。
「ここへ」
美作の指が蔵斗の尻の谷間へ触れる。
「俺を受け入れる覚悟」
蔵斗は即座にうなずいた。美作はあまりのあっけなさに笑い出しそうになるのを堪える。もっと蔵斗は抵抗を示すと思っていたのだ。それとも、無知ゆえの無謀さか。
「覚悟は決めてます。何度も迷って、色々な人に背中を押されてここまで来たんです。これで逃げ帰ったら、俺はまた後悔する」
蔵斗は下を向いてシーツを握り締めていた。震える指を見咎めた美作がその手を取り、指先に口付けを落とす。
「美作さん。ずっとなんて言いません」
美作に甘やかされるのは、気恥ずかしくて、でも嬉しい。蔵斗は自身の気持ちに素直になりたいと思った。
下を向いて視線を彷徨わせていた蔵斗が顔を上げる。
「俺だけを見てください」
強い視線が美作を射抜いた。その素直さに美作は頭を抱える。
「参った。降参だ」
美作は両手を挙げて、蔵斗の上から退く。
ちょっと苛めてやろうと思っていた。散々、振り回されたお仕置きをしてやるつもりだった。だが。
「ちょっと待ってくれ。俺が覚悟を決めてくる」
「み、美作、さん?」
広いベッドに置き去りにされて、蔵斗は慌てた。何が悪かったのだろうとぐるぐる考えが巡る。
「アリス。すぐに戻ってくるから」
暗い顔になった蔵斗に気付いて、美作が笑いかけた。その優しいいつもの笑顔に蔵斗はほっと胸を撫で下ろした。

「すまん。今日は店閉めさせてくれ」
私室からカウンターへと戻ってくるなり、いきなり頭を下げた美作を何事かと常連が見つめている。
「はい。マスター、了解っす!」
「えぇ。何よ、随分急じゃない」
オネェ言葉で常連の一人が文句を垂れたが、それをサクが制した。
「今日は当然将さんの奢りで。みんな、ゴチになるぞ!」
サクの言葉に店中が湧きあがる。
「そういうことなら、オッケー」
「ゴチになりまーす」
ゲンキンな連中はけろりと受け入れ、さっさと帰り支度を始める。振り返ったサクが美作に行けと合図を寄越した。
それに美作は素直に頭を下げると私室へ急ぐ。
ドアを開くと、美作を認めた蔵斗が笑った。

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