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収まるべきところ<転げ落ちた先に番外> 

春イベントの無料配布SSです。夏イベント用が出来たのでUP。
本編「転げ落ちた先に」はこちら

【収まるべきところ】

「は? それってストーカーって言うんじゃないのか?」
宮川真幸が可愛らしい顔を歪めて、あきれ返った声を上げる。
「やっぱりそう思うか?」
宮川の目の前に座った鈴木が、深い溜息を吐き出した。
常からかったるそうな動作に、今日は拍車が掛かっている。
「警察は?」
「あのな。俺にストーカーするような奴がいるって、他人事として考えたら、お前信じられるか?」
宮川は、向かい側に座った鈴木をまじまじと見つめた。
ネクタイは引っ掛けていると言った方が正しいし、小ざっぱりとしているスーツも、だらしなく着崩されているとあっては台無しだ。ぼさぼさの短い髪。顎には無精髭。大き目のメガネで隠された顔は、近くで良く見れば整っているが、それに気付く相手は皆無に近い。
しかも四十を過ぎた大の男なのだ。
状況がどうあれ、この男にストーカーがいるなど、きっちりと証拠を揃えて持っていかなければ信じてくれる筈もない。
「渥美部長には?」
「言ってない」
「何故?」
憮然としたまま言い放つ男に、宮川は問い掛けた。営業部長の渥美は、この男の学生時代の後輩で、一緒に住んでいる恋人である。何ゆえに黙っているのか。
「アイツがそんな相手を知ったら、どうすると思う?」
「どうって」
おそらくは、今以上に側に置いて離れなくなるだろうことは想像がつく。だが、鈴木はそれを気詰まりに感じるような性格では無い。
では、何が問題か。本当にストーカーだとしたら。
「渥美部長を邪魔者として排除する可能性がある」
「アイツ、そんな荒事向きだと思うか?」
宮川は、中年になっても腹など出る様子の無い渥美を思い浮かべた。きちんと筋肉はついてはいるものの、それでもどちらかといえば逞しいとは言い難い体型だ。
「俺も対処は心得てるからさ。会社の周囲とかに気を配ってもらえりゃいい」
それで人事課長である自分に話を通したのだろう。警察が来て、大事になってからでは遅い。
入り口に付けられたベルがカランと鳴って、まっすぐにこちらに近づいてくる足音が響いた。
「義彦」
渥美は宮川に会釈だけを返すと、鈴木を促す。鈴木は素直に立ち上がり、渥美を従えて歩き出した。

宮川がその男に気付いたのは、昼過ぎだった。
人事課の机は入り口に向けて配置されている。故に窓際にいるのは、奥の課長机に座っている宮川だけなのだが、気付いたのはその所為ばかりではない。
埋立地の埠頭近くに位置するこの辺り周辺は、工場を持つ会社ばかりが立ち並び、歩いているのは、そこに勤める連中ばかりだ。
基本、そういった連中の服装は、作業服かスーツ姿だ。女性だと今は制服の無い会社も多いから、シャツにジーンズなどというのも多いが、男性では珍しい。
出入りの業者も似たようなものだ。
だが、男の服装はどれでもなかった。いかにもなトータルコーディネイトされたお洒落な服装は、この工場地帯では非常に浮いて見える。
その癖、何度もうろうろと入り口辺りを覗き込むものだから、上から見ている宮川にはどう見ても不審者としか思えなかった。
「鈴木。すぐにこっちへ来い」
「ああ、判った」
内線を入れると、鈴木がすぐに営業部から上がってくる。手招きして、男を確認させた。
「あれか」
「知り合いか?」
「従弟だ。やっぱり表沙汰は不味いな」
「とりあえず、今日も絶対に渥美部長の車で帰れ。一人でうろつくなよ?」
「ああ。すまん」
言葉だけの謝罪を述べた鈴木を帰し、宮川は再び窓の下を見下ろした。

「どうぞ。女王陛下」
ふざけた物言いで渥美がセルシオのドアを開く。会釈もせずに鈴木が助手席に身体を滑り込ませると、運転席へと廻った渥美が静かに車を発進させた。
会社から、自宅のあるマンションまでは、そんなに時間は掛からない。
「義彦。飯は?」
「後でいい。お前に任せる」
言葉少なに鈴木が答えるが、その声もかったるげだ。いつもの鈴木の筈なのだが、それに妙な違和感を感じる。
渥美はちらりと助手席の男を見た。真っ直ぐに前を見てはいるが、何処か遠くを眺めているような気がして、渥美はハンドルを握る手が汗ばむのを感じた。
「宮川が本借りに来るっていうから」
マンションに着いて、エレベーターに乗り込むと同時に鈴木はふっと口にして、二階でするりと降りてしまった。
「後でそっち行く」
言い放たれた言葉に虚をつかれている内に、渥美の目の前で無情にもエレベーターは閉じてしまう。仕方なく、上方へと向う浮遊感に身を任せるが、付きまとう違和感は消えなかった。

「すみません、鈴木さん。お邪魔します」
「よう」
顔を出した二人は、人事の宮川真幸とその年下の恋人だった。年下の番犬は創技でバイトしていたこともあり、顔見知りだ。
「すまんな、上総まで」
「いえ、真幸さんの頼みですし。それより、鈴木さん、マンションの前に」
言いづらそうに口にする上総に、鈴木は舌打ちをする。
「いたか。あの馬鹿」
独り言のように鈴木が呟いた。
「で、どう手を打ってるんだ? 相手が何を持ってるかも判らないのに」
「うちから、人寄越してもらうことにはなってるんだが」
「ガードマンみたいな?」
宮川が小首を傾げた。鈴木がどこぞの社長令息であるのは知っているが、立ち入ったことを聞いたことはない。
「いや、契約している警備員だと、下手打ったら警察に通報される。使用人のうちで腕自慢のを数人」
「でも、到着を待ってはいられないんじゃないか」
宮川の言葉が終わらないうちに、インターフォンが鳴り響いた。親兄弟以外に、このマンションを知るものはいない。
そして、鈴木の両親も兄も会社のトップとして、迂闊な人間ではないのだ。
「はい。ああ、史生か。待て、今友達が来てるんだ。送っていくから」
エントランスで待つように鈴木が伝え、宮川に目配せを送る。宮川と上総が目を見交わして立ち上がった。
「俺と鈴木だと、やっぱり俺がタチだよなぁ」
「妙な悪戯心は出すなよ」
エレベーターを降り、宮川と二人して並んで歩く。都内では週末しか車を使わない人間も多く、半地下の駐車場には人気が無かった。
立ち止まる鈴木の頬に宮川が触れるだけのキスをする。こんな事態でも遊び心を忘れない男に、鈴木は半ば呆れ果ててされるがままだ。
「じゃあ」
ゆっくりと歩み去る宮川の後姿を見送っていると、背中に視線を感じた。妙にねっとりとしたそれは、ずっと昔にはよく浴びせかけられたものだ。吐き気すら覚えて、鈴木は口元を押さえる。
背後の気配が動いた。
鈴木が身体を交わすように捻る。気配の主に向って、上総が動いた。
瞬間、上総の前へと回りこんだ小柄な影が、男の腕を捩じ上げる。
「ヒロさん?」
「さっすが、ヒロちゃん」
怪訝そうな声を上げた上総と、戻ってきた宮川の声が重なった。ヒロと呼ばれた男は、小柄ではあるが逞しい体躯の中年男だった。
「真幸。コイツ、どうするんだ?」
「鈴木?」
「もうそろそろこっちに着く頃じゃないか。史生、いい加減にしろ」
鈴木に一喝されても、史生は陰気な視線で周囲をじろりと見回すだけで、一言も発しようとはしない。
「ひどいです、真幸さん。せっかくいいとこ見せようと思ったのに」
「お前が怪我でもしたらどうする? 冗談じゃない。鈴木にそこまでする義理は無いぞ、俺は」
「成程、俺なら怪我してもいいってか? 今度奢らせるぞ」
痴話喧嘩を始める二人に、ヒロが突っ込んだ。
「それは俺が持とう」
冷たい声が背後から掛かって、そこにいたヒロ以外の全員が硬直する。特に鈴木は聞き覚えのありすぎる声に振り向くことすら出来ない。
「何かやってるとは思ってたが。そんなに俺は信用出来ないか」
固まったままの鈴木の身体が温かな腕に抱きこまれた。その腕の暖かさに、鈴木は脱力してしまった。
「史生が何するか判らなかった……、怖くて…」
「判った。それ以上、何も言うな」
渥美がしっかりと鈴木の身体を抱きとめる。それを見た史生が猛然と暴れだし、思わずヒロが腕を外した。ように見えた。
向ってくる史生から、渥美を庇うように鈴木が一歩踏み出す。それを渥美が引き戻そうと腕を伸ばした。
その前に、さっと少女が立ちはだかる。
「歩美。下はコンクリートだ。叩きつけるな」
「はい、隆大センセ」
ヒロに向って少女が軽く手を上げた。身体がふっと沈む。
「どっせぇー!」
少女とは思えない、気合の入った声が響いた。かと思うと、ふわりと史生の身体が浮き上がる。見事な一本背負いだ。
史生はさすがにショックと痛みで立ち上がれないらしい。駐車場の床に寝転んだまま、呆然としていた。
「よーし、歩美。よくやった」
「でしょ? ね、ご褒美にセンセのカレシ、一日貸してね」
「はぁ? 何で俺がお前にそんな褒美をやらなきゃいけないんだよ。お前が勝手に付いて来たんだろ」
大人気ない言い争いに、周囲の連中が苦笑いを浮かべる。
「おい、真幸。お前の頼みなんだから、お前が付き合ってやれよ」
「嫌です。真幸さんは貸しません」
宮川が口を開くよりも先に、上総ががばりと宮川に抱きついた。
「え~、あっちのオジサンも綺麗だけど、歩美の好みじゃなーい」
オジサン扱いに、周囲の連中がますます苦い笑みを浮かべる。
「第一、お前彼氏いんじゃねーか」
「無理無理。同級生だもん。子供のデートじゃ嫌なの!」
どうやら、歩美が欲しいのは、女の子が夢見るような完璧なデートらしい。
「センセのカレシなら、絶対に友達に自慢できるもん!」
捕まえてくれた歩美に感謝を示すべきだろうかと、渥美が踏み出そうとするのを、鈴木が止めた。
「駄目だ。お前は俺の、なんだから」
天にも昇る心地で、渥美は鈴木の言葉を噛み締める。
「義彦」
鈴木の実家からの迎えが来るまで、後少し。
歩美と言い争うヒロの声は、何時果てるともなく続いていた。

<おわり>

大人気ないひとたちの可愛い嫉妬でした。諦めて佐伯貸すしかないんじゃないかな。
歩美は書いてて大変たのしい。
とりあえず、春に文庫本発行で春イベントは一人で「渥美×鈴木」祭り状態でした。

夏イベントは新刊「メガネの向こう」にちなんだ無料配布です。


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