スポンサーサイト 

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
*Edit TB(-) | CO(-) 


一歩づつ・前編<水の魔方陣・焔の剣番外> 

レイサリオの学校編。リベアがまだ生きていた頃です。


「レイ・アーバンです」
レイサリオ・アーバン・コントラは真っ直ぐに前を見て、自己紹介をした。
ティアンナでは街の学校は身分や年齢に関わらず、誰しもが学べる場だ。つまり比較的裕福では無い人間が多い。殆どが城下の職人や小売商の子供たち、もしくは働きに来た出稼ぎの年少の田舎モノたちだ。もちろん、大人でも構わないのだが、やはり学びに来るものは少なかった。
その中で、レイは己が異質であろうことは心得ている。それは魔術師独特の紫紺の瞳の所為ばかりではない。幼い頃の離宮育ちは、やはり物腰にあらわれる。それに養父であるリベアは、子供に金銭的な不自由を感じさせるような男ではなかった。
値踏みをするような視線に、臆することなくレイは教室をぐるりと見渡す。
「見ての通りの魔術師見習いです。よろしくお願いします」
「君は背が高いから、右の一番後ろの席に」
教師の指示に従い席へと歩いていく間、突き刺さるような視線を投げてくる相手がいることに、レイは気が付いた。
小奇麗な服装をしているところを見ると、それなりに儲けている小売商の子息だろう。レイよりも年上で、体格も良い。不服そうな視線を投げつけてくるのは不快だが、だからといって睨み返す訳にも行かない。
大人しそうな顔ではあるが、レイを育てたのは傲岸不遜な蒼のソルフェースと、田舎猟師の息子で口の悪いリベアだし、周囲の魔術師も三癖も四癖もある連中だ。外見通りに大人しく育つ筈も無い。
そんなレイの内心が伝わったのか、それとも視線の主の所為か、隣に座った少年が心配そうな顔をしているのに、レイはにっこりと微笑んで見せた。

「学校、ですか?」
ある日、リベアがそんなことを言い出した。
「お前は離宮と西の宮しか知らない。俺は、お前に普通の生活を知って欲しい」
生真面目な父親は、このまま何も知らずに魔術師になることを心配しているのだろうと言う事は、レイにも充分に想像が付く。
いくら魔術師として優秀でも、レイは未だに子供にしか過ぎない。
学校へ行くに当たって、どちらを隠すのかというのも話し合った。魔術師であることと、リベア・コントラの息子であること。双方を隠すには嘘を吐き通す必要がある。それは学校側にもレイ自身にも負担が掛かるということで、魔術師であることを公表することとした。
「えっと、レイでいいのかな?」
隣に座った子が聞いてくるのに、レイはうなずいた。魔術師には真名を名乗る習慣が無いことを気にしているのだろう。
「うん。君は?」
「僕はリベア・ラーセン。レイは魔術師になるんだよね。何で街の学校に来たの?」
リベアという名を誇らしげに名乗るのは、英雄と同じ名であるからだろう。レイよりも年齢が下ならば、親が英雄にちなんで付けたのかもしれない。
「リベアか、良い名だね。父が西の宮だけで学んでいては考え方が偏ると言うんだ。師匠もそうしろと薦めてくれたし」
西の宮にも学ぶ施設はある。魔術師見習いは年少者も多いからだ。もちろん、今までレイもそこで学んでいた。だが、そこで教えてくれるのは魔術の知識や歴史。自給自足のやり方などで、街の人々がどう過ごしているかは判らない。
「何だ、結局西の宮の落ちこぼれかよ」
悪意の塊の呟きがあたりに響き渡り、ラーセンがびくりと身を竦ませるが、レイは聞こえないフリをした。常に晒される魔術師たちの呪のこもっていそうな嫌味に比べれば、可愛いものだ。
「父が街に家を借りてくれたんだ。そのうち、遊びにおいでよ」
「え? いいの?」
何事も無かったかのように会話を続けるレイに、ラーセンはちらちらと呟いた生徒に視線を走らせるが、それでも新しい魔術師の友人の家という誘惑には心が躍る。
「いいよ。どうせ、父はずっと忙しくて塔にいるに決まってるしね」
「塔! 何処の?」
城下にあるそれぞれの騎士団の砦は『塔』と呼ばれる。近衛・第一から第四・そして国境の六つの騎士団が五つの砦を所有している。
「第一騎士団」
誇らしげな声は良く通った。生真面目すぎるくらいのリベアはきっと最小限しか家には帰ってこないに違いない。養子のために家を借り学ぶための環境を用意しても、結局は仕事を選んでしまう。損な性分だが、そんな父をレイは誇りに思いこそすれ、不満は無かった。
「第一! じゃあ、リベアさまに会ったことある?」
「うん。あるよ。俺の師匠は蒼のソルフェースだから」
「えぇ?」
周囲の生徒たちが嬌声を上げる。
「うっそくせぇ!」
そこへ不服そうな視線の主が声を発した。
「蒼のソルフェースの弟子がこんな場所に来るもんか。知らないと思っていい加減なこと言いやがって!」
「蒼の弟子なら何?」
「蒼のソルフェースの弟子が落ちこぼれな訳無いだろう」
「俺に対する評価は今は聞き流そう。君、名前は?」
あくまで冷静に流されて、相手が鼻じろんだ。
「ゲミルだよ。嘘つき」
「ゲミル。俺は水の魔術師だ。力が強いか弱いかは関係なく、俺の師匠は蒼だ。他に水の属性の魔術師がいない。それと」
レイはぐっと相手を睨みつける。聞こえよがしな嫌味であれば聞き流すが、今は一対一だ。
「喧嘩売るつもりなら買うぜ?」
レイの端正な顔立ちに冷たい笑みが浮かぶ。地味な顔立ちには凄みを利かせるよりも効くと、暁のヤコニール直伝の笑みだ。
呑まれたようにゲミルが黙る。それを確認して、レイは表情をころりと変えた。
「ゲミルも来る?」
冷たい表情が嘘のように、邪気無くにっこりと微笑まれて、ゲミルは胡散臭そうにレイを伺うが、その表情からは読み取れるモノは無い。
「行ってやってもいい」
根負けという感じで呟くゲミルに、横でやり取りを見ていたラーセンが舌を巻いた。この転入生は結構やり手かもしれないと。

「ケッ、小せえ家」
「まぁまぁ」
農家を改装した家に、ゲミルが正直な感想を述べる。それをラーセンが宥めたが、レイはケラケラと声を立てて笑った。
「父さんは剣一本で今の地位を手に入れた人だしね。質実剛健を絵に描いたらこうなるんじゃない?って感じ」
余分なものなど無いと言う。
「あれ?」
出掛けに掛けた筈の鍵が開いていた。レイは手で二人を制する。
指先で中空に魔方陣を描いた。魔術は呪言を唱えなければ発動しない。故に、発動の切欠を先に与えておくのだ。
短い呪で中空へあらわれた水の渦に、二人が目を見張った。だが、それをレイはすぐに打ち消す。家の中にある波動に気付いたからだ。
「ただいま帰りました」
ドアを開いて挨拶をするレイに、二人が続く。部屋の中にいたのは、テーブルに座って茶を啜っている波打つ長い黒髪の美女と、台所に向っている銀髪の男だ。魔術師には秀麗な美貌を持つものが多いが、中でもこの男女は際立っていた。レイの顔は端正ではあるが、目の前の男女の華やかさに比べると、非常に地味だ。
「よう。もうダチを連れてきたのか。優秀優秀」
「おかえり、レイ」
茶化すような口調の男と、ふんぞり返った女の姿に、レイは頭を抱える。

NEXT

FC2 Blog Ranking
完結小説一覧
スポンサーサイト
*Edit TB(-) | CO(-) 


Back      Next

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。