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そして、ふたたび<水の魔方陣・焔の剣番外> 

リベアの死亡後。もしかすると百年くらい。

【そして、ふたたび】

「あら、暁さま。お一人ですの?」
馴染みの娼館の二階。ソファに転がったヤコニールに声を掛けたのは、この娼館の女主人だ。
「ああ。呑まされすぎた」
少女めいた顔のヤコニールだが、子供に見えるだけで年は重ねているし、それなりの経験もある。特に、ここはヤコニールが魔術師と知っても、特別な扱いもしなければ、逆に何かを求めたりもしない。
性急に女をあてがわれる事もないところがヤコニールは気に入っている。ただ、呑んで騒ぎたい晩もあるのだ。魔術師の宮では羽目を外すわけにはいかない。
「今夜はお気に入りの姑はおりませんの?」
「強いて抱きたい気分じゃないな」
ヤコニールの額に冷たい女主人の手が触れた。
「嫌だな。子ども扱いかい?」
「男の方は皆様子供でございますよ。女に甘えたがる」
クスクスと女主人が笑う。少なくとも男としては見られているらしい。ヤコニールが女主人の長い髪を優しく引いた。引かれるままに唇が重なる。
唇を離し、身を起こしたヤコニールが、このままこの女を抱いてもいいかと思い始めたとき、階下で何かを倒す音が響いた。
女主人が手すりに駆け寄る。吹き抜けの下は待合を兼ねた酒場だ。酒と女がいる以上、騒ぎになるのは珍しいことではないが、大きなトラブルに発展するようなことがあっては困るのだ。
女主人の背後から、中心にいる男の姿を見たヤコニールが深い溜息を吐く。
銀の長い髪と尊大な態度。優美な肢体をふんぞり返らせた男の膝の上にはしなだれかかる様に寄り添う女。しかもかなりの上質な女だ。
それを怒鳴りつけている粗野な男。
「やれやれ。馬鹿がいる」
どっちが先に手を出したかは不明だが、自分の相手が悪すぎることさえ判らないとは。
「暁さま。お止めくださいますの?」
「ああ。絡んでいる方を、ね」
手すりに身を乗り出したヤコニールが、反動も付けずにひらりと階下へ降り立つ。銀髪の男はニヤニヤとした顔でそれを見ていた。
「最初から任せる気ですか?」
「俺がひと暴れしていいんならやるぞ」
「止めてください。ここは私のお気に入りの店なんですから」
ヤコニールがぴしゃりと言い放つのに、鼻じろんだのは目の前の相手だ。仲裁に入ったらしいのは、寄りによって少女のような見映えの子供だ。
「お嬢ちゃん。退きな。怪我するぜ」
「退いたら、怪我どころじゃ済まないので。とりあえず、その汚い面でフラれたのは判りましたから、女の姑も嫌がってるし、引いてもらえませんかね」
「何だとぉ」
ヤコニールが立っているのは男の正面だ。魔術師のローブは付けていないが、この位置なら瞳の色は判る筈だ。なのに、まだ魔術師を相手にしているとは解っていないらしい。おそらく、丸腰の少女のような少年だと言うので、何時でも片付けられるとでも思っているのだろう。
この様子では、今まで相手にしていた男の技量など量れてもいないに違いない。
服装からは騎士であるらしいのは見て取れるが、剣の腕など大したものでは無いだろう。
「リベアさま。嘆かわしい限りですよ」
溜息と同時に吐かれた言葉の意味を解したのは、その場には銀髪の男のみだ。秀麗な眉が奇妙に歪んだ。
「誰かの助けなんぞ呼んだって無駄だ。何ならお嬢ちゃんが俺の相手してくれてもいいんだぜ」
どうやらヤコニールの可愛らしい顔に興味を示したらしい男に、ヤコニールは吐きそうになった。
「顔を洗って、も綺麗にはならなさそうな面構えなんで遠慮します」
「そんな口利けなくして、」
男の言葉が途中で消える。抜く手も見せないヤコニールの剣が喉元にあった。
「さっさと出て行くか、それともこのまま怪我をするか選べ。もっとも手元が狂って死ぬことになるかもしれないが」
「……」
言葉も無かった男の目つきが変ったのをヤコニールは見逃さなかった。
ひらりと身をかわすと、背後から襲いかかった柄の悪い男の腕が空を切る。
周囲を見回すと、数人の新手がヤコニールを取り囲んでいた。もっとも、第一騎士団で守護魔術師として、常に一線に立つヤコニールである。そんなことで怯む訳も無い。
「やれやれ。こんな場所で本気で剣を抜かなきゃいけないなんて」
馬鹿馬鹿しすぎて、重い溜息しか出ない。数を頼みに一斉に襲い掛かってくる男たちを、ヤコニールは一人、また一人と切り捨てる。
常に無く、動きが重いのは、命を奪うわけには行かないからだ。かといって、腕を傷つける程度では何度も襲い掛かってくる。
「この野郎!」
真っ直ぐに剣を突き出す男を、懐へ向う形で避けたとき、相手が目の前で倒れた。
「大丈夫か?」
「はい。貴方は?」
ヤコニールに背中を合わせ、男たちを見据えた相手は大柄で、大振りな幅広の剣を持っていた。大柄な身体にモノを言わせ、叩き付けるように剣を使う。
「この辺りの用心棒みたいなもんだ。ベルゼと呼べ」
「私は暁」
「魔術師か。道理で強い」
「殺さないのは苦手です。お任せしても?」
「ああ。いいぞ、一人のほうが思いっきりやれる。逃したのは頼む」
「はい」
ヤコニールは背中を離し、ベルゼの動きを追った。
大柄な身体。年は三十路になるかどうかと言うところか。あの体格に任せて幅広の剣で殴りつけられれば、昏倒は間違いない。
ヤコニールは胸が高鳴るのを抑え切れなかった。
顔つきも体格も戦い方も。何一つ似たところは無い。だが、背中を合わせた瞬間に感じ取った波動は、まさしく。
それまで静観していた銀髪の男が立ち上がった。
ベルゼの前に、十人近くいた筈の男たちは次から次へと倒されていく。
もう適わないと見た三人の男たちが逃れようと走り出した。
その前に銀髪の男が立ちはだかる。すらりと剣を抜いたかと思うと、男たちはその場に倒れ伏していた。
「おー。すまんな。お前も魔術師か」
「そうだ。ソルという。どうだ、一杯やらないか。奢るぞ。気に入った」
倒れ伏した男たちを店の外へ放り出したベルゼの肩をソルフェースが抱く。突然、ソルフェースに放り出された娼姑は、唖然とそれを見送るのみだ。
「いいのか?」
こんな場所の用心棒をやるだけあって、娼姑たちの気持ちを慮っているらしいベルゼに、ソルフェースはニヤリと笑う。
「何、構わん。女はいくらでもいる」
「モテそうな男は言う事が違うな。ありがたくいただくとしよう」
ベルゼの台詞に、思わず噴出しそうになったヤコニールが口元を押さえた。
「お前も来るか。暁」
「いえ、遠慮します。馬に蹴られたくない」
誘いかけられたヤコニールはにっこりと笑って拒絶した。
「そうだな。いい女と上手くやれよ」
女主人の方へと戻るヤコニールに、恋路を邪魔して『馬に蹴られる』のが自分だと解釈したらしいベルゼは、能天気に手を振る。
「そうですね。貴方も」
その言葉にどれだけの感慨が篭っていたか、ベルゼは知らない。
蒼のソルフェースに恋路を告げられ、青くなったベルゼがヤコニールを訪ねてくるまでには、まだ数ヶ月の時が必要だった。

<おわり>

これにて、「水の魔方陣・焔の剣」は終了です。
脇の話はたくさんありますが、リベアとソルフェースの話は、一旦幕を引かせていただきます。
ありがとうございました!

番外<上質の時間>2014新年SS祭り作品

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