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ワンダーランドの過ごし方<中編>有須inワンダーランド! 

「由斗が遊びに行きたいと言ったのに、お前はまったく家に帰ってきてなかったらしいな」
弟にとってはただで泊まれる便利な宿泊所だったのだろう。連絡も入れなかったのにと蔵斗は思ったが、どうせそんな言葉は無視されるに決まっていると黙って下を向いたきりだ。
父も兄も、弟の我侭には甘い。
「おい、有須。引越し、どうするんだ? もう引き払ってるんだろ?」
割り込むように相馬が話し掛けた。多分、この調子では蔵斗は一人でずっと黙ったままで埒が明かないだろう。
「引越し? お前、俺たちに黙ってそんなことする気でいたのか?」
「ちょっと待ってください。とりあえず、部屋へ入りましょう。アリス、いいね?」
兄と父の双方から叱責を受けながら、蔵斗は下を向いて黙ったままだ。見かねた雅が蔵斗を促して部屋へと入らせる。
狭いワンルームは男が6人では足の踏み場も無い。黙って下を向いたままの蔵斗を雅は窓際へと座らせた。
「大丈夫。私たちがいるわ。顔を上げなさい、アリス」
耳元へ囁くと、蔵斗は漸く顔を上げる。
「雅さん」
「とりあえず、本と着替えだね。それは箱に詰めるから、その間にきちんと話しなさい」
蔵斗の前に小さなテーブルを置き、蔵斗の父と兄弟を向かい側に促した。
「引越し中なので、お茶もありませんけれど」
そういい置いて雅は立ち上がる。
「有須。着替え、このケースの中だけか?」
「うん。それとその辺に掛けてある奴で全部。ありがとう、相馬」
「おう」
指示を出すと、相馬と雅が仲良く並んで衣装ケースの中を整理し始めた。それを確認して、蔵斗は父たちに向き直る。
「蔵斗。お前、何故いきなり引越しなんか」
「一緒に住みたい人がいるから」
父親の疑問に、蔵斗は漸く顔を上げて答えた。
「何だ。それで帰ってきてなかったのか」
「うん」
理由が解って、あっさりとした答えを返したのは兄である。
「連絡先くらい知らせればいいだろう。お前はいつもそうだ」
「俺の携帯。母さんには知らせてあるけど」
どうせ、見てもいないのだろう。それでもぶちぶちと文句を言う父親に、蔵斗は反論を試みる。
「何時携帯なんか買ったんだ」
「こっち来てすぐ。電話引くの面倒だったから」
案の定、父親は蔵斗に落ち度があると言わんばかりだ。由斗が来たときに蔵斗がいなかった事がご不満らしい。何を言っても責められているような気がして、蔵斗の声はどんどん小さくなる。
「やぁ、有須。お邪魔かな?」
ドアが開いて背の高くガタイのいい外国人があらわれたことに、蔵斗の家族がぎょっとした表情を浮かべる。だが、蔵斗はそんな家族の様子すら目に入っていない。
「早川さん。すみません、今日は引越しで」
蔵斗を受け入れてくれる相手に、蔵斗はほっとして立ち上がった。正直、空気が重かったのだ。
「知っているよ。後の掃除を引き受けようかと思ったんだ。片付けの業者も待たせてある」
「創玄は僕が呼んだんだよ。アリスじゃ遠慮するだろ」
「雅さん。ありがとうございます」
皆が気を使ってくれることが単純に蔵斗には嬉しいことだ。
「といっても、取り込み中のようだね。今日中にはここは出なければいけないと聞いたが」
背後にいる蔵斗の家族に視線を流すと、蔵斗が視線を彷徨わせる。最近あまり見なくなった表情に、早川の心が痛んだ。
「どうだろうか。話があるようなら、先に引越しを終えては? その間、そちらは私の店に来ていただくのでは、不味いかな」
「それは……」
早川の申し出は有難い。正直、頑固な父親は納得しなければ帰ってはくれないだろう。
「幸い店は開店前だ。時間も迫っていることだし、うちはお客が一組増えたと思えばいいことだ。料金はきちんと有須から貰うから」
渋る蔵斗の背中を最後の言葉が押した。それならば早川のレストランを使う口実になる。
「父さん。悪いけど、先に飯食っててくれるかな。俺、片付けてからそっち行くから」
「解った。後できちんと来いよ」
何か言いたさそうな父親を兄が制止する。
「ほら、父さん、由斗。お世話になろう。まさか、今から引っ越し止めろって訳にはいかないだろう」
「それでは旦那様。わたくしがこの後は引き受けます」
家族を急きたてて出てく兄と入れ替わりに、入ってきたのは細身のレギンズの似合う大人しやかな女性だ。何処かでみたような気がして考え込んだ蔵斗は、すぐにその面影を見出した。
「早川さんのメイドさん?」
「はい。基子でございます。後片付けはお任せください」
にっこりと優しげに笑う顔に、蔵斗はほっと息を吐く。
正直、蔵斗は家族が苦手だ。子供の頃から周囲の子供たちよりも大柄で力の強かった蔵斗は、揉め事が起こると常に我慢を強いられた。悪くもないことで一方的に謝れと言われても、頑固な性質の蔵斗にうなずくことは出来なかった。すると、何故謝れないと父親に殴られる。母や兄は庇ってはくれたが、それでも信じてくれていた訳では無い。
蔵斗にとって優しい身内というのは、時折会う祖父母のことだ。
家族が目の前から消えたことで、萎縮していた蔵斗の身体がようやく動き出す。せっかく皆が手伝いに来てくれたのだ。さっさと引越しを終わらせようと蔵斗は顔を上げる。早く美作に会いたかった。

「あの、早川さんは蔵斗とはどういう」
早川が車を走らせ始めたところで、蔵斗の兄・壱斗が口に出した。蔵斗はあの外見と無口さだ。自分から知り合いを作るとは考えづらい。だが、先ほどの蔵斗の様子を見れば、親しい間柄なのは間違いないだろう。
「僕は有須が勤めている店の常連で、有須は僕のレストランのお客様ですよ」
「お客様相手に呼び捨てかよ」
朗らかに答えた早川に、それまでむっすりと黙りこくっていた由斗が言葉を発したが、それには明らかな棘が含まれている。
「本当は皆は『アリス』って呼んでいるんだ。僕の店の入ったビルはワンダーランドって言われていて、それに掛けて。ただ、その呼び名はアリスはあんまり好きじゃないみたいでね」
刺さった棘を綺麗に無視して早川は言葉を続けた。
「いいお子さんですよね。今どき珍しいくらい真っ直ぐで、優しすぎるくらいだ。お父さんもご自慢でしょう?」
そ知らぬ顔で続けられた言葉に蔵斗の父親はぐっと詰まった。父親にとって、蔵斗は持て余していた乱暴モノだ。
「蔵斗を可愛がってくださっているんですね」
壱斗の嬉しげな問い掛けに、早川の顔に自然な笑みが浮かぶ。
「うちのビルのオーナーたちは皆、お気に入りです。正直、金や容姿に群がる連中は多いが、好意に甘える事も無く、ああ遠慮深いと返って何かしてやりたくなる」
「蔵斗兄さんは自分が判ってるんだろ」
由斗の声音に馬鹿にする響きを感じて、早川はいよいよ口元に浮かんだ笑みを深くした。子供らしい嫉妬だ。
悪意の篭った言葉に、壱斗の表情が暗くなる。
これは蔵斗のコンプレックスの根は深そうだと、早川は家族それぞれの表情を盗み見ながら考えていた。

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