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傭兵と吟遊詩人<1> 

傭兵ヴェルハは乗合馬車で旅の楽士フォゼラと出会う。
自分の歌に気持ちのいい旋律を乗せてくれる相手が気に入り、共に旅がしたいと願うが。
伝説を作る男と、伝説を唄う男が共に旅をするその旅程。

【傭兵と吟遊詩人】
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<17> <18> <19>完
後日談<安らぎの歌> <戦う覚悟> 

ヴェルハは、乗合馬車の中で、何をするでもなく外を眺めていた。
長い黒髪と、伏目がちな黒い瞳は、優美な肢体とあいまって、ひどく人目を引いたが、本人はいたって無頓着だ。
気の進まない仕事が待ち受けている所為もあって、動作は物憂げで、それがまた風情をかもし出すような、甘い顔立ちである。
本当ならば、乗馬を駆ることも出来る技量と、金銭を兼ね備えてはいるが、さして乗り心地がいいとは云えない乗合馬車を選んだのも、待ち受ける仕事に嫌気がさしている所為だった。
いくつかの乗馬が馬車の横を駆け抜ける。
街道沿いに植えられた木々に、花が揺れていた。
見事な風景に、馬車の中に華やいだ空気が流れる。ヴェルハは知らず、春の歌を口ずさんでいた。
と、小声で口ずさんでいたそれに、三弦の響きが重なる。
気持ちの良い旋律を奏でるそれに、ヴェルハの歌声も、段々と朗々としたものに変わっていった。
高く低く、幻想的なくらい魅力的な響きの吟じ手を見ると、意外にもガタイのいい男であった。無骨にさえ見える指が、抱え込んだ三弦を、かき鳴らす。
ヴェルハが旋律を遊ばせると、それに和する旋律を綺麗に乗せてきた。
素晴らしい技量と、魅惑的な旋律に酔うように歌い続ける。
歌い終わるのがもったいないとすら、ヴェルハは感じていた。
素晴らしい旋律に乗せられるように歌い終わると、周囲から拍手と感嘆が漏れる。
ヴェルハはさっそく、旋律の主の隣へと座り込んだ。
「ありがとう。気持ちよく歌わせてもらった」
ヴェルハが礼を述べるのに、男は気恥ずかしげに目を伏せる。
「いや。いい声だったので、音を添えたくなった。それだけだ」
金茶の髪を短く刈った男の腰には、幅広の剣がある。刺す切る叩く、全ての用途に用いられる実用一辺倒のそれを見ても、旅慣れていることは確かだ。
なめし皮を張った三弦は、銀の糸が輝いていて、よく手入れされている。
「楽士さんか?」
「ああ」
「何処まで? 俺はドーリアに行く途中なんだが」
「俺もドーリアだ。栄えているらしいから、俺のような旅の楽士が稼げるんじゃないかと思ってな」
人好きのする笑顔で、楽士が笑う。そろそろ中年になろうかという年のようだが、その笑顔は少年のようだ。
「アンタなら稼げるよ。素晴らしい音色だった。俺はヴェルハ。アンタは?」
ヴェルハはすっかり旅の楽士が気に入っていた。
「俺は、フォゼラだ」

乗り合い馬車を乗り継ぐ中で、幾度か二人で歌った。
ヴェルハが歌うだけではなく、フォゼラが三弦を奏でながら、歌うこともあった。
演奏だけではなく、声も良かった。中にはヴェルハの知らない曲もあった。
「たくさんの曲を知っているんだな。シュエルドにでもいたことがあるのか?」
水の都シュエルドは、同時に芸術の都でもある。芸を磨くものや、絵描きや彫刻家などがひしめいている。
「いや、俺が作った曲だ」
「フォゼラは、吟遊詩人なのか!」
芸人だと思っていた相手の、新たな才能に、ヴェルハが目を輝かせる。楽士は演奏するだけだが、自分で詩を作り、曲を作る吟遊詩人は芸術家だ。
「拾われた小屋で、演奏する曲を作っていただけだよ。吟遊詩人なんてものじゃない」
「それでも、すごい」
無骨な割りに、繊細な旋律を奏でる曲の数々が、この男が生み出していたのだという事実に、ヴェルハは素直に感嘆した。
ドーリアへと着く頃には、路銀には多すぎるほどの金額が、二人の懐を暖めていた。
「俺は仕事があるんだ。数日、そっちへ行くが、フォゼラはどうする?」
すっかりと、二人して旅をするのが楽しくなったヴェルハは、別れ難くなっていた。
「俺はしばらく街で歌おうかと思っている。ヴェルハのお陰で路銀も溜まったし、しばらくはゆっくり出来そうだ」
「じゃ、広場へ行けば逢えるな」
「ああ」
手を上げて、ヴェルハは身を翻す。ぐずぐずしていると、未練が出るだけだ。
「さて、憂鬱な仕事に向かうとするか」
一人ごちたヴェルハの足は、街外れの屋敷へと向かった。

「ヴェルハ。随分とごゆっくりだったじゃねぇか」
「あんまり好きなタイプじゃ無いんでね」
出遅れたことは確かだが、契約を済ませた訳でもなかった。門前払いでもかまわない気で出向いたのだが、屋敷の主人は、ヴェルハの名を聞くとすんなりと契約を結んだ。
「売れっ子は違うねぇ」
口笛を吹いたのは、昔なじみのライジャだ。周囲に目を移すと、ライジャと同じようなタイプの男たちが数名集まっている。
皆、思い思いの武器を手にし、それを使うのに充分な体格と、膂力を備えていそうな男たちだ。
声を掛けるまでの仲では無いが、見知った顔もいくつかある。
どの男たちも、互いの実力を推し量り、伺うような視線を交わすのは、いつものことだ。
ヴェルハもひとしきりの観察はしたが、それだけだ。
目を閉じて、別れたばかりの相手を思う。
憂鬱な仕事など、さっさと片付けて、また歌いながら旅をしたいと思った。

寝ているように瞳を閉じていたヴェルハが、剣を抜き放つ。
「お客さんの来訪だ。丁寧におもてなししてやらんとな」
すぐ後ろでふざけたことを抜かす昔なじみに、ちらりと目線をやる。それだけで通じる筈だ。
ヴェルハは窓を蹴破って外へと飛び出す。
あてがわれた部屋は、屋敷の裏門を見下ろせる位置だ。
裏門を破った侵入者は二十名ほど。いずれも剣呑な雰囲気と血の匂いを漂わせた男たち。
長身ではあるものの、男たちに比べると頼りなげにさえ見える体格のヴェルハを、組みし易いと見たのか、一斉に襲い掛かる。
次の瞬間。
耳障りなほどの絶叫が闇の中に響き渡った。
二人の男が、耳と腕を抑えてのたうち回っている。
遅れて、どさりと腕が落ちてきた。
すれ違いざまに、ヴェルハの剣に腕と耳を飛ばされたのだと、男たちが理解した時には、ヴェルハは門を背に男たちに対峙していた。
「あーあ。もう半分片付いてんじゃねーか」
一瞬で退路を絶たれ、戦意を失いつつある男たちに、のんびりした声が掛かる。
遅れて到着したのはライジャ。そしてライジャの後を追って、部屋にいた連中が走ってきた。
全員を倒さなければ、自分たちの明日は無いのだ。
侵入者たちは、死に物狂いでライジャたちに向かって剣を振り上げた。
ヴェルハは、血濡れを剣を振り払うと、門に背をもたせ掛ける。
「楽してんじゃねーって!」
文句をいいつつも楽しげにライジャが剣を振るう。
一瞬で勝敗を決したのだから、それ以上のヴェルハの仕事は、退路を開く馬鹿を始末するだけだ。
目を閉じて、気配だけを追う。
一人ひとり屠られて行くのを感じながら、ヴェルハが歌いだした。
葬送の歌。棺を送り出す時に歌われるレクイエム。
それは戦場と化した庭に、朗々と響き渡り、血払いをしただけの剣を握ったまま、門に持たれかかるヴェルハを、死神のように見せていた。
黒く長い髪が風になびく。
侵入者の一人が、奇声を上げて、ヴェルハに向かって戦斧を振り上げた。
ごとりと音がして、戦斧を持った腕が転がる。
ヴェルハは一振りなぎ払っただけだ。
絶叫の形になった唇は、その叫びを上げることはない。
返す刀で、ヴェルハの刃は男の喉を引き裂いていた。
「うるせえ。歌の邪魔だ」
ぼそりとつぶやいて、ヴェルハは再び門に背をもたせ掛ける。
「あーあ。可哀相に。相手が悪かったことも判んねーままだったな」
ライジャが笑いながら近づいてきた。大柄な身体に似合いの幅広の重い剣を肩に担いだままだ。
「終わりだな」
目を上げると、侵入者たちはもう数人しか残っていない。
すでに迎えうった自分たちの方が人数が多いくらいだ。ヴェルハは血糊をぬぐって剣を納めた。
今夜はもう抜くことは無い筈だ。

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