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身勝手な男<5> 

「よう!」
店に入ってきた水上に手を上げる。
「久しぶりだな、お前と呑むのも」
「結婚してから付き合いが悪くなったのは、お前の方だろうが」
地元の大衆居酒屋。値段の割には酒も肴も美味いので、気に入っている。大学時代からの溜まり場だ。
中小企業の部長に奢って貰うのに、適度な店でもある。
「久しぶりだよな。ここ」
「大学の頃は、皆でよく来たじゃないか」
社長自身がそうだからか、うちの会社にはとにかく同じ城南工業大学の出身者が多い。特に、管理職は大半がそうだ。
「添田部長の音頭でな。相変わらず合コン好きだよな。あの人」
「合コンが好きなのか、それでくっつく連中の世話が好きなのかは謎だがな」
呑み会という名の、親睦会だったり、合コンだったり、とにかく人との付き合いに酒は必須だと考える功治先輩のおおらかな考え方には、俺も大分助けてもらったものだ。
「そう云えば、この間、珍しく佐伯が来てたぜ」
「佐伯?」
「ああ。アイツが呑み会来るなんて、新歓以来じゃないかなんて云われてたけどな」
枝豆を口に放り込んでいた水上の動きが止まる。
「久世は、佐伯の同期だっけ?」
「ああ」
「あいつもなぁ。今年は主任昇進が決まってたんだけどなぁ」
「飛ばされたとか、笑ってたが…」
「へ???」
水上が目を見開いた。どうでもいいが、その間の抜けた相槌どうにかしろよ。三十三だぞ、俺ら。しかも、お前一児の父だろ?
「そんなことまで話してるのかぁ???」
「んな驚くようなことかよ。あいつ、愛想の無い奴かと思ってたら、親しくなったら結構しゃべりやがるのな」
「そんなこと無いって。あいつ、いつもは口利けないんじゃないかと思うくらいだぞ。仕事以外は」
俺の前でだけ、か。一応、口説いているんだと云ってたしな。
「じゃ、仕事の話のついでだろう。ココんとこいつも渡部のフォローで総務来てるし」
「渡部は仕方が無いんだ。佐伯の抜けた分、工藤と二人で請け負ってるからな。正直、俺もアイツには荷が克ちすぎるとは思っている」
「じゃねぇだろ。野郎、態と佐伯の客、サボタージュしてるぜ。外から見てはっきりと判るくらいだ。お前から見れば、一目瞭然って奴じゃないのか?」
最近、総務の連中も気付いてる。
態と発注を遅くしたり、書類を廻さなかったり、伝言を忘れたりする。しかも、佐伯の元顧客の分を。その都度、佐伯が走り回っているのを何度も目にすれば、嫌でも気付くと云うものだ。只でさえ、オンナは聡い。営業事務のお局も、明らかに『誰も注意出来ないの?』とでも云いたげだったじゃないか。
「まぁな。佐伯の顧客は、正直佐伯が開拓したところが多くてな。佐伯じゃなければ嫌がる担当も多い。それも渡部が嫌がる原因なんだろうが」
「ソレにしたって露骨すぎるぜ。只でさえ、渡部の書類は遅いので有名なんだ。そのうち、渡部の仕事、ストるオンナ出てくるぞ」
「正直、どっちか辞めてほしいと思ってるよ」
息を吐くように水上が云った。
「管理職の本音かよ」
戦力としちゃ、渡部にとっとと辞めろと云いたいが、そうはいかないのが会社と云うものだ。
「なぁ、ここだけの話にしておいてくれるか?」
水上が顔を寄せてくる。いかにも、密談と云った風だ。
「佐伯に縁談があったんだ」
「断ったんだろ。相手、誰だよ?」
原因はソレか。不味いのは相手か? それとも紹介者か?
「お前は超能力者か!」
「んな訳あるか! 断ったから飛ばされてんだろうが!」
こいつは昔っから、推察の出来ない奴だった。ひたすら、正直で誠実。おそらく、社長の親戚筋と結婚しなければ、三十代で部長などと云う要職には就けなかった筈だ。
「あ、そーか。藤井産業の社長の姪。専務が乗り気でな」
まぁ、断るだろう。俺に勃つようじゃ、オンナは抱けない。
「それで、なんでまた……?」
藤井産業は、確かに大口の取引先だが、縁談断ったくらいで、どうこうなるような間柄じゃないだろう。担当換えしてそれで終わりじゃないのか?
「社長が対抗して、うちの娘を。とか云いだしてな。それで専務も意地になって引かなくなって」
社長と専務は兄弟だが、仲が悪い。というか、対抗意識が強すぎるんだろう。専務の娘と結婚した水上に、それなりの立場を用意しなければならなかったからには、次は自分の番と云う訳だ。
だが、そんなものに巻き込まれる方はたまったもんじゃない。
「他の連中は面白くないだろうな。しかも、アイツはまったく興味ないんだろ?」
「良く判るな」
判らん方がどうかしてると思うが、そこは水上だから仕方が無い。
「あのなぁ…。興味が少しでもあれば、社長の娘だろうが、藤井の姪だろうが付き合ってるだろう。実際、仕事に支障でてるんだし」
「二人とも美人だし、年の頃は二十代半ばで、有名女子大出の才媛。文句の付けようの無い縁談だと思うんだがな」
「佐伯にその気が無いんならどうしようもないだろう。それより、社長と専務だ。今のままじゃ、営業部全体に良くないぞ」
多くのサラリーマンが意識するしないに関わらず、多かれ少なかれ、皆、認められる為に働いている。
長じては家族の為や、自分の為だったりするのだが、それの確立していない若い連中にとって、上司が認めてくれないと云うのは、結構なストレスになる。ましてや、男は社会性の強い動物だ。
「とりあえずの移動をさせたはいいが、客も未だに『佐伯』じゃ、若い渡部には面白くないだろう。しかし、露骨すぎる。そのうち、事務社員も『佐伯』と比べてどうだと云い出すぞ。悪循環だろうが」
「じゃ、どうしろって云うんだよ?」
酒を煽った水上が、お手上げと云ったポーズを取る。
「佐伯を諦めさせる理由でもあれば、云うこと無いんだがなぁ…」
「好きな女がいるとか、結婚できない事情があるとか、か?」
水上の云う『事情』を俺は知っているが、それを明らかにする勇気が佐伯にあるかどうか。
相手が社長と専務だけに、俺たちだけでは如何ともしがたい立場だった。


*これより先15禁。ご承知の上お進みください。「佐伯」
昔ながらの商店街独特の狭い路地を入ったところに俺の家はある。当然、明かりなど届く筈もない薄暗い家の前に佐伯は立っていた。
「遅かったな」
「まぁな」
ドアの前に立つ佐伯をどかして、鍵を差し込んだ。がちゃりと音がして扉が開く。
「どうした? 入らないのか?」
俺が靴を脱いでも、佐伯は狭い玄関に入って来ようとはしなかった
「いいのか?」
「訪ねて来たのはお前だろ? 何か話があったんじゃねぇ?」
俺が促して、やっと奴は靴を脱ぐ。
「シャワー浴びてくるから、コーヒー入れといてくれ」
何度も来ている佐伯は、既に勝手知ったるという奴だ。コーヒーのありかも、入れ方も、俺の好みも。
簡単に汗と酒の匂いを洗い流して、濡れた身体を拭くと、居間のテーブルに緊張した面持ちで座る佐伯の前に座り込んだ。
「誰と出掛けてた?」
「は?」
おいおい、お前は何時から俺のオトコになったよ? 一丁前に嫉妬しやがるのか? そのくせ視線は逸らしたままで、俺を見ようともしない。
「水上のおごり飯。この前の詫びだよ。お前だって知ってんだろ?」
「随分、親しそうだったよな。顔寄せ合ったりして……」
見てたのか、判りやすい奴だ。あれはお前のことを話してたんだと知ったら、どんな顔をするだろう。
「長い付き合いなんでな。アイツとは。かれこれ十五年になるかな」
含みを持たせて云うと、膝に置かれた手が震えていた。面白ぇ。正直者が。
「不倫だぞ」
「不倫? 誰と誰が?」
そこまで云われて、佐伯はようやく俺が奴をからかっていると気付いたらしい。
「お前…ッ!」
「ばーか。高校の同級生だよ。第一、そのケの無い奴は、さすがに俺には勃たないだろう」
さすがに三十年以上付き合ってきた顔と躯だ。魅力的とは程遠いことは解かっている。
「お前くらいだって。こんなガタイのでかい年食った男がいいなんて」
ニヤリと笑った俺の顔を抱え込むようにして、佐伯がキスしてきた。こいつ、ホントに上手いんだよ。
「じゃ、大人しく俺のになってくれよ」
吐息と共に囁かれる言葉は、いつも本気だ。だが、俺はオンナじゃないんだぜ?
「残念だな。俺は俺だけのモンだ。でも―――」
今夜、一緒に過ごすくらいはいいぜ――――。
口に出来なかった言葉の続きは、再び塞がれた俺の口の中で、吐息に溶けた。


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