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傭兵と吟遊詩人<4> 

フォゼラは詩を口ずさみながら、旋律を奏でている。
その様子に、ヴェルハは自然と笑いが漏れた。
「今度は何の曲だ?」
「女将さんの曲だよ。逞しくて、強くて、でも普通に穏やかに生きている。そんな歌にしたい」
「ああ、そうだな」
二人でいることが楽しい。穏やかに過ぎていくだけのときの流れに、眠りさえ誘われる。
ヴェルハはフォゼラの片足に頭を乗せた。拒否は無い。
「フォゼラは何時から歌うようになったんだ?」
「小さな頃から。よくある話だろ。田舎で口減らしに売られることなんか」
さらりと云う。こだわりは無さそうだ。
「金の髪に緑の瞳。いい声で歌う、それなりの容姿の子供。まぁ、いい客寄せにはなったな。小屋の人たちも陽気でいい人たちばかりだった」
金の髪と緑の瞳はこの大陸では好まれる容姿だ。今でもそれなりのいい男だから、子供の頃にはさぞ可愛かったに違いない。
「十三になるまで、身体を売らされることも無かったしな」
芸人が小屋を掛ける際に、役人や実力者に、袖の下や肉体を要求されるのも、よくある話だ。
成人する十三の年まで、それをさせられなかったというのは、余程運がいいか、親方がしっかりしていたかだ。子供を要求する貴族も多い。
「でかくなったら、歌う方から作るほうへ回って、剣舞も仕込まれた。それなりに生きていけるように。いい小屋だったよ」
懐かしそうにフォゼラの瞳が遠くを見つめた。その瞳は帰らないことを知っている瞳だ。
「そんないい小屋だったのに、どうして旅に出たんだ?」
答えてくれるだろうか? その痛みを。
「何てこと無い。小屋が潰れたからだ」
ヴェルハはおそるおそる聞いたが、対するフォゼラの答えは拍子抜けするほどあっさりとしていた。
「あのまま、仲間たちと旅を続けたかったが、仕方が無い」
仲間たちというフォゼラの言葉に、ヴェルハの胸が、一瞬だけ痛む。だが、その仲間たちは今、共にいない。ヴェルハはフォゼラの足に頭を乗せたまま、いつしか眠り込んでいた。

夜の酒場には、昼の話を聞きつけたものか、もっと多くの客が集まっていた。
監視目的か、警備兵の姿もある。
フォゼラが繊細な音を爪弾きだす。町の男と踊り子の歌。
朗々と歌い上げるのはフォゼラだ。ヴェルハは時折音を添えるだけである。
男と踊り子の恋。永遠に幸せが続くように祈る歌。
切々と歌い上げるフォゼラの瞳は閉じられ、何かを追っているような感じすらある。
歌い終わったフォゼラの視線がヴェルハを捕らえた。
三弦の調子が変わる。
フォゼラが作った『漆黒い旋風の歌』。
ヴェルハがすらりと剣を抜いた。目の前に掲げたまま、ヴェルハが歌いだす。
漆黒の髪を翻し、生きる為に戦う一人の男の歌。
ヴェルハは決してフォゼラに全てを話したわけではない。きっとこれから先も話すことは無いだろう。
なのに、フォゼラが作ったヴェルハの歌は、ヴェルハの生き様そのものだ。
フォゼラが感じ取った、ありのままのヴェルハ。
実のところ、歌うのは緊張する。フォゼラの感じたままの自分自身で歌えるだろうか。
歌い終わると、酒場がしんと静まり返る。
掲げたままの剣を納めると同時に、拍手が湧き起こった。
そして、また三弦の調子が変わる。
今度は軽くテンポの早い曲だ。ヴェルハが羽織っていたマントを脱ぎ捨て、足で調子をとり始めた。
逞しくて、それでいて穏やかなしっかりものの女。
美しくは無いが、生きる気力に溢れる魅力的な女。
口は悪いが、働き者で主人を愛する酒場の女将。
軽いテンポで二人が歌い上げる。
女将は途中で気付いたらしく、照れて真っ赤になっている。
その女将の手をヴェルハが引いた。
歌い終わるのと同時に、女将の手を取って、手の甲に口づける。
「まぁ、やだよ。こんな貴婦人みたいな真似」
女将が照れ隠しに、ヴェルハの背を力強く叩く。主人と違って、細く見えても鍛えられたヴェルハがよろめくことは無い。
笑って頭を下げると、笑いと拍手が同時に起こった。
それを潮に、フォゼラが立ち上がる。
ヴェルハと共に、二階の客室に上がると、後ろから警備兵がついて来た。
「何か用か?」
「君に用はない。あるのは、彼に、だ」
警備兵の隊長の言葉に、ヴェルハの眉がぴくりと上がる。
同時にフォゼラが身構えた。
「ほう? 何だ? 云ってみろ」
それを制して、ヴェルハが警備兵の前へ出る。すでに剣の柄に手が掛かっていた。
「フォミゼイラ・サングは、君の相棒だった記録は無い。何故かばう?」
「相棒になったのは、ここに来る道中だ。初仕事はまだだがな。云ってみろ! 俺を相手にする覚悟があれば」
ギラリとヴェルハの眼が光る。
それに警備兵たちが一斉に引いた。
「云っておくが、フォゼラも俺が認めた腕前だぜ。云えよ。俺とフォゼラを相手に生き残れると思うなら云ってみろ!」
隊長は脂汗を流して、何とかその場に留まっている。それも一歩引けば、ヴェルハが掛かってきそうで、怖くて引けないのが本音だ。
「わ、解かった。ただ、これだけは云っておく。フォミゼイラ・サングはある方によって、拘束の命を受けている。それは何処へ行っても同じだ」
何とかつむぎ出した言葉ももつれ気味だ。
「ふん。何処も嫌がるだろうよ。俺が相手じゃな」
ヴェルハはフォゼラを促して、客室へと消える。それを見て、隊長はほっと息を吐いた。
「よろしいの、ですか?」
命令を無視した形になることを気にして、警備兵の一人が声を掛けるが、隊長は首を横に振った。
「一隊、全滅にしてまで遂行しなきゃならん命令でもないだろう。どうせ、上だって、形だけ実行しておけばいいだけだろうさ」
とあるお偉いさんのご機嫌取りの為だけに、自国の兵力を削る羽目にはなりたくないのは、本音だろう。
「拘束に向かいましたが、逃げられました。でいいさ」
警備兵が振り返ると、そこには剣呑な雰囲気の男共が腕組みをして、経過を見守っていた。
「あんたらも、もういいぞ。というか、早くこの国から消えてくれ。厄介ごとは沢山だ」
吐き捨てた隊長に続いて、警備兵もさっと立ち去っていく。
ライジャは肩を竦めて、ヴェルハの部屋の扉を開いた。
案の丈。そこはもぬけの空で、ヴェルハもフォゼラもいない。二人の剣も、三弦も無かった。

闇の中、二騎の騎馬が悠々と門を出たが、それを咎めるものは無い。
「ヴェルハ。良かったのか?」
「もちろん。フォゼラと一緒に歌うのに、支障があるような奴は、全部俺が切り捨ててやる」
フォゼラと共に歌うことで、ヴェルハは穏やかさを知ったのだ。
これからも、ずっと共に。その為には。
「フォゼラこそ、俺と共にいれば、望まずとも人を斬ることになるぞ」
傭兵であることはヴェルハの重要な要素だ。傭兵であるからこそ、フォゼラと共にいるのに文句を付けさせないだけの実力が手に入る。
「ヴェルハが、そう望むのなら」
「一緒にいてくれ。お前の旋律でずっと歌わせてくれ」
まっすぐに上げた二人の視線が絡み合う。
「さて、次は何処に行く?」
「取りあえずは、隣国の城下でも目指すか。芸人としての俺たちも、傭兵としての俺たちも稼げそうなところだ」
ヴェルハが笑って、馬を進めた。フォゼラもそれに続く。
昇る朝日に向かう二人の馬は、穏やかに波乱万丈の幕開けを示していた。

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