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傭兵と吟遊詩人<7> 

フォゼラが歌い終わると、セレフィーアが満面の笑みを浮かべて拍手を送る。昼間のきりりとした表情とは異なり、纏っているドレスの所為なのか、柔らかい印象を周囲に与えていた。
「素敵な歌だ。これは何処で歌われているのかな?」
同様に拍手をした伯爵がフォゼラに尋ねる。
「私が作りました。……姉のことを歌った曲です」
問い掛けに答えたフォゼラは、少しだけのためらいを見せた後に言い切った。
「そうか。姉上は息災か?」
「行方は判りませんが。幸せでいてくれると、信じております」
フォゼラの言葉に、満足げに伯爵が微笑む。
「そうか。もう一度聞かせてくれぬか。その後に、もう二三曲。恋歌を、の」
セレフィーアの言葉に、お互いを見交わす伯爵夫妻に、フォゼラはうなずいた。
そうして、ヴェルハを振り向く。恋歌は甘い声のヴェルハの出番だった。

「いいのか?」
演奏を終え、部屋へと戻る。昨日からの傭兵扱いの野宿ではなく、芸人として迎えられたフォゼラとヴェルハには、片隅ではあるがきちんとした客間が用意されていた。
「ああ。自分たちの身を省みたのかもしれない」
ヴェルハの問いをきちんと把握した上でのフォゼラの言葉は、ますますヴェルハを混乱させた。
「俺が云っているのは、アレを実体験だと云っちまって良かったのかってことなんだが?」
姉のこととはいえ、芸人が貴族を袖にしたなどというのは、貴族のプライドと面目を潰されたも同様だろう。
「伯爵夫人。元々、この家の主人の恋人だったのを隣国の王が娶ったらしいぞ。もちろん、惚れてどうこうと云うわけではなくて、国同士の縁組だろうがな」
「そりゃ、気の毒に」
ニヤリと笑うフォゼラに、納得したとヴェルハが返す。成程、そういった事情があるのであれば、真実を話したところで、帰ってくるのは同情と同意だろう。だが。
「お前、何処からそんな話仕入れてくるんだ?」
「芸人仲間からの情報って奴は馬鹿に出来ないぞ。お前だって、それなりにお仲間からの情報はあるだろう?」
確かにヴェルハも、この屋敷に来るにあたって、元王妃を狙いそうな人物のあたりは付けて来た。それと同じ事を芸人としてフォゼラがやるのは当然のことだ。
広場で流しで稼ぐのなら、その土地の権力者に擦り寄るくらいのことはする覚悟がいる。
その可能性を考えないのは、ヴェルハが傭兵であるからだ。ヴェルハにはヴェルハの、フォゼラにはフォゼラのやり方がある。そして、フォゼラは芸人なのだ。
「まぁな。だが、屋敷の中に入れたのはありがたい」
「まったくだ」
フォゼラはごろりと広いベッドに寝転がる。その腿を枕に、ヴェルハが転がった。
いつも思うのだが、その体勢ではいくら広いベッドでも、ヴェルハは足を組んだままになる。
「ヴェルハ。少し、退いてくれ」
不審そうに閉じかけた瞳を開いたヴェルハの頭を退かし、フォゼラは斜めにベッドに横たわった。
「ほら」
足をぽんと叩くと、ヴェルハは遠慮なく頭をフォゼラの足に乗せる。その体勢だと二人共に足が半分ベッドから出た形になるが、ヴェルハもフェゼラも気にならない。屋根のある、しかも柔らかい上質のベッドで眠れることの方が大事だった。

ふっと目を覚ます。
何処からか漂う殺気。散漫ではあるが確かなそれを感じて、ヴェルハとフォゼラはむくりと起き上がった。
飛び出したのはヴェルハが先だ。
廊下を走り抜け、屋敷の奥へと走る。
途中で静止しようとする男たちの頭上を、ヴェルハはひらりと飛び越えた。
慌てた男たちが後を追う。
絶叫が響き渡った。
甲高いそれが聞こえた部屋にヴェルハが飛び込んだ。
そこにいたのは、血濡れの剣を持つ、背の高い女。引き裂かれた薄い夜着から顕わになった白い胸には返り血が紅い華を咲かせている。
「セレフィー…ア、伯爵夫人」
呆然としたフォゼラの声に、振り返ったセレフィーアが薄い笑みを浮かべる。それは凄絶な程の表情を湛えていた。
「セレフィーアさま!」
走りこんできたのは、アストラントと呼ばれていた男だ。居並ぶ顔を見ると、明らかな動揺を見せる。当たり前だ。伯爵夫妻の寝室に血塗れの死体と、傭兵が二人ならんでいるのは明らかに妙な光景だった。
「大事無い」
血糊を振り払ったセレフィーアが告げる。
「ですが、傭兵などという不逞の輩を」
「その不逞の輩が、一番に駆けつけてくれたようだがな」
夫人の後ろに控えていた伯爵も平然と、剣を腰に納める。
「歌を歌ってくれた傭兵だな。名を聞いても?」
「ヴェルハード・ベルゼン」
「フォミゼイラ・サングです。伯爵」
ヴェルハは堂々と、フォゼラは控えめに名を告げる。伯爵は鷹揚にうなづいた。
「警護はお前たちの職務外か?」
「雇い主は伯爵です。いかようにでも。それで俺たちに異論が無ければ契約は成立します」
「ドノヴァン伯爵!」
このやり取りに不満げな声を上げたのは、アストラントだ。
「このような輩をセレフィーアさまのおそばに置くなどと云うことを、本当に考えておられるのですか??」
「ああ。確かにセレフィーアは強い。だが、この男たちはセレフィーアよりも強い」
伯爵の視線がまっすぐにヴェルハを見る。
ヴェルハはその瞳を真っ向から見返した。
「異論は?」
「ありません。フォゼラはどうだ?」
「俺にも無い」
「では、契約は成立だ」
まだ若い伯爵の気迫のこもった言葉に、反論を唱えるものは無い。
アストラントも不承不承黙るしか無かった。

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