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不機嫌なクリスマス<身勝手な男> 

鈴木のストーカー話<収まるべきところ>の後始末。

【不機嫌なクリスマス】

真幸が通いなれたゲイバーの扉を潜った瞬間、カウンター付近にどんよりとした空気があった。空気の元はカウンターで呑んでいる常連の一人だ。
「どうしたのさ、ヒロちゃん。おかんむりだね」
鍛え上げられている身体の男が、そうやって重い空気を背負っていると、周囲はひたすら遠巻きに眺めるだけだ。長い付き合いの真幸が、ポンとその肩を叩くが、ギロリと睨まれる。普段は明るい気配りタイプの久世隆大がこんな風になっていること自体が珍しい。
真幸は顔を上げて、カウンターの内側のマスターとバーテン・圭吾の顔を見た。二人とも肩をすくめて首を振る。ということは、店に入ってきた時からこの状態という訳だろう。
「ヒロちゃん。せっかくのクリスマス前の連休じゃないの。暗い顔してないで、一緒に呑もうよ」
まだ二十歳そこそこの頃からヒロを知っている真幸としては、放って置けずに隣へと座り込む。さっきから後ろに控えた若い恋人・上総は、諦めの境地で久世を挟んでカウンターへと付いた。真幸が久世をまるで弟のように可愛がっているのは知っているし、『アイツは特別だ』と宣言されたこともある。久世の人となりも知っているが、何かあった時に止めに入れる場所は確保するべきだろう。
「あの、ヒロさん。今日は英さんは」
注文を終えた上総がおずおずと口に出す。上総にまで嫉妬の視線を投げ掛ける久世の恋人は、通常久世一人でゲイバーに呑みに行かせたりはしない。真幸はそんな久世の恋人が気に入らないらしく、一緒にいないことを気にとめていないが、どう考えてもおかしいのだ。
「デートだよ」
「ああ。じゃあ、もうすぐ来るんですね」
上総はほっと息を吐く。荒れた時に引き取ってもらう先があるのなら、痴話喧嘩などには口を挟まない方がいい。
「相手は俺じゃ無い」
ぶすっとしたままの久世の爆弾発言に、真幸と上総が同時に立ち上がった。
「え、え、それってどういうことですか?」
「ヒロちゃん、振られたの? あの野郎、ヒロちゃん大事にするって言ってた癖に!」
久世の恋人はこの界隈では結構な遊び人として知られた人物だ。デートの相手が恋人でないとなれば、浮気か、それとも別れたかと思うのも無理はない。
「お・ま・え・ら・が・言・う・な!」
だが、ブランデーを煽った久世は、ギロリと真幸を睨みつけた。
「お前の所為だぞ、真幸。何で俺が歩美にアイツ貸さなきゃいけねーの?」
「あーっと、アレ、まだ片付いて無かったんだ」
バツが悪そうに、真幸が頭を掻く。数ヶ月前、真幸が勤める会社の別部署のゲイカップルの片割れにストーカーが付きまとっていた。それを退けたのが、久世と押し掛け助太刀の柔道教室の教え子歩美だ。
歩美は『ご褒美にセンセのカレシ貸して!』と主張していたが、どうやら押し通したらしい。
「すみません」
シュンとしてしおらしく謝る上総だが、上総だって真幸は貸さないとガルガルと主張していたのだから、どっちもどっちだ。真幸など、上総に怪我をさせたくないばかりに久世を巻き込んだのである。
久世にしてみればとんだとばっちりだ。
「そういうことなら、さ。憂さ晴らしにぱーっとやろうよ」
「お前が持つのかよ?」
久世の発言に、真幸はぺろりと舌を出す。そんな子供っぽい仕草が妙に色っぽい。
「まさか。元凶に払わせるに決まってんジャン」
嬉々としてスマートフォンを取り出した真幸は、非常に人の悪い顔をしていた。

「ここか?」
「送ってきた地図も間違いないし、店の名前も合ってるな」
鈴木が度の入っていないメガネを外すと、渥美は先にたってドアを開いた。
「あ、財布が来た」
奥のテーブルから手招きされる。能天気な発言の主は、真幸だ。
「事実だとしても、もう少し飾った言い方は出来んのか、宮川」
部下にいきなり財布扱いされた真幸の上司は、思いっきり憤慨している。三人の腰掛けた丸テーブルの上には、どう見てもバーでは出る筈のない寿司やイタリアンの皿があった。
「仕方ないんじゃないのか。お前が払いは持つって言っただろう。お前が嫌なら俺が持ってもいい。助けられたのは俺だしな」
どっかりと久世の隣へと腰を下ろした鈴木は、にっこりと久世に笑い掛ける。
「世話になった、ありがとう。今日は俺の奢りだ。好きにやってくれ」
無精髭とぼさぼさの髪と大き目のメガネに隠された鈴木は、近くでよく見れば整った顔立ちの美形だ。不健康に痩せていることと、神経質そうな仕草が目立ち、普段気付かれることはあまりない。だが、今は伊達メガネを外している所為か、笑い掛けられた久世はたちまち頬を染めた。
実のところ、久世は男性的でシャープな美貌に弱い。鈴木は久世の基準では痩せ過ぎではあったが、それでも観賞用としてはかなり上等な素材だ。
その鈴木の発言と久世の態度に、慌てたのは鈴木女王陛下の下僕兼上司でもある渥美だ。
「いや、俺が持つ。ヒロくんだったか。義彦を助けてくれたことには俺からも礼を言う」
頭を下げられて、久世は初めて相手の顔をまじまじと見た。何しろストーカーを片付けた後は、歩美が妙なことを言い出した所為で、二人の顔などろくに見ていなかったのだ。
「あ、いえ。じゃあ、今日はありがたく甘えます」
渥美ももう少し甘さがあれば久世の好みにぴったりと嵌る。こちらにも頬を染めつつ、久世は頭を下げた。
「あ~、また出たよ。ヒロちゃんってホントに面食いだねぇ」
「う、五月蝿いな。いーじゃねーか。被害を受けたのは俺なんだ。今日ぐらいは役得ってもんだろ」
真幸の指摘に、思わず久世がどもる。
「ふ~ん、俺らの顔、好み?」
頼んだノンアルコールのカクテルを舐めつつ、鈴木が上目遣いに久世を見た。その何気ない視線に、久世はどきりとなってしまう。こちらの下心を見透かされるような瞳だ。
「そうですね。男の顔なのに、綺麗じゃないですか。俺、そういうのが好みなんですよ」
「男性的なのに、綺麗とか可愛いとかにこの子弱いんだよね」
真幸がまぜっかえす様に突っ込む。
「でも、鈴木はウケだし、部長は基本ノンケだからね。ヒロちゃんを抱くとはいかないんじゃない?」
「馬鹿、誰がそこまで考えてるか!」
真っ赤になって反論する久世に、渥美と鈴木が固まった。つまり、そういうことだ。
「あ、悪ーい」
しれっと真幸が言い添えたとき、渥美も鈴木もそして上総も、真幸の背後に黒い尖った尻尾か閃いているのを感じ取る。
真っ赤になってワタワタしている久世が気の毒な程だ。
「誰が抱かれたいって?」
ふいに背後から、甘く響く声がしたかと思うと、久世の動きがぴたりと止まる。
「お前、俺を生意気女の人身御供に差し出しといて、手前は浮気か。いい度胸だな」
背後からぴったりと張り付くように久世に腕を廻してきたのは、男性的であるのに冷たい美貌の男だ。
「浮気じゃねーよ。この間の礼に奢ってもらってただけだって」
「俺の留守中に? 好みの美形にか?」
「好みだったのは偶然だって!」
「ああ。そうか。じゃ、それはもう終わったんだろう。今度はお前が俺に誠意を見せる番だな。二人っきりで一足早いクリスマスと行こうか」
久世の恋人らしき男は、逞しい久世の身体を五人掛けのソファから抱えあげるように引き抜くと、ずるずると引きずるようにして店を出て行く。
それを残された男たちは呆然と見送るのみだ。
「あーあ。不味いとこ見つかっちゃったなぁ」
「知りませんよ。これでしばらくは真幸さん、ヒロさんと遊べませんからね」
嫉妬深いことに掛けては、久世の恋人は他に引けをとらないのだ。
「もう、何であの男、あんなに鼻が利くんだろ」
「そりゃ、愛の力って奴じゃないか」
溜息と共に渥美が言葉を吐き出した。何となく分かるような気がするのは、自分もイカレている所為だろう。
「確かに十人中十人が認める綺麗だよな」
ぽつりと鈴木が呟くのに、渥美がぎょっとして振り向いた。
「何だ、義彦。興味があるのか?」
「ほら、あの女の子が言ってたじゃないか。絶対に友達に自慢出来るって。若い女の子にそこまで言わせる男の顔っていうのには、興味があった。うん、納得だ」
どうやら、女王様は純粋な意味での興味を持っていたらしい。好奇心を満たせばそれで用は無いとばかりに、身を翻す。渥美も主役が帰った以上、ここに用は無い。一足先のクリスマスを自分たちも楽しむつもりだ。
「じゃ、な。宮川」
支払いだけ済ませ、女王陛下の後を追いかける。
残された真幸は、せっかくの楽しみを邪魔されて、面白くないとばかりにグラスを煽った。それを慌てて上総が止める。
世間はクリスマス真っ盛り。だが、それも日常のひとつだ。

<おわり>

<交わす瞳と唇>

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