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冬のぬくもり<残り香>新年SS祭り 

二位は一之瀬×鮎川。何故か久しぶりに投票上位。いつまでも忘れないでもらえて嬉しいです。
本編「残り香」

【冬のぬくもり】

「恋神社も人が増えたな」
観光客に除夜の鐘を突いてもらうのが、この町のラストイベントだ。さすがに最後の頃には観光客だけでは足りずに、年を食った青年団の連中が残りを突く羽目にはなる。ここ数年は青年団でも若い方(といってもとっくに三十路だ)の高良が最も多くの鐘を突いていた。
役目を終えた高良は、その場ではじまる酒盛りには加わらず、観光客に紛れて山道を辿る。町で最も大きな神社は『恋神社』の名で親しまれ、恋愛成就の神様として祭られている。これは、町のバレンタインイベントで使用しているのと、この神社に伝わる伝説によるのであって、別段祭られている木花咲耶姫が縁結びの神様である訳ではない。
すっかり観光地として定着した町は、様々なイベントが行われている所為もあり、当初はカップルが多かった観光客も、最近では普通に家族連れやグループ旅行も増えていた。
「さて」
毎年、絵馬をこの神社に奉納するのが高良の一年の始まりだ。絵馬を買い、空いている場所で使い慣れない筆ペン相手に格闘する。
「一生、共にいられますように 宝」
癖のある堂々とした字で書き付けられたそれを結びつけた。毎年書き込む言葉は同じである。名前を変えているのは用心のためだ。余所者の高良が田舎で受け入れてもらっているだけでもありがたいが、それはここが大事なあゆの田舎だからであって、違う場所ならばここまで努力して溶け込むことなどしたかどうか。
早々に挫折して東京へと戻ったかもしれない。
手を合わせて振り向くと、後ろに立っていたらしい男と肩が触れた。
「すみません」
「いや、こちらこそ」
訛りのない標準語に、観光客らしいと見当を付ける。
「さっさと帰るぞ」
「ちょっと待て。結ぶだけだ」
「鈴木さん、俺のマフラー使ってください」
「悪い」
九州といっても山間部は結構寒い。南だと舐めているかもしれないが、ここらは平地でも雪が降れば積もるのだ。
ガタガタと震えている痩せた男を囲んでいる男たちに、高良は遠慮がちに声を掛ける。
「宜しければ、あちらで温かい甘酒を出していますよ。温まります」
社務所の入り口では無料で甘酒を配っていた。温かな甘酒は腹の底から、『ぬくもる』。それに絵馬を結びつけた男が首を振った。
「すまないが、コイツは酒粕は駄目なんだ。何処か他に暖を取れるような店は」
「俺の家が喫茶店です。食事も出してますし、今夜は終夜営業ですが」
ここらではタクシーを拾って宿までという訳には行かないだろう。高良は男たちをあゆが営業する喫茶店へと誘った。
「高良。お帰り」
「あゆ、お客さん。何か温かいもの出してやってくれ」
「ここいらは冷えますから。ストーブの傍へどうぞ」
鮎川尚志の家には、珍しい達磨ストーブがいまだ現役である。一番近い席へと男たちを座らせた。土間を改装した喫茶店には夜中であるにも関わらず、数人の客がいる。
「ちょうど良かった。もう少しすると混みだしますから」
そろそろ初詣の終わった客たちが、暖を求めて降りてくるのだ。三年程前に、寒いだろうと店の前で振舞った『だご汁』が好評で、それならばと昨年からは店を開けている。
「どうぞ。こちらは無料で結構です」
小さめの椀に入れられた味噌汁のようなものを、席に着いた四人の男たちの前に出すと、男たちは驚くような表情を尚志に向けた。
「気に入ったようでしたら、二杯目は御代を頂きます」
自信たっぷりの尚志の様子に安心した四人が口を付ける。
「これは豚汁?」
「いや、だんごみたいなのが入ってる」
だんごのような食感だが、形が平べったい。野菜もたっぷりと入っていて、身体にも良さそうだ。
「ここらの家庭料理ですけれど。関東から来られたようですから、珍しいでしょう」
尚志がにっこりと笑うのに、体格のいい男が手を上げた。
「美味いな。俺にはおかわりくれ」
「メニューくれないか。これなら期待できそうだ」
隣に腰掛けた長身の男も満足そうだ。
「腹から温まるな。店長さんは東京の人?」
先ほどまで震えていた痩せた男が、尚志に問い掛ける。
「数年前まで東京で働いてました。お客さんたちも?」
「ああ。俺たちも全員東京だ」
答えた男は高良の差し出したメニューを眺めつつ、痩せた男のだご汁を引き取った。
「鈴木。何が食いたい?」
「雑煮。確かこの辺は煮た丸もちが入ってるらしい。せっかくだからな」
「へぇ。鈴木さん、良く知ってるなぁ」
「雑学は得意だ」
「コイツは馬鹿みたいに頭だけはいいからな」
ワイワイと男たちがメニューを選ぶ間に、高良もカフェエプロンを付け、エスプレッソマシンを稼動させる。
コーヒーの香ばしい香りが辺りに広がった。
「いらっしゃい」
「高良。コーヒーば頼む」
「ちゃーちゃん、こっちだご汁な」
ガラリと引き戸が開くと同時に入ってきたのは、地元の青年団連中だ。
「順番だけん待っとって。高良、エスプレッソ頼んどく」
「ああ。了解」
一杯目は尚志のためにと思ったが、そんな暇は無いらしい。高良はクスリと笑って客のためにコーヒーを入れ始めた。
連れてきた男たちも注文が決まったようだ。
手を上げられて、尚志がメモを片手に客の下へと走る。
初めての正月に、二人で初詣に行った。二人でずっと一緒にいようと誓いを絵馬に書いた。忙しくなって、二人では行けなくなったが、それは高良によって、毎年更新されている。
そうして、二人で店へと立つのだ。
田舎町の震えるほど寒い冬も、二人で身体を寄せ合えば暖かい。

「あの二人」
「幸せそうだ。こんな田舎での暮らしもいいもんだな」
思わせぶりな体格のいい男と痩せた男の囁きに、後の二人がうなずく。
「暖かいな」
達磨ストーブの温かみだけではなく、きっとこの店の雰囲気自体が暖かいのだ。
「さっさと宿に帰ろう。お前といちゃつきた、」
全部言わないうちに、囁いた男の脛に体格のいい男の蹴りが入る。言葉も無く耐える男の秀麗な顔に、後の二人が不憫そうな視線を投げた。

店の片隅でのそんな会話に、尚志も高良も気付かない。二人で視線を交わしながら、コンビネーション良く仕事をこなして行く。それは新年のひと時。きっと来年も続く筈だ。

<おわり>

NEXT<そこが俺たちの家>
一位はソルフェース×リベア。納期の休暇の様子を。<上質の時間>

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