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傭兵と吟遊詩人<12> 

「旦那」
馬車から降りた伯爵夫妻の両脇を固めるような形で、ヴェルハとフォゼラが屋敷へと入る。そのヴェルハに囁くような声を掛けたのは、コミッカーだ。ヴェルハはうなずいて屋敷の中へと姿を消した。
「のう、フォゼラ。お前は何を知っている?」
私室へヴェルハとフォゼラを迎え入れたセレフィーアは、腰を下ろすなり足を組んで二人を見下ろす。
「何も存じ上げません。芸人の間の噂話くらいです」
その場へ神妙に控えたフォゼラは頭を下げたまま、セレフィーアに返答した。ヴェルハが腰の剣に手を添える。
「もし、あの歌のことをおっしゃっておいでならば、あれは私が貴方様と話して感じたことをこめた歌でございます」
「ほう。お前の黒い傭兵に作った歌と同じか」
セレフィーアがヴェルハを見下ろした。ヴェルハはひざまづいてはいるものの、その瞳は油断なくセレフィーアの足運びを観察している。フォゼラに何か事が起こればセレフィーアを切り捨ててもフォゼラを救う気だろう。
「はい」
その気配をすぐ隣で感じている筈の男は、控えたまま平静に言葉を返した。
「その才、惜しいの。何処かの貴族にでも仕えれば一財築けようものを」
「そのつもりはございません」
考え込むように呟いたセレフィーアの言葉に、間髪入れずにフォゼラの応えがある。
「よかろう。今日はもう下がって良いぞ」
奥の部屋へ消えていくセレフィーアに頭を下げ、フォゼラが立ち上がった。それに続いてヴェルハも立ち上がる。自分たちに与えられた客間の扉を開き、ベッドへと転がった。
以前であれば、フォゼラの転がった横にヴェルハも身を寄せていたが、あの諍い以来、ヴェルハは一人で隣のベッドへ横になっている。
ふくろうの声がして、ヴェルハが起き上がった。ふらりと外へ出るヴェルハの背に、フォゼラの声が掛かった。
「何も聞かないんだな」
「不用意に踏み込んで手酷い拒絶を食らうのは御免だ」
「決め付ける訳か? 素直に話すかもしれないぞ」
笑いを含んだ声に、ヴェルハは溜息を吐く。誤魔化す気でいるのは、明らかだった。そのまま背を向け、扉を閉じる。
「嘘つきめ」
ヴェルハは一人ごち、外へと向った。中庭には数名の夜番が立っている。その一人はコミッカーだ。
「判ったか」
「ああ。やっぱりおっさん、国王の晩餐会が狙いだな。隣国の誰が来るか調べているらしい」
「下っ端の連中が知っていることなんぞ、たかが知れているだろうに」
「ところが、そうでもないんだな」
コミッカーは首を竦める。
「あの連中。金で娘を売る家を探してるんだ。なるべく親に邪険にされていそうで、それなりの容姿。ナニがあっても親が訴えそうにない家」
「ほう」
それは殺されてもという意味だろう。下手に国民に手出しをされるよりは、最初から犠牲者を供しておこうという辺りは、下種な貴族が考えそうなことだ。
「ぺらぺらと喋るような輩なら、金を与えて黙らせれば良かっただろうに」
「そりゃ、旦那や俺ならそうするさ。だが、芸人が金を持っていると知れれば、次々にせびられる。街娼買えば無くなる程度の金を与え、街娼代わりに手前の身体でも犯らせときゃ次はない。おっさん、さすがに年の功だ」
抜け目は無いということか。おそらくそこが、ヴェルハとフォゼラのずれなのだろう。
「芸人には芸人のやり方か」
「俺たちは傭兵だ。そこは忘れん方がいいぜ?」
囁くように吹き込んで背を向けるコミッカーに、ヴェルハは金貨を幾枚か投げた。それを起用に背を向けたままコミッカーが受け取る。
芸人なりの戦い方をフォゼラは目論んでいるのだ。あの『踊り子の恋』の歌がフォゼラの武器。そして、伯爵夫人はフォゼラに戦う場を差し出すことが出来る。
では。ヴェルハは考える。自分に出来る戦いは何だ?
「おかえり」
扉を開くと、ベッドではなく窓際から声が掛かった。月明かりを浴びて男は三弦を爪弾いている。
切ない旋律。まるで今の自分のようだとヴェルハは考え、本当にそうなのかもしれないと思い直す。
「フォゼラ。聞かせてくれるか」
ヴェルハの言葉に、フォゼラが三弦を置いた。旋律のことではないのだと伝わったようだ。
「どうした?」
「無遠慮に踏み込みたくない。お前が話せる事だけでいい」
あの旋律がヴェルハの心だと言うのなら、フォゼラは態と突き放していたということになる。じっとフォゼラの答えを待つ。
「そうだな。何処から話すか」
目を伏せたフォゼラは、少しの間言葉を捜していたが、おもむろに語りだした。

フォゼラは姉と呼んでいるが、もちろん本当の姉ではない。小屋の皆は家族で仲間たちは兄弟だった。一つ年上の姉は、舞の名手であった。フォゼラに剣舞を仕込んだのもこの姉だ。
容姿はそう目立ったものでは無いが、舞いはじめるととてつもなく魅力的であった。まるで妖か舞神の化身かと噂をされるほどだ。
その姉は既に内縁の夫があり、次回小屋を掛けたならば、それを機に小屋を引くことになっていた。最後の小屋掛け。舞台で舞った姉に貴族が目を付けた。姉は渋々ではあるが、一度きりとの約束で従った。小さな小屋だ。子供たちは上手く隠しても大人たちは従わない訳にはいかない。
だが、貴族の屋敷から三日後に返されてきた姉は、嬲りつくされ腹にいた子も流れていた。
「さっさと小屋を畳んで、次の街へ行こうということになった矢先。その貴族の男がもう一度姉をと望んできた。もちろん、親方は断った。これ以上は姉が死んでしまうと平身低頭で頼み込んだ。それを使いの男は切り捨てた」
フォゼラの淡々と語る口調が、むしろ秘めた怒りを表している。
小屋の連中はそれで腹を括った。どうせ、殺されるならば一矢報いてやろうと。
小屋の子供を女装させてフォゼラが連れ出し、姉と内縁の夫が小屋から逃げ出した風を装った。小屋の連中が探し回る中、二人は逃げ続け、その間に姉と夫を海賊船に預けた。
「海賊?」
「海賊の頭目の妹が同じやつに嬲られていた。幸いその子は生きてはいたが、気がふれたままだ」
フォゼラたちは逃げ続けた。人を切ることもこのときに覚えた。裏街をこそこそと逃げ回るフォゼラたちは、裏街の人間たちにとって格好の獲物だった。
「そして、逃げ回っている俺たちは知らなかったんだ。貴族の男が小屋の連中の嘘を見抜いたことを。その数日前から、触れが出ていたらしい。姉たちに向けて出て来いと。出て来なければ、小屋ごと火を掛けると」
フォゼラが勢い良く上がる炎に気付いた時には、すべて手遅れだった。火を消そうと駆けつけた守備団も、貴族に対しての反逆行為だと宣言されては見守るしかない。せめて、街への延焼を防ぐだけで精一杯だ。
呆然と炎の上がる小屋を見つめていたフォゼラを、舞台で舞っていた男だと覚えていた奴がいたらしい。
改めて追われることになったフォゼラは、追われながらも子供を他の小屋へと預け、一人で歌い続けている。

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