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傭兵と吟遊詩人<14> 

わずかな血の匂いを漂わせ、肩で息をしたフォゼラが何事かを仕掛けてきたことは、ヴェルハには明らかだ。だが、ヴェルハは何も言わずにフォゼラを出迎える。
フォゼラは三弦を抱え込んだまま、窓際へと低く身を寄せた。
そのフォゼラの仕草にヴェルハは自身も窓際へと立ち、おもむろに長剣を抜いて外を伺う。向かって来る気配が無いことを確認してから、剣を鞘へと納めた。
「大丈夫だ。何も追って来てはいない」
ヴェルハの言葉に、フォゼラは肩の力を抜いて三弦を置く。
そのフォゼラの肩にヴェルハが手を置いた。大丈夫だと諭すように、幾度か肩を叩く。腰を下ろしたフォゼラの横に座り、肩を抱えた。小刻みに震える身体に、ヴェルハはフォゼラを傭兵として相棒にしたことは、間違っていたのではないかと考えてしまった。
無意識に寄せてくる身体は、信頼の証だろう。だが、同時に誘われているような気分にもなる。
引き寄せる腕にも抵抗はない。そのまま唇を重ねる寸前に、扉を叩く音がした。
微かな甘い雰囲気は霧散し、ヴェルハは立ち上がって扉まで歩く。足音もさせずにフォゼラが扉の影へと走り寄った。
ドアが開く。気配で判ってはいたが、立っていたのは案の定アストラントだ。
「セレフィーアさまがお呼びだ。付いて来い」
「だとさ、フォゼラ」
ヴェルハの呼び掛けに、扉の影から抜き身を下げたままのフォゼラがあらわれる。アストラントは流石に眉を潜めた。
「屋敷の中だぞ」
「あんたの主人が襲われたのは、いずれもご立派な護衛のいる屋敷の中だがな」
応酬するヴェルハの横で、フォゼラは剣を鞘へと戻し、三弦を抱え直す。
「この屋敷でそんなことは」
「無いとはいいきれんさ」
元々、ヴェルハとフォゼラが護衛として雇われたのは、最初にセレフィーアが襲われたことがはじまりだ。アストラントは舌打ちして足早に歩きだす。ヴェルハとフォゼラもその後に続いた。
ヴェルハたちに与えられた部屋は、客間の一番奥のもっとも外庭に近い場所だ。今現在その庭に傭兵たちがいることを考えた上での配置なのだろうが、伯爵夫妻の居室までは非常に遠い。
長い廊下を無言で歩くと、屋敷の使用人たちが三人の姿を見掛けた途端に、何故か蜘蛛の子を散らしたように去っていく。伯爵夫妻に仕えているだけあって、この屋敷の使用人には肝の据わったものが多い。特にヴェルハとフォゼラは主人に近い場所にいる所為か目線を逸らされることはあっても、あからさまに避けられることは無かった。それはアストラントも同様だろう。
いつも隣にいるから気付かなかった。
ヴェルハは横を歩くフォゼラに視線を流す。いつから、この男はこんなに殺伐とした目をするようになったのだろう。
「傭兵たちを連れて参りました」
「ご苦労。アストラント、下がって良いぞ」
「は。ですが」
その証拠に、アストラントもセレフィーアの命令に従おうとしない。
「構わん。その男の殺意は私には向かぬ」
セレフィーアの断言に、アストラントは渋々セレフィーアの前から引き下がった。
「国王主催の夜会。明後日の夜に開かれる。お前たちも共に来るがいい。国王がお前たちの歌を聞きたいそうだ」
「承知いたしました」
片膝を付いたその動作にも常の優美さは見受けられない。追い詰められた獣のようだとヴェルハは思った。
「彼の国の使者が来ておるそうでな。この間、お前が歌うた私の歌。あれを聞かせてやれとの御所望じゃ」
くすくすとさざめく様な声を立ててセレフィーアが笑う。政略で送り込んだ姫をいくら本人たちの願いとは言え、簡単に伯爵に下賜されたことが気に染まないのだろう。ささやかな国王の意趣返しだ。
「彼の国からは次期公爵と王弟が来賓よ。双方とも彼の国ではもてあましておる。帰らずとも良いという人選であろうな」
むしろ、そうしてくれれば戦端を開く理由になるやもしれぬ。とセレフィーアは笑った。
「無論、そのようなことにはさせぬ」
笑いを納め、セレフィーアが顔を上げる。そこにあるのは戦士としての貌だ。
「お主もそのようなことは望んではおらぬ。そうであろう、フォゼラ?」
「はい」
「我が国の威信に掛けてもさせぬ。意地でも奴等には生きてこの国を出てもらわねばならぬ」
硬い表情のまま、フォゼラが頭を上げる。
「存分に歌え。お前の為の舞台ぞ。ここまできたら、その殺意丸出しの貌で歌うてやるが良い」
セレフィーアが立ち上がった。
「アストラント!」
セレフィーアの呼び掛けに、扉の外へ控えていたらしいアストラントが顔をだす。
「傭兵どもをここへ!」
「そ、そのような……」
「ここへ呼べ。新たな仕事を頼む」
アストラントの反論は、背後から入ってきた伯爵に抑えられた。そのまま、大人しく下がりながらもアストラントの表情は何処か不満げだ。
「ヴェルハ」
出て行くアストラントの後姿を見送っていたヴェルハに、伯爵の声が掛かる。
「これを」
渡されたのは、一枚の通商手形だ。最初に示された通りの報酬額の書き込まれたそれにヴェルハは首を捻った。
「まだ、依頼は途中の筈ですが」
こんなところで放り出されては、フォゼラと共に歌えない。
「いや、依頼は遂行してもらおう。お前たちがこの国を出るまで、セレフィーアを守り抜け。おそらく、遂行してからでは渡せぬだろうからな」
「つまり、奥様を暗殺しようとする奴らを片付けつつ、黒幕は国を無事に出せと?」
ヴェルハがニヤリと笑うのに、伯爵はいまだ若いその顔にまるで少年のような無邪気な笑みを浮かべてみせた。
「その通り。本当の黒幕なんか王宮から出てこないに決まってる」
子供のような口調で言い放たれたその言葉の意味は、ヴェルハにも十二分に判る。
「承知いたしました。セレフィーアさまの用意された舞台、芸人として傭兵として、立派に勤め上げます」
ヴェルハとフォゼラは、心からの礼を改めて二人に対して取る。
その姿を見て度肝を抜かれたのは、庭から集められた傭兵どもだ。慌てて、皆同じように礼を取った。
実力主義の傭兵にとって、強い相手が全てだ。漆黒い旋風が敬意を持って決めた依頼主ならば、否やは無い。

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