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前夜<銀杏の実り> 

冬イベントの無料配布SSは、新刊「銀杏の実り」ネタでした。
志信の失踪前。弘毅についての会話。本編「銀杏の実り」はこちら

【前夜】

「穣。俺、明日から出張だからな」
「出張? 何処? 何時まで」
いつも志信の予定は唐突だ。まぁ、俺は高校も出てない馬鹿だから、志信が言うことの半分くらいしか理解出来ないことも多い。
「インド。取引先の新しい工場が建つんで見学。三輪さんのお供だからな。三日で終わるんじゃないか」
三輪さんというのは志信の上司で、体育会系の人。片付けることはさっさと終わらせるタイプらしいので、今回も付き合いさえ終わればさっと帰ってくるのだろう。
「終わったら紹介したい奴がいるんだ。時間空けとけ」
「うん。休日出勤は入れない」
ベッドの周囲に脱ぎ散らかされた志信の服を集めて、洗濯機に放り込んだ。志信は見た目はカッコいい系なんだが、生活全般はだらしがない。ドアからベッドまでの道筋に点々と脱いだ服が落ちていた。
洗濯機を回して部屋へ戻ると、志信はベッドで煙草を吹かしている。
「志信」
半ば呆れて灰皿を手渡した。もう怒る気力もない。この男と付き合うには母親並みに世話を焼くくらいの努力は必要だ。
もっとも、俺が無理を言って付き合ってもらっている自覚はあるので、そのくらいは我慢する。はっきり言って志信はモテる。俺のような面倒くさい男に付き合う義理もないのだ。
ふと、志信が苦笑いを噛み殺した。常に明るい笑い方をする志信には珍しいことだ。
「どうしたんだ?」
「ああ。ちょっと思い出した」
「何を?」
「俺の初恋の相手」
初恋などと甘酸っぱい響きの言葉を口にする割に、志信の口元には苦い笑みが刻まれたままだ。洗濯が終わるまではまだ時間がある。俺はベッドで膝を抱えた志信の隣に座り込んだ。
「同級生の中では目立つタイプだった。大人っぽくて頭も良くて、きちんと将来を見据えていて。強面なのに、物静かで。俺の憧れだった」
志信の現在のタイプとはまったく違う男。
「中学・高校と同じクラスで。コイツに任せれば大丈夫って雰囲気があった」
きっと適わなかった想いなのだろう。
「思春期が来るとさ、何となく判るんだよな。同類」
同意を求めるように、志信が俺を見た。まぁな。雰囲気とか視線とか。あ、コイツもゲイかバイだなって感じ。
「何でだったか覚えてないけどさ。目線が合ったんだよな。そいつと。あっちも判ったらしくて、慌てて目線を逸らすんだ」
そりゃ、びっくりしただろう。思春期で同性を意識し始めた頃ならば、自分はおかしいんじゃないかと一度は考える。
「それが、妙に可愛くてさ」
落ち着いた大人の男だと考えていた相手が、自分と同じ高校生だと知った。恋に落ちるには充分なシチュエーションだ。
「俺も同類だって告白して、友人にはなった。お互い性にも興味のある頃だ。身体の関係を持つのも簡単だった」
「志信の初体験の相手って訳だ」
俺の突っ込みに、照れたように志信が笑う。
「アイツも初めてだったけどな」
「何で振られたんだ? バレた?」
はにかむ志信と言うレアなものを見たのに、俺はご機嫌にはほど遠かった。見たことのないその男に殺意さえ湧く。
「いや、友人の枠を越えられなかった。俺は最後までいい奴のままだ」
「身体の関係まで持ったのに?」
「おふざけの延長みたいなものだったからな。賭けに負けた方が犯られるってことで」
苦い笑み。志信にとっては悔いの残る初恋だった訳だ。
「でも、友人のままだったからこそ、信頼できる相手だ。俺に何かあったら、コーキを頼れ。アイツならお前の力になってくれる」
コーキ。志信の初恋。初めての人。そして、信頼できる相手。志信にそこまで言わせる男。俺はいわれのない嫉妬を覚えた。
「嫌だな、志信。何かあった時とか冗談でも言わないでくれ」
「いや、何かあるわけじゃないさ。でも、帰ってきたら、ちょっと面倒なことになるかもしれない」
振り切るように笑う志信の顔は晴れやかだった。その笑顔を俺は一生忘れないことになる。志信の最後の笑顔。
一週間後、志信は出張から帰宅することなく、俺の前から去った。
そして、それはコーキとの出会いに繋がっていくことを、その時の俺は知ることもなかった。

<おわり>

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