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酒と煙草と英国紳士<1> 

新連載です。早川救済?計画です。
未だ、蔵斗が忘れられない早川だが、ある日知らない場所で朝を迎える。
目覚めた早川の前にいるのは、何処と無く蔵斗に似た中年男で。

【酒と煙草と英国紳士】

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<12> <13> <14>完 <番外>

「やぁ、有須。元気かい」
「早川さん」
カウンターの片隅に座るカジュアルな服装の大柄な男は、早川の問い掛けに顔を輝かせた。
ここは会員制褌パブ『将』。そこらにいるのは、ガタイのいい褌姿のおっさんたちか、それを楽しむスーツの男たちばかりである。その中にあって、カジュアルな服装の有須蔵斗は非常に浮いていたが、ここは蔵斗の自宅でもあるので仕方がない。
「倉田くん。和食を。メニューは任せるよ」
「酒に合わせるんで、先に酒選んで欲しいっす」
下にあるレストランのオーナーでもある早川は、常にここで夕食を取るため、料理担当の倉田も慣れたものだ。
「そうだな。冷酒にするか。有須も呑むかい」
「いいですね」
蔵斗が笑い掛ける。それを横目で見たマスターの美作将棋は不快な表情を浮かべるが、同時に諦めの溜息を吐いた。
同じ空間に居たいが為に、蔵斗をカウンターに座らせてはいるが、店のマスターが、恋人に構うために客を疎かにするわけにはいかない。控えめで自己評価の低い蔵斗は不満を口にすることは無いが、構ってくれる相手がいるのは有難かった。
一方の早川は楽しくて仕方が無い。蔵斗は確かに自分を振った相手だが、真っ直ぐな気性も、大きなガタイに似合わない控えめな人柄も好ましいし、何より考え方が可愛らしいのだ。
何というか擦れていない。人との付き合いに慣れていないことがあからさま過ぎて、よくこの都会で生き残ってこられたと思わなくも無いくらいだ。そこは厳ついガタイと強面気味の顔立ちに感謝すべきだろう。
楽しく会話をして、酒も進む。
だが、やはり他人のものだ。いくら可愛くても、抱き寄せるわけにも口付ける訳にもいかない。自嘲するように早川の唇が歪んだ。
「早川さん、どうかしました?」
見咎めた蔵斗が早川に問い掛ける。それに早川は我に返って、柔らかな笑いを浮かべた。蔵斗は早川のこの顔が好きだ。厳つい風貌であるのに、穏やかな表情と口調の早川は、蔵斗がこうなりたいと思う目標でもある。
蔵斗に心配させたことを悟り、今は可愛らしい蔵斗の表情を曇らせないことだけを早川は心掛けた。

目が覚めたとき、早川は自分が何処にいるのか判らなかった。身体の下にあるのはマットレスもないままの布団が一枚。お陰で身体が痛い。
くすんだ天井と、ぶら下がった年代ものの天井灯。部屋に充満する安っぽい煙草の香り。一糸まとわぬ姿なのは、セックスの後だからだろう。
相手の家に上がりこむとは、随分自分らしくも無い、性急なセックスをしたものだと早川は節々の痛む身体を起こした。
「よお、起きたか。そろそろ叩き起こそうかと思ってた所だ」
ワンルームと言えば聞こえはいいが、台所が入り口の横にある部屋は、早川が古い映画などでしか見たことのない安アパートの一室に他ならなかった。
振り向いたガタイのいい男は、早川よりは少し下だろうが、既に中年と呼ばれる年だろう。アンダーシャツ一枚に、下は裾の膨らんだスラックス。何処から見ても肉体労働者といった風情だ。
「すまない。世話を掛けたようだ」
「あんたの服はそこにある。家にゃハンガーなんてもんは無いからな。適当に畳んどいた」
ぶっきらぼうに男が顎で指し示す先には、意外にも綺麗に畳まれたスーツとコートの上に帽子が置かれている。
「ありがとう。何から何まで世話になった」
「いや。楽しませてもらったからな。礼だ」
男は厳つい顔を少し赤らめてそっぽを向いた。照れているのだろう。早川は男の反応に笑いを誘われる。
「ナニ、笑ってやがんだ。早く飯食えよ。俺は仕事なんだ」
乱暴な仕草で、布団の横のちゃぶ台に片手鍋が置かれる。下に敷かれているのは新聞紙だ。早川はなるほどと感心する。鍋敷など無くてもいいのだ。
男が次に持ってきたのは、椀と山盛りの白飯だ。味噌のいい香りが空腹を刺激する。早川は味噌汁を二人分よそい、相手の前に置いた。
「何にも出来ねぇ坊ちゃんって訳でも無いんだな」
「独り身も長いし、執事はもう年だ。何から何までという訳にはいかんだろう」
早川は肩を竦めて椀を取った。味噌汁を啜る。白飯の炊き加減も良かった。
「旨いな」
「そりゃ、どうも」
二人で向かい合わせに飯と味噌汁で朝食を済ませる。何か今までの相手とは勝手が違って、調子が狂う。
「悪いが、さっさと食ってくれ。結構時間ギリなんだ」
食べながら男の様子を伺っていると、男に急かされた。態度もそわそわしている。これは本当にやばい状況なのだろうと、早川は男の言うまま、食事を味わうのもそこそこに味噌汁で飯を流し込む。こういう食べ方など学生の頃以来だ。
スーツを身に着け外へ出ると、玄関先に待ち構えていた男が鍵を掛ける。
「駅は左に行った道を出たところだ」
言い置いて、男は鉄製の階段を駆け下りていった。
その足は速く、早川にはとても追いつけそうに無い。あっという間に遠くなる男の背を見送って、早川はゆっくりと歩き出した。
厳つい顔つきは何処か蔵斗を思わせる。酔ったあげくに何処かで拾ったのだろう。日本人であれば大きな部類に入るだろうが、外国人の中でも巨体だった祖父譲りの百九十越えの長身と立派なガタイを誇る早川には、抱くのに迷いのある程でもない。
多少、肉のつき掛けた身体だったが、中年になれば当たり前だろう。『楽しんだ』などと擦れた言い方はしていたが、どちらかといえば早川の礼に対する照れ隠しのような感じだった。
むしろ、腕の中でどう乱れたのか思い出せないのが残念なくらいだ。
駅に続くと教えられた道を辿る途中で、早川は覚えのある光景に気が付く。
「あれ、早川さん。おはようございます」
「どうしたんだ。えらく早いな」
目の前にいる二人組は見覚えのある所ではない。早川の店の入ったワンダービルの女装クラブの常連客・ソフィアこと相馬と、愛しの蔵斗だ。何のことは無い、ここは駅ビルと隣接している蔵斗と相馬の勤める家電店の裏通りに違いない。
「ふん。まぁ、武士の情けで聞かないで置いてやるよ」
「え? 相馬、どういう」
相馬はニヤリと笑うと、何も判らない蔵斗の背を押して従業員用の通路へと入って行った。あの様子ではどこかでしけこんで来たくらいはバレているだろう。口止めをしようかと考えて、早川は思考を止めた。
それこそ、何の為にという奴だ。執事は心得ている。オーナー仲間は今更だ。蔵斗には、それこそ今更だと思い直す。未練がましいにも程がある。
早川は、朝のまぶしい光の中を、自室のある店に向って歩きだした。

「オーナー。お早いですわね」
「キツイな。基子」
店の扉を開くと、ソファに座っていた基子が、読んでいた文庫本から顔を上げる。
「純粋に驚いただけですわ。朝はここはわたくしだけの空間だと思っておりましたもので」
メイドの基子はこのレストランを実質的に切り回している存在だ。彼女は元々早川家の使用人ではなく、このレストランの常連から従業員になった変り種である。何よりもこのゴシック風に整えられた非統一な空間が好みであり、そして、早川の祖父の本の愛読者だ。
「可愛いアリスに夢中になってから、至極真面目な生活態度でしたが、そろそろ元に戻って羽目を外されても構わないと思いますわ」
基子に指摘されるまでも無く、蔵斗に夢中になってからの自分が規格外だったのは承知だ。だが、それは決して無理をしていた訳ではない。
もちろん、それまでの生活を知る基子に、そんなことを言っても笑って流されるだけだろう。早川は自戒を混めつつ、笑って受け流すしか無かった。
自室に戻り、ごろりとソファーに横になる。柔らかな感触は馴染みのあるものだった筈なのに、何故か今朝置きた時の布団の硬さを思い起こした。

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