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酒と煙草と英国紳士<5>*R15 

貪るような口付けを交わし、畳の上へと倒れこむ。早川が津行を転がしたのは、座布団の上だ。腰を掲げて、早川が座っていた座布団も津行の下へ敷く。
乱暴なのか、気を使っているのか解らないな。と津行は考えて笑いが口元へ浮かんだ。
「何だ? 何か可笑しいか?」
「あんた、焦ってんのか優しいのか解んねーな。こういう時は畳の上でヤルだけっつーのが普通じゃねーの」
ゲラゲラと声を上げて笑いながら、津行が早川の首に腕をまわす。早川の顔が近いと思う間もなく、噛み付くように口付けられた。瞳を閉じる隙も無い。互いに目を開けたままだ。その瞳にイラついたような色を見て、津行はますます笑ってしまう。
「僕を誰と比べている?」
「さてな。俺もこの年だし、初めての子猫ちゃんじゃねーのは承知だろ」
もちろん、そんなことは早川も承知の上だ。だが、正面切って言われるようなことでもない。互いに知らないフリをするのがマナーだろうと思うのだ。
風呂上りの津行は、ランニングにスウェットの下だけしか身に着けていない。スウェットをずらすと、勃ちあがり掛けた股間が顕わになった。
「下着も無しか。誘っている訳だ」
「ヤルのが解ってんだ、無駄だろう」
ニヤリと笑う津行の表情は、興奮していることを示してはいるが、行為に溺れている訳では無い。早川は乱れたこの男を見たいと思った。
意地の悪い気分で、指先を奥へとねじ込むと、そこは既にオイルで濡れていて、早川の指を容易に受け入れる。
「準備万端か」
「乱暴な奴だと怪我をするのはこっちなんでな」
風呂に入る前に抱かれることは判っていたのだから、準備をしていない方がどうかしている。
「じゃあ、遠慮は要らない訳だ」
立ち上がった早川が服を脱ぎ捨てた。その間も視線はじっと津行を見定めている。まるで獲物を目の前にした獣の瞳だ。そういう顔の方がこの男には似合っていると津行は思う。
食われる覚悟をして横たわった津行に、早川が覆いかぶさってきた。足を抱え上げられ、性急に繋がる。
「あ、…ッ」
「淫乱」
声に篭る僅かな愉悦の響きを見透かされ、早川に侮蔑の言葉を突きつけられた。思わず腕で顔を覆うと、その腕を取られ押さえつけられる。
「悪くない。いい身体だ」
早川の顔には意地の悪い微笑が浮かんでいた。津行を嬲ることを楽しんでいる。
「あんたも悪くない」
津行も笑いながら言った。こんなおっさんの身体で喜んでくれるのなら、お安い御用だ。
早川が無言で何度も津行を穿つ。目を閉じてひたすら自分の快楽だけを優先している顔は、普段の取り澄ました表情よりもずっといいと思う。
「ひ、…あん」
早川の切っ先が津行の弱い部分を掠った。思わず声が漏れる。その声に驚いたように早川が目を見開いた。口を押さえるが、もう遅い。早川がニヤリと津行に笑い掛けた。
「あ、駄目ッ、だ。そこ駄目」
「駄目だって言われて止める男がいたら逢ってみたいものだな」
態と緩慢な動きで津行の感じる部分を暴き立てる。声を殺すことなどもはや不可能だ。早川の望むままに津行は細いあえぎを上げ続けた。

「ゆきさん、太陽が黄色そうな顔してるッすよ?」
「おめぇ、そんな古い表現よく知ってんな」
じろりと若い鳶を見上げる津行は、コンクリートの階段に腰を下ろしたままだ。昼休みだが、広げたコンビニ弁当を食う気力もない。
「飯、食わないんすか」
「あんま入らなねぇな。おめぇ食うか」
「ありがたく頂くっす!」
半分も減っていないとんかつ弁当を差し出すと、受け取った鳶はガツガツと食い始める。もう自分の弁当は平らげた筈だ。
「若けぇな。二つも入んのか」
「軽いっすよ。現場仕事は体力だってゆきさんが言ってたんじゃないっすか」
「そんなこと言ったか」
記憶を辿りつつ、津行は煙草を咥える。一方的に懐かれていて、何故かとかは考えたことがなかった。
「やっぱ、覚えてねぇっすね。俺がまだ小僧だった頃に、夏の現場でぐったりしてたら、ゆきさんがそう言って、焼肉連れてってくれたんすよ」
「慣れねぇうちは辛ぇからな。まだ筋肉付いてないうちは特に」
建築現場の鳶や土方には十代で働く連中も多い。金物屋や屋根屋と違って大学どころか高校も出てない者も珍しくはない。そういう若い連中にとって、初めての夏はかなり辛いのだ。子供も連れ合いも無く、同年代の連中より懐に多少の余裕のある津行は、小僧どもを連れて焼肉や食い放題に繰り出すことは多い。
どうやら、鳶はそのなかの一人らしかった。
「カッコいいおっさんだって憧れてる連中、多いっすよ」
「そうか」
多少照れはあるが、そう思ってもらえるのは嬉しかった。働くのは辛いしキツいことだが、その中に少しでも楽しみを見つけてもらえれば、やりがいも出て来る。働いた後の飯が美味いだけでも違うのだ。
晴れ渡った空を眺めながら、ひたすら煙草をふかす。早川はそういう楽しさを知っているのだろうか。世界の違う男を思い出しながら、津行は立ち上がった。
「午後も暑くなりそうだな」
「そっすね。でも雨よりマシっすよ」
昔から『土方殺すにゃ刃物はいらぬ。雨の三日も降ればいい』という川柳があるぐらいである。仕事にならないよりはマシだと笑いあった。
仕事を終え、若い連中を連れて串揚げ屋へと繰り出した。同じ現場になっただけの名前も知らないガキ共だが、よく食ってる様子を見るだけで安心する。
ビールを飲みつつ串揚げを頬張っていると、こちらをじっと見つめる小僧と目線が合った。
「何だ?」
「おっさん、俺たち手なづけて何かする気かと思ったけど、ホントに飯食わせてるだけなんだな」
「単に楽しいだけだ」
「みてーだな。前の現場でも連れてってもらったけど、アンタ覚えてねーんだ」
ニヤリと険のある笑みを浮かべると、小僧はそれきり下を向いて串揚げを食い始める。
津行自身、時折自問自答するくらいだ。疑問に思うのも無理は無い。もしかすると寂しいのかもしれない。親兄弟にはゲイであることは内緒だ。恋人もいない。刹那の快楽だけを追うには年を取り過ぎた。
だからこそ、職場の若い連中や褌仲間と過ごす時間を大事にしたいのだ。
不意に早川の顔が浮かぶ。最初に誘いを掛けたときの寂しげな横顔が。

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