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褌と覚悟と英国紳士<酒と煙草と英国紳士・番外> 

酒と煙草と英国紳士番外編。早川が褌を締めた裏側。
本編はこちら


「あ~もう。うちにも可愛い子猫ちゃんが来ないかしら」
天井を見上げて、雅が吼える。幾人かが振り返ったが、いつものことだと無視を決め込んだ。
柱に絡ませた蔓薔薇や、藤、周囲にしつらえられた花壇にはスイートピーなど、可憐で小さな花々が咲き乱れ、いくつものテーブルではさざめく様な話声が上がる。
ただし、まとったドレスの肩幅はごつく、声は幾分低い。女装クラブ「クイーンガーデン」には、今日も様々な女装愛好家が集っていた。
その中でもオーナーの雅は、身体にぴったりとした黒いドレスをまとい、紅いルージュの口元は機関銃のように愚痴を並べ立てていても美しかった。まず、雅を初対面で男だと思う相手はいない。
「クイーン、下品ですわ」
雅の目の前に腰掛けた少女は、紅茶とケーキを嗜みつつ、小言を述べた。こちらは生きたビスクドールといった風情の完璧な美少女だ。動いているのが信じられない程である。
「ソフィアは優しくないのね。アリスみたいな可愛い子と一緒に働いているのに」
雅がぶつぶつ言うのも毎度のことだ。
雅の好みは、外見の可愛らしさよりも中身の可愛らしさである。自分があって、気が優しく、真っ直ぐな心根をもった男が好きなのだ。女装趣味ではあるが、雅もソフィアも、女になりたい訳では無い。
時折、野蛮な男であるという事実から逃避したいのだ。雅はどちらかといえば、相手を抱きたい方だし、ソフィアの恋愛対象は女性だ。
「アリスみたいな子は滅多にいませんわ。だからこそ、貴重なんでしょう」
ソフィアは同僚の男の厳つい強面を思い浮かべ、クスリと笑う。今日は子供に泣かれてうろたえていた。最後にはアリス自身が泣きそうな表情を浮かべていて、他の同僚連中は慰めるのに必死だ。
ほんの数ヶ月前には、職場で遠巻きにされていたことなど、無かったことのようである。
「ナニよ。面白い話があるんだったら、聞かせて」
ソフィアの口元に浮かんだ笑いを雅が見咎めたとき、入り口に取り付けられた鈴が、可愛らしい音を立てた。
新たな同好の士の到来に、雅が満面の笑みを浮かべる。
「ようこそ、クイーンガーデンへ」
だが、扉を開いて入ってきたのは、見覚えのあり過ぎる男だ。
「何だ、創玄じゃないの」
背の高い男は、明らかに生粋の日本人ではないことが一目でわかる。一分の隙もなくスーツを着こなした彫りの深い顔立ちの男は、この『クイーンガーデン』の入った雑居ビルの一階にあるゴシックレストランのオーナーで早川創玄という。
「何だとはご挨拶だな」
「あの、雅さん。お願いがあって」
険悪になりそうな雰囲気を察したのは、早川の背後から店に入ってきた男だ。こちらも大柄で厳つい風貌だが、気の弱さが表情に表れている。
「あら、アリス。何? アリスのお願いなら歓迎よ」
にっこりと雅が笑うが、それは肉食獣の笑いだ。察した有須蔵斗の腰はすっかり引けている。だが、そんな場合ではないと思い直した。
「雅さん、早川さんに褌締めてあげて欲しいんです」
「はぁ?」
アリスのお願いに、雅が声を上げる。寄りによって褌とは。
「嫌よ。何でこの男に締めてやらなきゃいけないの。あんな野蛮な格好、私は大嫌いなの」
「すみません。でも、雅さんしか思いつかなくて。将棋は絶対に悪乗りしそうだし」
アリスの恋人は褌パブのマスターだ。どんな褌でも締められる筈である。だが、確かに相手が昔なじみでオーナー仲間の早川だとなったら、人の悪い男は、悪乗りするに決まっている。それは雅にも簡単に想像がついた。
「そう。将棋よりも私を頼ってくれるのね。嬉しいわ。でも、何で褌なのよ。アンタの可愛いわんこちゃんはもう一緒に暮らしてるんじゃないの?」
後半は早川へ向けた言葉だ。早川はつい最近恋人と暮らしはじめたばかりである。相手はアリスと似たタイプのおっさんで、褌パブの常連だった筈だ。
「いや、彼が褌仲間の一人と揉めていてね。少なくとも僕という人間を認めてもらいたいと思っている」
「お願いします! 雅さん」
アリスが深々と頭を下げる。隣の早川は雅を真剣な顔つきで見ていた。
「いいわ。その代わり、一度でいいからアリスが」
「アリスの女装は無しだ」
言葉の先を察した早川が口を挟む。
「代わりに僕が女装してもいい」
早川の申し出は、雅も予想外だった。口を幾度か開閉させ逡巡した後に、切れ長のまなじりをキッと上げる。
「嫌よ。創玄なんかお断り。可愛い子がいいのよ。アンタじゃ面白くもありゃしない」
「雅さん」
心配そうな瞳をアリスが上げた。それに雅が溜息を吐く。ホントにこの子は真っ直ぐだ。ちょっとだけの意地悪も許してくれやしない。
「もう、いいわよ。締めてあげる。六尺でいいの?」
「はい。ありがとうございます!」
「すまない。雅」
根負けした雅に、アリスががばりと頭を下げる。だが、その隣にいた早川までもが頭を下げてきたのには、雅は驚いて何度も見直してしまった。
英国貴族が祖父であった育ちのいい男は、人を使うことに慣れている。他人のために頭は下げても、自分個人の為に頭を下げるような男ではなかった筈だ。
「創玄。変わったわね」
「津行のお陰だ」
何気に恋人の惚気を聞かされた気分で、雅は面白くない。だが、この男でさえ恋は変えるのだ。それはそれで見てみたい気がした。
「さて、アリス。当然アリスも付き合うんでしょ?」
にっこりと雅は笑う。他人に褌を締めてもらったと知った時の将棋の反応も楽しみだ。このくらいの楽しみはないと。人の悪い顔で雅が笑うのに、早川が苦笑いを浮かべた。
巻き込まれたアリスには可哀想だが、これは覚悟するしか無さそうである。だが、自分の中の本気を恋人に見せるのに、これはどうしても必要なことだ。
「津行。僕に惚れ直してくれよ」
早川の心は既に恋人の下へと飛んでいる。

<おわり>

夏のイベントの無料配布SSでした。
秋の無料配布は新刊にちなんで「三角屋根の魔法使い・その後」です。

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