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キャッチ<1> 

番外としてUPした【キャッチ】の続きというか、視点違いのストーリーです。短期連載になると思います。

自分が『普通』とは違うことにコンプレックスを抱える大学生・柳。
夜の街でピンクサロンの客引きのバイト中に、店の前を通る男は、何もかもが柳の好みで。

【キャッチ】

<2> <3> <4> <5>
<6> <7> <8>完
<サンタは遅れてやってくる> 
<大好きだよ> <貴方と>

俺はぼーっと前を眺めていた。ネオンのまぶしい夜の街。看板を抱えて立っているのは新人しかやらない仕事だ。
正直、そろそろ深夜に掛かる頃で、眠い。今日、提出のレポートに掛かりきりであまり寝ていない。
客の身体に触れない程度に、言葉だけで呼び込みを行うバイト仲間が目の前を行き過ぎる。一人捕まえるごとにバックマージンが入る仕組みだ。
俺はそんな気力も無いし、重い看板を持ったままでかなり体力も削られている。
ひたすら眠い目をこすりながら、あくびを噛み殺した。
スーツ姿や私服と思しきジャケットの男たちが前を通り過ぎる。この通りは風俗店やスナック、居酒屋などの入った雑居ビルの立ち並ぶ、駅から程近い広めの路地だ。
商店街への近道となっているため、人通りは多い。
眠り込みそうな自分を叱咤し、刈り上げた短い髪をガシガシと掻く。頭を振って顔を上げると、前から歩いてくる男が目に入った。
途端、俺は抱えていたピンサロの看板を取り落としそうになる。
鋭い目付き、刈りあげられた髪、肩幅も広く、胸板も厚い。背は俺と同じくらい。おじさんにしては高い。もう五十を過ぎているだろうか。颯爽とした足取りで俺の横を通り過ぎた。
俺は思わず、振り向いてその後姿を追う。
ぼーっと見送っていた俺の視線に気付いたらしい、バイト仲間が声を掛けてきた。
「おい、どうした? ビビったのか?」
「え? 何が?」
掛けられた言葉の意味が解らずに聞き返すと、俺をこのバイトに誘った曳田がイラついたように舌打ちをする。
「あんな野郎はこの辺りにはごろごろいるんだぞ。通る度にビクついてどうすんだ」
「あ、ああ」
思わず気付かれたのかと心臓が縮み上がったが、そうではなく単に今の男のような強面のおっさんにビクついたのかと思われたらしい。
俺の気の抜けた返事に曳田はムッとした顔をした。
どうせ、とろ臭い奴だとでも思っているんだろう。正直、大学でもノリの悪い奴だと思われることが多い俺を、何故に曳田が同じバイトに誘ったのかは謎だが、とりあえず体力勝負の楽なバイトで助かってはいた。
どうしても迂闊な発言をしないか、一瞬考える癖が付いているために、昔から鈍臭いと思われるのは知っていたが、どうしようもない。
俺が未練たらしくあの男の歩いていった方向を見やると、そこにはもう男の姿は無い。
「何処の店に勤めてるのかな」
ぽつりと呟いた声は、周囲で響く呼び込みの声に掻き消された。

それから、俺は一層周囲を見回すようになった。
看板を持ったまま、「いい子いますよ」と声を掛けて曳田に渡す。最初は面食らっていた曳田だが、俺のはきはきとした物言いの所為か、オヤジたちが足を止めるのに気を良くして、ほくほく顔だ。
「どうしたんだ。気が利くじゃないか」
「別に。立ってるだけだと眠くなるからな」
「助かるからいいけどよ」
俺の気の無い返事に曳田は調子が抜けたようだが、そんなことはどうでもいい。これは練習だ。
あの人は、ほぼ毎日この通りを歩く。ずっと見ている訳ではないが、気付いた時には姿は消えているので、どこかの店に勤めていることは確かだ。
きりっと決まったダークカラーのスーツ。居酒屋やカラオケの線は無い。ホストクラブかクラブ。それか、風俗といった辺りだろう。
此の辺を仕切っているヤクザという線も考えたが、それならば店を出て帰る姿を見ないのは変だ。
キャッチならば、知らないフリで話し掛けることも可能だ。一言だけでも言葉を交わせないものかと考えあぐねた選択である。
しゃっきりと伸びた後姿も魅力的な男に、俺は真剣に恋をしていた。
初恋は小学校の頃。いかにも武道をやっていますという感じの数学教師だった。品行方正、文武両道を絵に描いたような、太い眉の男らしいその顔に、俺は見惚れた。
俺は小学校にして、既に自分が他の男の子とは違うことを知ったのだ。
会話をするのに、ワンテンポ遅れる。
当たり前だ。これは『普通』なのかと考えてからしか言葉を出せない。鈍臭い奴、トロ臭い奴と学友たちには思われた。
ばれない様に、普通に普通に振舞うことが苦痛で、俺は一人でいることが多くなった。部活も他人の身体を意識するようになる思春期には辞めた。
いつも、恋は俺にとって遠く眺めるもの。一言でも言葉を交わせれば、ラッキーだと思う。特に今度は相手は大人の男で、俺なんかまったくの子ども扱いだろう。
ちょっとした切っ掛けが欲しい。
毎日挨拶を交わすような間柄になりたい。
それは、思えば少しだけ前に踏み出すことを俺自身が求めた結果なのかもしれない。

「おはようございます」
「おや、今日は早いんだね」
俺が起きだして階下に顔を出すと、太った女将さんが人の良さそうな笑顔を向けてきた。西銀座の裏通り。古い映画館や昭和の香りの漂う古い商店の立ち並ぶ通りの食堂が俺の下宿先だ。まさか、東京二十三区内にあるとは思わなかったまかない下宿という奴。
先代から五十年以上も続けているらしく、二階には四人の男が住んでいる。俺以外は自称作家と単身赴任の若いサラリーマンが二人。
俺は正直、家を出たいが先立ってしまったが、自分の我侭で親に負担を掛けるのをためらう気持ちが強かった。ここが見つかったのは偶然だが、安い下宿は有難かった。
「今日はサバ味噌だよ」
「ありがとうございます!」
「ホントに柳ちゃんは気持ちがいいねぇ」
女将さんの何気ない褒め言葉に、俺は思わず詰まってしまう。
「おや、照れてんのかい」
「は、ははは」
明るい態度も、はきはきした言葉も擬態だ。俺は挨拶や礼だけは必ず言うようにしている。それさえ欠かさなければ、人付き合いは何とかなるものだ。友人連中にも単なる面白みの無い鈍臭い男で通る。
「はい、お待たせ」
「わー。美味そう。いただきます!」
定食屋だけあって、飯は美味かった。今朝はサバ味噌と大根の味噌汁。白飯とヒジキ煮。納豆は俺が嫌いなので出ない。
食事を済ませて店を出た。商店街はそろそろ店を開ける準備を始める頃で、あちこちでシャッターの開く音や、店先を掃除する商店主たちの声が響いていた。
「シゲ。いい加減にしろよ」
目の前で扉が開くのに、俺は顔をそちらへ向ける。それは完全に無意識の行動だったのだが、扉から出てきた男の姿に俺の肩からトートバッグが滑り落ちた。
「仕方ないだろう。そこらの喫茶店よりもお前の珈琲が美味いんだ」
短く刈りあげられた髪には少し白いものが交り、夜の街で見るのとはまた違った印象を俺に与える。だが、ダークスーツに包まれた、広い背中もがっしりとした肩幅も厚い胸板もそのままだ。
「じゃあ、またな」
「さっさと帰れ」
俺の目の前で悪態を付合う二人は、気の置けない間柄だというのは明白だ。あの人は夜の街で俺の前を通り過ぎる時と同じように、颯爽と歩み去っていく。
俺はその後姿を心ゆくまで眺めた。

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