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キャッチ<3> 

「そっか。恋人がいないわけないよな」
朝食はほとんど入らなかった。女将さんの心配に、昨日呑み過ぎたと嘘を吐く。とぼとぼと大学への道を辿りつつも頭を過ぎるのは今朝見たあの二人の様子だ。
ソープランドの経営者だと言ってた。いくつも店を持っているって。たとえヤクザだとしても、寄ってくる相手には事欠かないだろうに、いかにもな悪友を恋人にしているのが意外とも思ったし、逆にそれは情が強いとも考える。
ぐるぐると考えを廻していると、ポンと肩を叩かれた。
「おい、榎木。お前、バイト辞めたって本当か」
振り向くと、曳田が若干怒ったような顔で立っている。ああ、しまった。曳田に挨拶も無しで辞めちゃったんだっけ。
「うん。せっかく紹介してくれたのにごめん」
どういう言い訳をしようかと考えていると、曳田は更に怒って俺の襟首を掴んできた。
「そういうことじゃないっつってんだろ! 辞めたいなら何で相談しなかった!」
相談? 何を? 言われている意味が解らず更に黙りこくる俺に、曳田は急にテンションを下げる。
「すまん。お前がそういう奴じゃないのは解ってるんだが、どうにも腹が立って。それも俺の勝手だな」
一人で納得して俺を放って歩き出した曳田の遠くなる背中を、俺はひたすら呆然と見送りそうになり、はっと気付いて後を追った。
「曳田」
肩を掴んで引き戻す。
「ごめん!」
頭を下げると、曳田がイラついたように舌打ちをするのが聞こえた。
「何に謝ってんだよ。俺が勝手に腹立ててるだけじゃ……」
「それでも、ごめん! 曳田が心配してくれたことだけは解るから」
うん。何に怒ってるかは俺には判らないけれど、それだけは解る。しばらく下げていた俺の頭を、曳田はぽんぽんと叩くと足音も荒く立ち去った。
俺は頭に置かれた手の暖かさと行動の荒っぽいちぐはぐさに頭を上げたが、曳田は既に他の友人たちに声を掛けている。俺はひとりぽつんと残された場所で佇むしかなかった。

その日は、俺は共同レポートの作成で同じゼミの一人のところへと泊りに行った翌朝だった。共同レポートは適当に片付け、完成記念が口実の呑み会が始まるいつものコースだ。
朝まで呑むと頑張るゼミ仲間を放っておいて、ここのところ寝不足気味だった俺は最初の一杯か二杯で意識は夢の中。朝になって目を覚ますと屍累々の有様だ。絡まれると面倒だと、俺はさっさとシャワーだけ借りて部屋を出た。
扉を開いたところで、隣の住人が顔を出す。お気楽な学生とは違い、早朝というにも早い時間なのに、ハイヒールにスーツでフル装備。
「おはようございます。昨日は五月蝿くしてすみません」
「あら、おはよう」
眉を潜められたのに気付いて頭を下げる。
「学生さんなの?」
「はい。昨夜は共同レポートの作成で」
「そうなの。頑張ってね」
年を重た落ち着いた笑顔は綺麗だった。すっと伸びた背中にふとあの人を思い出す。年を重ねてもなお真っ直ぐに前を向いて、背筋を伸ばして歩くあの背中。
俺が好きな大人の背中だ。
誰がいても関係ない。その相手よりも自分を想って欲しいのではなく、好きだと言う自分自身の気持ちを大事にしたい。
俺は駅へ向かって歩き出した。
駅前の裏通りは繁華街が近い為か、いかにも夜の勤め帰りっぽい人たちが疲れを滲ませて歩いている。その中に見覚えのある人を見つけて、俺は思わず足を止めた。
その男は、袋のようなものを金属のボックスへ投げ込んでいる。その姿を見た途端、俺は何も考えていなかった。
「あの、すみませんでした!」
声を上げたものの、何を話せばいいのか判らず、ついこの間の失礼を謝罪する。
「何を謝っているんだ?」
シゲさんが不審そうな声を上げた。完全に不審者扱いだよ、俺。
「あの、この前、俺、貴方のこと知らなくて大変失礼なことを」
顔色を伺い、半ばドモリながら話す俺に、やっとシゲさんは俺のことを思い出したらしい。
「何が失礼だと思っているのか聞かせてもらってもいいか」
「風俗のお店を何店も経営なさっているオーナーさんに、三流ピンサロが声を掛けるなんて。あの、客引きをしていたことはどうか」
口から出るままに適当な言葉で謝罪を述べるが、シゲさんは俺の方をじっと見たままだ。
「うちも五十歩百歩だ。気にしないでくれ」
「そうですか。ありがとうございます!」
シゲさんの口元に笑いが浮かぶ。それに俺は心底ほっとした声を上げた。これで少しは声を掛けやすくなるだろうか。
「おい」
満足して踵を返そうとした俺の肩が掴まれる。
「お前、ちょっと付き合え」
振り向いた俺の肩越しには、非常に人の悪い顔でニヤリと笑うシゲさんがいて、俺の心臓が跳ねた。それから思い出す。ヤクザだっけ、この人。
思い出してちょっと固まった俺の腕を強引に引いたシゲさんが入ったのは、洒落た造りのカフェだった。
通い慣れた風のシゲさんは、一番奥のテラス席へと陣取る。テラスと言っても外にある訳ではなく、一段上のサンルームっぽい場所だ。
こんな場所に来るんだな。と思うと、興味深くてキョロキョロと辺りを見回してしまった。
「お前、何処に連れ込まれると思っていたんだ」
そんな俺にシゲさんはニヤニヤと笑い掛ける。
「え、え~と事務所、いえ、何でもありません」
人の悪さと凄みを同時に押し出した顔に、思わず吐いた本音を口の中に戻した。ヤクザかどうかは不明だが、シゲさん自身がそう思われるのを面白がっているのは判る。
「あの、いつもここで食事を?」
あのテーラーじゃないんだ。ここで食事をすれば逢えるかな。
「何だ、不思議か。奢ってやるから何でも頼め」
「はい。ありがとうございます」
笑顔を浮かべて掛けられた言葉に、俺は嬉しくて仕方がなかった。シゲさんと一緒に食事が出来るなんて、ホント? この俺に都合の良すぎる美味しい展開は絶対に起きたら夢でしたのフラグだろ。
目が覚めたら、絶対にゼミ仲間の部屋で屍累々の仲間入りしてるんだろ。と思いつつ、何度も何度も目をぱちぱちとさせるが、一向に目が覚める様子は無かった。
「お前も呑むか」
「い、いただきます!」
朝から酒か。でも、夜の勤めの人だし今から寝るんだよな。しかも、シゲさんが勧めてくれるものを断るなんて選択肢は俺には無い。
口当たりのいい果実酒かなと思い、朝食を肴にどんどん呑んだ。名前も知らない生魚のサラダと、魚介類のパスタ。肉を焼いたもの。
シゲさんも結構な量を食ってたし、それなりに呑んでいた。それに釣られていた俺は気付かなかったんだ。
自分の酒量をとっくに超えているってことに。

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