スポンサーサイト 

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
*Edit TB(-) | CO(-) 


キャッチ<4> 

「すみません、迷惑をお掛けして」
「まったくだ。呑み過ぎだと言っただろう」
ふらふらで足元の覚束ない俺に肩を貸したシゲさんに『近いから』と自宅らしいマンションへと連れて行かれた。
遠慮はしたかったのだが、家に送ってくれと言う訳にもいかず、かといってそのあたりに捨てていって欲しいと頼む訳にもいかない。
「とりあえず、夜まで休むといい」
ソファに下ろされ、毛布を掛けられた。髪をかきあげられた優しい仕草と冷たい指の感触に、俺のそのまま眠り込みそうになる意識が浮上する。
ぱさりと音がするのはきっと服を脱いでいるんだろう。足音が遠ざかり扉の閉まる音が響いた。
シゲさんの付けているらしい男性向けのコロンの香りの染み付いた毛布に包まれ、俺はゆらゆらと半分以上覚醒しない思考を漂わせていた。
「あー、シゲさんの匂いだ。髪かきあげてくれた指、優しかったな。そういえば、ここってシゲさんの家なんだよなー」
え、家? さっきシゲさん俺に触れた?
自分の置かれた状況にぱちりと目を見開く。さすがに起き上がることは出来なかったが、周囲を見回すくらいは出来た。
部屋の中心に置かれたソファ。ローテーブル。カーテンの隙間から漏れる日の光。ベッドも部屋の中にある。ワンルームにしてはかなり余裕があるが、どう見ても一人暮らしの部屋だ。
ふと、目の前にあるローテーブルに置かれたシャツとアンダーが目に入る。俺はついそれに手を伸ばした。
手に取ったアンダーシャツはまだ少しだけ体温を残している。シゲさんに抱きしめられたらどんな感じだろうか。身体を起こすと少し頭がぐらぐらした。
ぬくもりの残るシャツを抱きしめていると、ガチャリと扉の開く音がする。俺はそのままの形で固まった。
そっちを向いていなくてもシゲさんの視線が痛いくらいに刺さっていることは肌で感じる。呆れているのか軽蔑されたか、思いっきりドン引きされたか。
シゲさんが一歩俺に向って踏み出した瞬間、俺はその場で土下座をしていた。
「お願いします! 抱いてください!」
口から出た言葉は別に覚悟の末とかそんなものじゃない。ただ、呆れているにしろ引かれているにしろ、ヤクザだと言う噂が本当なら、思いっきり殴られる。おそらくぼこぼこにされるどころか本当に殺されるかもしれない。ならば、気持ちくらいは伝えておいても損はない。
「本当は前から知ってました。あの日は近付きたくて態と声掛けたんです」
「それは俺の素性もってことか」
頭の上から降ってくる怒気に、俺は身を硬くした。ヤクザだという噂はどうやら本当かもしれない。
「いえ、毎日あそこを通って行かれるので、何処かの店にお勤めの方だと思い込んでいました。西銀座のテーラーの方とお付き合いされているのも知ってます。一度でいいです。お願いします!」
「あん?」
西銀座のテーラーの話はどうやら禁句だったらしい。意外そうに聞き返された声はドスが効いていて、俺は思わずびくりと身体が震えるのを感じた。
「それは何処かで噂にでもなってるのか」
「いえ、俺あの近くに住んでて、一度見掛けてからは注意して見ていたんです。そしたら、昨日」
どうやらバレていることを警戒していたらしい。俺は慌てて顔を上げた。思い出してジワリと涙が滲む。
「お願いします!」
いい年の男が泣き顔なんて見られたくない。再び頭を下げると、シゲさんがソファの隣に腰を下ろしたのが判る。そのまま、胸に抱き寄せられた。
慰めてくれるつもりなのか、同情でも何でもいい。
「ありがとうございます」
「悪いが、男は初めてだ。抱いてやってもいいが、肝心なところで役に立たないかもしれない。それは勘弁してくれ」
あのテーラーの人とはプラトニックなのかな。でも。
「はい。俺にその気になってくれただけでも嬉しいです」
声は掠れていたが、礼だけは言った。これは俺の我侭だ。優しいキスで唇を塞がれる。
さすがに大人の男のキスだった。口の中に舌が忍び込んできたかと思うと、好き放題に動きまわる。俺は必死に息をしようとしたが、窒息しそうだ。
やっと唇が離れたところで、俺は思わず咳き込む。これでは色気も何も無い。
「何だ、本格的なキスも初めてか。お前、そんなんでよく抱いて欲しいなんて言ったな。何するか解ってんのか」
からかう様に言われて、俺は恥ずかしさで顔を伏せた。もっと遊びなれた風を装った方が良かったか。だが、俺のそんな底の浅い演技などが通用するとも思えない。
「駄目、ですか」
「いや。それはそれで悪くない。男なら誰でも新雪を汚したいと思うもんだろう」
肩を落とした俺に、シゲさんは嫌な感じの笑いを浮かべた。意地の悪い人だ。俺の戸惑いが楽しいんだろう。しかし、例えがものすごく陳腐と言うか。
「何だ。納得がいかなさそうだな」
「いや、いくら何でも、俺の初エッチが新雪なんて柄じゃないなぁって」
言葉にしてみるとますます笑える。笑いを堪えようとして俺はかなり変な顔になってるだろう。
「どうせ、オヤジ臭ぇとでも思ってんだろう。笑いたきゃ笑えよ」
「すみません」
俺が笑いながら頭を下げると、シゲさんは晴れ晴れとした笑顔を浮かべた。
「笑ってる顔の方がいいぞ。湿っぽいのは苦手だ」
シゲさんが立ち上がって、向かいのソファへと移動する。
「シャワー浴びて来い。頭冷やせ」
「え、あの……」
突然、俺から離れたシゲさんに俺は慌てた。
「それで決心ついたら抱いてやる。そのまま帰っても咎めたりしねぇから」
背を向けたシゲさんに、俺はごくりと喉を鳴らす。確かめられているのだ。俺が本気かどうか。
「お借りします」
「台所の奥が風呂場だ。シャワーでもいいし、風呂溜めてもいいからな」
ベッドへ向うシゲさんはこちらを振り向くことは無かった。俺は素直にバスルームへと向かう。
「すげぇ」
扉を開いた瞬間、俺の口を突いて出たのは感嘆だった。さすが、高級マンション。広い。バスルームも脱衣場もとにかく広い。俺の借りてる四畳半が軽く入るくらいの大きさだ。
とりあえず、服を脱いで熱めのシャワーを頭から浴びた。全身綺麗に洗い上げ、ちょっと迷った後に股間の後ろへと手を伸ばす。一応、洗浄の仕方は知ってはいるが、一度もやった事など無い。もちろん、最後まで抱いてくれる保証は無いが、準備しておくに越したことは無いだろう。
濡れた髪を拭きながら、俺は改めてどうしようかと考えた。当然なんだが、着替えが無い。でも、今からベッドに行くのに、きっちりと服着て行くのか? それとも裸のまま? いやいや、それは有り得無い。
いろいろと考えて、俺はシャツだけ羽織って扉を開いた。ベッドの上のシゲさんは俺に背を向けたままだ。
「あの、風呂ありがとうございました」
「帰るか?」
背を向けたままの言葉はすごく優しい。おそらくこのまま帰ることを期待されているのだろう。だが、俺はそのままシゲさんの背中にすがりついた。
「こりゃまた、扇情的な格好だな」
思いつかなかっただけだが、どうやら気に入ってもらえたらしい。シゲさんに腕をとられ、ベッドに引きずり込まれた。

NEXT

FC2 Blog Ranking
完結小説一覧

スポンサーサイト
*Edit TB(-) | CO(-)  Tag List  [ 小説 ]   [ メンズラブ ]   [ オヤジ ] 


Back      Next

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。