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アクシデント<5> 

「なぁ、鹿山。間違ってたら悪いんだけど……」
「はい?」
「もしかして、羽藤と付き合ってる?」
俺は、思わずぎょっとして、固まった。嘘? 気付かれてた? 何で?
「ああ、やっぱり。羽藤がさ、やたらこのところ俺を睨んでるんだよね。で、何かやったかと思ってたらさ、俺が鹿山に触ったときとか、一緒に笑ってるときとかなんだよ。その上、今日」
「今日?」
俺、何かやったか?
「鹿山、朝からスーツ着て、家とは反対方向から来たのに、予定は無いって云っただろ? しかも、昨日と同じスーツ。朝帰りだって白状してるようなもんだ。羽藤の家がこの辺りなのは知ってるしね」
今朝の会話を思い出す。
『鹿山はこの辺りに住んでるのかい?』
『ええ。この先のアパートです』
確かにそんな会話を交わした。しかも、ここ数週間一緒に営業に廻っている江川さんには、俺がどんなスーツを持ってるかなんて、ばれバレだ。
「軽蔑します? 男と付き合ってるなんて」
「いや、逆。そしたら、俺にも可能性あるなって」
「可能性?」
江川さんは、向かい合った俺の肩に手を置いて、まっすぐに自分の方を向けさせると、いきなり頭を下げてくる。
「鹿山。羽藤と別れて、俺と付き合ってくれないか?」
「え、江川さん??」
いきなりのことに、俺はパニックになりかけた。江川さんが? 俺に申し込んでると思っていいワケ?
「鹿山、今朝、すごく辛そうな顔してた。俺なら、鹿山にそんな顔させないよ」
「江川さん……」
「返事がいますぐ欲しいとは云わない。でも、俺は鹿山が可愛いし、いつも笑っていて欲しいんだ。考えてみて欲しい」
まっすぐに俺を見て云う江川さんに、俺の心が揺れなかったかと云えば、嘘になる。
だが、俺はどんなに傷ついても、やっぱり先輩が好きだった。



「解んないなぁ。何でそんなロクデナシがいいんだよ」
困った末に、相談を持ちかける先は、いつも同じ。ずっと施設で一緒に育った桑野正利のところだった。
大体が、護ってくれる親がいない所為なのか、それともそこに来るまでの生活がそうさせるのか、施設育ちには早熟で大人びたものが多いが、正利はその中でも抜きん出ていて、同年代の連中の兄貴分のようなところがあった。
「敏、初めての男だから、引きずってるだけだぜ。そんなストーカー、さっさと別れちまえ。その先輩社員の方がよっぽどいい男じゃん。真面目で、お前だけ見ててくれて、その上趣味まで合うなんて、男と女でも中々いないぜ」
正利の云うことが正しいのは、俺も判っている。でも、先輩のことが好きなのはどうしようもない。
「俺としては、敏にはちゃんとオンナと付き合って欲しいけど、男でも敏が幸せなら別にいいんだ。でも、そんな奴、敏が幸せになれるとは思えない」
「うん。判ってるんだ。でも……」
「さーと。忠告聞く気が無いんだったら、相談なんかするな。お前、答え決まってるだろ?」
正利には、俺の気持ちはお見通しだったようだ。呆れた様に、額を押さえる。
「さと。俺は、本音はそいつと別れちまえと思ってる。男同士ってだけで世間の風当たりは強いんだ。まして俺たちは護ってくれる親兄弟もいないんだぜ? ただな、一人で頑張るな。せっかく自分を見てくれている相手がいるんだ。辛かったら甘えちまえ」
「それって卑怯じゃないかな?」
「そいつは付け込む隙が出来たって喜ぶかもしれないぜ」
正利の云うとおりに出来るなら、俺はとっくに楽になっている筈だ。それはちゃんと判っているのに、俺は先輩を選んでる。
自分でも馬鹿だと云う自覚はあった。けど、どうしようもない。心が欲しいのはあの人だから……。


江川さんは何も云わないまま、一週間が過ぎた。
だからと云って、江川さんの言葉が冗談だったとかは思わない。江川さんは俺が決めるまで待っていてくれるつもりでいるのだ。
その江川さんの優しさに甘えたまま、俺は結局答えを出せずに、ずるずるとそのまま、どっちつかずの状態で過ごした。
週末は、呼び出されるまま先輩に抱かれて、朝から放り出されて、誘われるまま江川さんと過ごす。そんな状態が良くないのは判ってはいたが、俺には先輩の心を確かめることも、江川さんの優しさを失うことも出来なかった。
江川さんは、時折、子供の戯れのようなキスをしてくるけど、それ以上は求めてこない。土曜の朝に、俺がとぼとぼ帰途に着く途中のコーヒーショップで、江川さんは俺を待っていてくれた。優しい笑顔に誘われるままに、二人でモーニングを食べて、レンタルショップや図書館や公園で過ごす。時折、安い三本立ての映画をオールナイトで見に行ったりもする。
俺の懐具合に見合った、過ごし方を提案する江川さんは、きっと大人なのだろう。それを先輩に求めても得られないことが判っているから、俺はついつい甘えてしまう。
次に、江川さんが答えを求めてきたら、どうしようと怯えながら――――。


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