スポンサーサイト 

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
*Edit TB(-) | CO(-) 


キャッチ<6> 

「いらっしゃいませ」
新しいバイト先は、大学の門の前のコンビ二。客は主に大学の関係者のみと言ってもいい。半分以上が大学の敷地にあるため、一般客が近寄り辛いのだ。
入ってきた曳田の若干怒気を孕んだ空気に、バイト仲間の女の子が引きつった顔になる。大柄でいかつい感じの曳田は、唯でさえ女受けが悪かった。
「おい、榎木。ここ何時で上がりだ。時間あるか?」
「上がりは十一時。時間もあるけど」
この間から、曳田には心配かけ通しだ。俺で力になれるならと思いうなずいた。
「じゃ、ちょっと付き合え。その時間だと、ファミレスくらいしか寄れないな。サグウェルで待ってる」
サグウェルというのは、二十四時間やってるイタリアンレストランだ。俺の下宿と曳田がキャッチをやってる店からも近い。夜にあのあたりをうろつくのは気が進まないが、そうそう偶然も無いだろう。
曳田が煙草を買ってから出て行くのを見て、バイトの女の子がほっとした声を上げた。
「あの人、怖い感じですよね。榎木さん、大丈夫なんですか?」
「いや、曳田はいい奴だよ。いつも怒ってるみたいな感じだけど、よく周りを見てるし」
「えー。榎木さんみたいな優しそうな人と友達には見えませんよ」
率直な感想に、俺は苦笑いを浮かべる。それはまんま、大学で初対面だったときに俺が抱いた曳田への感想だったからだ。
だが話してみると、意外と親身で親切だった。怒っているような口調は、ポーズというよりも照れ隠しである。
それだけに曳田の強引さが気になった。何があったのだろうか。

「ここだ。榎木」
「悪い、曳田。待たせたか」
二階の窓際の席で曳田が手を上げる。俺は席について日替わりのパスタセットを頼んだ。曳田の前にも既にピザの皿がある。
「榎木。お前、あのオヤジと何があった?」
声を潜めた曳田が俺の前に顔を突き出した。俺は内心、心臓が飛び出しそうなくらいの衝撃を受ける。何で、曳田が知ってるんだ。
「あの、オヤジって」
辛うじて出た声は、引きつっていることが丸判りだ。
「似合わないことするなよ。あの、オヤジ。お前が声掛けて、仕事辞めたときのアイツ」
「何もないよ」
嘘じゃない。寝ることはしたけど、その場限り、それだけだ。俺の押しつけた気持ちを、優しいあの人が受け取ってくれただけ。それ以上、何がある訳でもない。
「まぁ、いい。でもあのおっさん、お前のこと探してるぞ」
「え?」
曳田の言葉が一瞬、理解できなかった。誰が、探してるって? 俺を?
「その顔じゃ、ホントに何も無いらしいな」
俺の驚きを曳田は別の意味に解釈してくれたらしい。でも、本気で心当たりなんて無いぞ。
「おまたせしました」
日替わりパスタセットを置いたウエイターに、顔を寄せ合う俺たちはじろじろと眺めおろされ、何か誤解の元になっていることに気付く。二人して気まずい雰囲気で顔を離した。
「昨日、おっさんに声掛けられたんだよ。お前は休みなのかってな」
シゲさんに?
「正直に辞めたって言ったら、自分に声を掛けたのが原因かってマネージャー呼んでた。後はさすがにわからん」
「マネージャーに苦情とか」
「いや、それは無いと思う。それなら、マネージャーが俺に何か言うだろ」
思わず眉を潜めた俺に返ってきた曳田の答えに、俺はほっと息を吐く。確かに曳田の紹介でバイトをしていたのだから、何か不味いことがあれば曳田に聞く筈だ。
「とにかく、気を付けろ。あのオヤジ、ヤクザがバックにいるみたいだしな。お前辞めて正解だったぞ」
「うん。ありがとう。気をつけるよ」
曳田の忠告が耳に痛い。正直、何があったのか俺が知りたいくらいだ。一度だけと思い切ったんだが、それが間違いだったのか。
「まさか、俺のことが忘れられないなんて……ある訳無いか」
「何だ。何か心当たりあるのか?」
いつの間にか声に出していたらしい。曳田に聞き返されて、俺は首を振った。有り得無いだろう。こっちは単なる普通の男だ。シゲさんならば、いくらでも選べる。俺ごときに拘る筈も無い。拘ってほしいというのは、俺の願望だ。
曳田の忠告を素直に受け入れて、俺はとぼとぼと下宿への道を辿る。銀座といっても路地裏の下町だ。薄暗い時代がかった街灯の灯りをたよりに歩いていると、目の前の扉が開いた。
俺はぎくりとして店の角に身を隠す。目の前にあるのは、あのテーラーだった。開いた扉から現れたのは、男が二人。一人は大柄な三つ揃いのスーツ、もう一人は明るい色のビジネススーツの若い男だ。
店主と客かと、ほっとして再び歩き出そうとする俺の目の前で、二人の影が重なる。あまりに自然な動作で、俺は思わず見とれてしまった。
「見られますよ。栄太くん」
「うん。ごめん。ちょっと別れ難くて」
「気持ちは私も同じです」
「澄夫さん」
掠めるようなキス。囁く声はあまりに甘さを滲ませていて、俺は他人の情事を覗き見ているような感覚に捕らわれる。
「じゃあ、また」
若い男が身を翻すのと同時に扉が閉まり、俺は漸くそこから動くことが出来た。
男同士のカップルなんて見たのは初めてだ。お互いを想いあっていることが、ほんの少し覗き見ただけの俺にも解る。あんな風になれる相手が、いつか俺にも出来るだろうか。
下を向いたまま歩く俺の肩を、ふいに誰かが引いた。
「お前、見てたな」
振り向くと同時に襟首を掴まれる。ドスを効かせた言葉の調子に俺はびくりと身体を竦ませた。
目の前にいるのはさっきキスしていた男だ。正直、俺はへたれである。身体ばかりは大きいが、小心で腕っ節に自信も無い。睨みつけられて足が震えた。
「いいか。言い触らしたりしてみろ。後でひどい目に合わせるぞ」
ギリギリと襟首を掴む手に力が掛かり、俺は窒息寸前だ。何とかがくがくとうなずくと、力が緩んだ。
急に肺に空気が入ってきて、思いっきり咳き込む。男は咳き込む俺には構わず、歩き出そうとするが、その男のスーツの裾を掴んだ。
「あの、ゲホ…ッ、すみません、ちょっと話を、」
「話?」
「あの、聞いてほしいことが」
男が振り向く。逃がすまいと裾を握った手に力を込めた。
「解ったからスーツを離せ。皺になる」
切り口上に告げる男の顔は、胡散臭さを全面に貼り付けている。
「お、俺もゲイなんです」
「声がデカイ」
緊張して上ずった声を上げた俺の口を男の手がふさいだ。
「話は聞く。そこの神社でいいか」

NEXT

FC2 Blog Ranking
完結小説一覧

スポンサーサイト
*Edit TB(-) | CO(-)  Tag List  [ 小説 ]   [ メンズラブ ] 


Back      Next

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。