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キャッチ<7> 

男に伴われ、俺は鳥居を潜る。下町らしい小さな神社だ。季節ごとの夜店が並ぶことも多い。
「で、何だ?」
男が振り向いた。前に見たときには、綺麗な顔をした柔和な感じの何処か中性的な雰囲気の男だと思ったが、振り向いた顔に浮かんだ表情は結構凶暴だ。俺は思わず、喉の奥でつばを呑み込む。
「俺、いつも何かが違うと思っていました。何で、男ばっかりなんだろうって」
「それって考えなきゃいけないことか?」
俺が決死の覚悟で切り出した言葉に、男の返事は軽かった。
「え?」
「悪いが、俺は男はあの人が初めてでね。同胞を求めているのなら、俺には応えられない」
「そんな……」
薄く笑いながら言う男に、俺は絶望に叩き落される。俺は男しか相手に出来ない。性的な接触をもったのも、あの人が初めてだ。俺といくつも違わないだろう若い男は、俺とは違って器用に男も女も相手にして世の中渡ってきたらしい。
「男だろうが何だろうが、知らないよ。俺はあの人が好きだ。あの人の手が俺を呼ぶ声が、優しい眼差しが好きだ」
真っ直ぐに俺を見たその男の瞳は、俺ではなくもっと遠いところを見ていた。
「あの人の傍にいたい。いる手段がそれなら、俺はあの人を抱くよ。別に抱かれてもいいんだけれど、あの人は俺に手を出すなんてとんでもないって人だったからね」
あの人の恋人はこの男か。まだ若い男。
「じゃ、シゲさんとあの人は」
「ああ。あの男か。あんたアイツが好きな訳だ。何でもないって訳じゃないと思うよ。幼馴染でずっと傍で見守ってきた。単なる友達に出来ることじゃないよな。でも」
男は遠くを見ていた視線を俺に戻す。
「それで諦めるのか。お前の想いはそれだけか」
俺を見下ろす視線は思いの他強いものだった。まるで俺に脅しでも掛けているような。
「あんたはどうして俺にそこまで話してくれるんだ?」
「単なる自己都合。あのおっさん邪魔なんだ。お前に発破掛けてるのも、俺の利益があるからさ。どうする?」
俺の心を見透かしたような瞳が俺を見下ろした。
「俺の言葉に左右されるような気持ちなら、それってどの程度?」
俺は唇を噛み締める。あの人は俺の気持ちを受け入れてくれた。一度だけ、そう言った俺を優しく抱いてくれた人。でも、今あの人は俺を探している。何故。
何でもいいと思えばいいのか。一度きりで諦めるのか。そう男は俺を煽る。
「俺は」
「その何もかも諦めましたって顔、ムカつくんだよな。男だってこと、そこまで重要? 今どき珍しいことでもないだろう」
探していることにしがみ付くのか。しがみ付けばいいのか。
「諦めるのか。諦められる程度ならたいしたことないんだろ。所詮、その程度。男同士ってのに酔ってるだけだろ。何処の厨二病だ。アホ臭い」
あまりな言い草に俺はカチンとなった。
「あ、あんただって言いふらされるのが怖いんだろ!」
そう、そう言って俺を脅したのはこの男じゃないか。自分だって怖いくせに、異端だって言われることが。
「怖い? 違うね。俺は別に怖くない。俺が嫌なのはあの人の邪魔になることだ。銀座の老舗のテーラー。あそこはあの人の腕一本で支えてきた店だ。その店主が年の離れた男を恋人にしていると噂が立てばどうなる? しかも俺は客だ。気にならない人もいるだろうが、気にする人も出て来る。あの店とあの人の腕に傷など付けたくない」
男の言葉は淡々と事実を述べている。俺はそれに男の覚悟を知った。俺はどうだ? どうする、どうしたい?
「良く考えてみろ。自分がどうしたいのか」
がくりと膝をついた俺の横を男が通り過ぎた。

下宿の窓から下を見下ろす。いつかシゲさんが現れるのを待っていたように。再び、ここでシゲさんを待つ。
だが、一目見れればいい。一歩でも近づければ、一言でも話せればいいと思っていたあの時とは違う。俺がここでシゲさんを待つのは、行動を起こすためだ。
話せば触れたくなる。触れればその先を。
一度きりと思いきってはみたものの、『探していた』と聞けば、期待もする。綺麗な思い出だけで満足するのは年を取ってからでいい。
だが、中々シゲさんは来ない。三日四日と過ぎて、俺は段々焦れてきた。
ここ以外にシゲさんが来そうな場所。店のある通りには曳田がいる。後は朝食を取りに行ったカフェとカフェの近くにあったマンションだ。マンションの方は諦める。したたかに酔っていたので場所がかなり曖昧だ。帰宅する時も、逃げることしか考えていなかったので、記憶が定かではない。
とすれば、あのカフェだ。
「いらっしゃいませ」
小奇麗なカフェは、俺のような学生はあまりいない。俺は多少の気後れを感じつつ、いつかシゲさんと座った日当たりのいいテラス席を選んだ。
メニューを見ると結構高めで、学生がいないのは納得できる。俺は覚悟を決めて、モーニングのセットメニューを頼んだ。なるべく長居をしたい。
「いらっしゃいませ」
ドアが開き、良く通る店員の声がする度に、俺は入り口に視線を移した。二時間くらい過ぎて、そろそろ今日は諦めようと時間つぶしに読んでいた専門書を閉じたとき、がっちりとしたダークスーツの男が入ってきた。
店員が男に何事かを囁くと、男は視線をこちらに向ける。
男の厳しい瞳が俺を射抜いた。
ゆっくりとこちらへと歩いてくる。俺は一歩も動けずにいた。ただ、その視線に絡め取られたように俺は腰を浮かし掛けたままの姿勢で固まる。
「座れ」
命じられたままに腰を下ろした。
「もう、鬼ごっこは終わりか?」
シゲさんの低い声は、恫喝を含んでいる。怒ってることは明らかだ。
「ベッドから逃げられたのなんか初めてだ。ここにいたってことは覚悟は出来たってことでいいんだな」
俺は言葉を捜す。その前に聞かせてほしいことがあった。
「あの、俺を探してたって聞きました。何故ですか」
おずおずと言い出した俺に、シゲさんは大きく溜息を吐く。
「それをお前が言うか」
額を抑えたシゲさんの前に、珈琲が運ばれてきた。
「とりあえず、今日は付き合え。いいな?」
「はい」
拒否を許さない口調にうなずく。緊張で声が掠れた。
「俺たちはいろいろと言葉が足りなさそうだ。お互いにな」
そんな俺に気付いたのか、シゲさんが俺の髪を優しく撫でる。俺はここにいてもいいのだと感じて、一気に足から力が抜けた。

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