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キャッチ<8>完 

二人して向ったのは、すぐそばにあるシゲさんのマンションだった。部屋へ入ると、背後から抱きしめられ、後ろを向かされてキスをされる。無理な体勢と大人のキスに腰が砕けた。
「脱げ。それとも脱がされたいか」
低い声が耳元で響く。その声に陶然としかかった俺は、はっと気付いた。
「ぬ、脱ぐって何で」
「風呂入るんだよ。お前も一緒にな」
ふ、風呂? いや、あの。
「何で俺も一緒、」
「逃げられちゃ困るからだ。それと」
準備がいるんだろう。と耳元で囁かれて、俺は頬が熱くなるのを感じた。つまり、今日は絶対に最後までやる気なんだ。
「あの、逃げません。準備は自分で、その」
何でこんなにやる気満々なのかは判らないけれど、準備まで見られながらなんて恥ずかしすぎる。
何とかシゲさんの腕から逃れようと試みるが、身体はデカいけれど荒事とは無縁な俺には、逞しい身体つきのシゲさんから逃げ出すことは不可能だった。
そのまま腕をとられ、バスルームへ引きずり込まれる。
「どうしても、嫌か」
じたじたと抵抗する俺に、シゲさんの優しい声が掛かった。俺がふっと目を上げると、シゲさんの寂しそうな瞳と視線が絡む。
「嫌、じゃなくて、恥ずかしいです。ちゃんとしますから」
「そうか」
見ていられなくて目を伏せた俺の頭に、シゲさんの手がぽんと置かれた。
「あまり、待たせるなよ」
バスルームの扉が閉まった音で、俺は漸く息を吐く。とにかく、さっさとやらないと乱入されそうだ。俺は服を脱ぎ捨てシャワーを手に取った。

「あの、お待たせしました」
準備を終えて出てきた俺を、シゲさんがじろじろと眺め回す。
「その格好、結構そそるな」
今日も俺はシャツだけ羽織ったままだ。指摘されて俺はかあっと頬を染める。
「来い。今日は逃がす気は無い」
差し伸べられた腕が俺を掴んだ。そのままベッドへと直行される。俺の身体を気にいってくれたのか。それともただの好奇心か。ぶつかってみなきゃ答えは出ない。
「待ってください。その前に」
俺は腕を突っ張って、キスしようとするシゲさんの胸を押し戻した。
「名前、教えてください」
俺の問いに、シゲさんが目を見開く。俺はテーラーの店主が呼んでいた『シゲ』という呼び名しか知らない。
「そういえば、互いの名前も知らねぇな。碓氷滋(うすいしげる)だ。お前は?」
「俺は、榎木柳(えのきりゅう)です」
「竜? 強そうだな」
シゲさん、いや、滋さんが笑った。
「いえ、柳って書いてりゅう。祖母が付けた名で」
「俺の『滋』は草木が育つって意味だ。名前も対みたいだな」
滋さんが身を起こし、煙草に火を点ける。
「何でお前、この間消えた?」
「だって、あれ以上優しくされたら、俺立ち直れません」
滋さんががくりと肩を落とした。
「やり捨て前提かよ。俺はどれだけ鬼畜かっての」
「すみません」
そこを誤解していたことは謝る。しかし、ノンケ相手に期待しすぎは禁物だ。
「あのな。俺は男は範疇外。その俺がお前を相手にしたのは、少しは気持ちがあるとは思えないのか」
「男は範疇外だからこそ、期待しないようにしてるんです」
「期待しないのに、俺に声を掛けたのか。一度きりで諦める気だったわけか」
滋さんの声に怒気が篭る。
「そうです」
あの時、滋さんに気持ちを知られなければ、もっと違う関係も築けたかもしれないが、もう遅かった。
「でも、諦めるくらいなら、もう一度ぶつかってみようと思って、あそこで待ってました」
どうせ砕け散るのなら、当たった後でもいい筈だ。あなたが探してくれた可能性に賭けた。
「お前なぁ」
呆れたような滋さんの声が掛かると同時に、俺の身体が抱きこまれる。
「可愛いよ。お前は本当に。あそこ辞めたって聞いてほっとした。お前に夜の街は似合わない」
抱きしめられる身体は温かくて、掛けられる声はひどく優しかった。
「可愛い」
キスされて、舌が忍び込んでくる。それは煙草の味がした。
「覚悟しろよ。もう押さえ利かないからな。じじいを散々振り回しやがって」
「覚悟はしてます」
俺は嬉しくて、少し涙ぐんでいた。気付いた滋さんに舌で舐め取られる。
「ちゃんと恋人としてだからな」
「え?」
可愛いだけでもう舞い上がっていたのに、『恋人として』なんて嬉しすぎる。
「何だ、その意外そうな声は」
「いえ、滋、さんってそういうの言いそうにないし」
俺の言葉に滋さんはますます呆れたような顔になった。
「お前が誤解するからだろうが。まったく、似合わねぇことばっかりやらせやがって」
怒ったような声で言う滋さんに、俺は顔がニヤつくのを抑えきれない。
「元は取らせろよ。年寄りはしつけぇぞ」
脅すような声も態度もポーズだ。俺は幸せな気分で滋さんの背に腕を回した。

「俺の三十年来のツレだ。スミ。俺にもっとも似合うスーツを作ってくれる男だ」
厳つい顔が俺を見下ろしている。開店前のテーラーは珈琲の香りが漂っていた。
「手前ぇ、俺に男なんざ気が知れねぇとか散々言った挙句に、男かよ」
「あん? お前ぇのとこのガキの何が可愛いのかなんざ、未だに解らねぇな。こいつは最高に可愛いがな」
店主が吐き捨てるのに、滋さんも負けてない。双方ともに掴み合いの喧嘩が始まるのではないかと思う勢いだ。
「お前に解って貰わなくても、栄太は可愛いんだよ」
「澄夫さん」
背後で聞いていた背の高い男は、夜の神社で俺をけしかけた男だ。その男もあのときのような冷たい雰囲気は也を潜め、嬉しそうに店主の背後から抱きついた。
「え、栄太くん?」
店主の言葉と表情がいきなり柔和になる。
「栄太って、今みたいに呼んでよ」
栄太は嬉しそうに店主に微笑んだ。可愛いというよりは男前な顔がいとおしげに店主を見る。店主が頬を染めた。
「そ、それより。よろしく頼みますね。こんな男ですけれど」
店主が無理やり話を戻す。それは強引過ぎて不自然ですと言いそうになるが、ニヤリと俺を見た栄太に、言葉を呑み込んだ。
「ああ? こんな男ってどういう意味だ。おら」
「そのまんまだ。こんな真面目そうな子を誑し込んだのを心配してるだけじゃねぇか」
再び不毛な言い争いになりそうな二人を、栄太は後ろから抱きこみ、俺は滋さんの袖を引く。大人だと思っていたが、そういうところは子供みたいだ。
「あの、滋さん。そろそろ俺、大学に」
サボるのにも限界がある。そうでなくても、ここのところ精神不安定でちょっと疎かにし過ぎた。
「じゃ、送っていくぞ」
「いえ、下宿に帰って荷物を取ってこないと」
「じゃ、下宿まで一緒に」
「止めとけ。お前じゃ早水の女将さんが心配する。何処のヤクザに絡まれたのかって通報されるぞ」
肩を掴んで、店主が滋さんを止める。俺にあごで『行け』と示した。確かに店主の言うことは間違ってない。
「何だぁ、」
突っかかる声を背に俺は走り出した。今度は逃げ出すためじゃない。俺は走りながらスマホを取り出し、メールを打った。
『行ってきます。何処で待っていればいいですか』
メールは苦手らしい。返信まで間があった。
『大学終わったら連絡しろ』
言いたいことだけ伝えてくる滋さんに、俺はふっと笑う。俺の肩を誰かが叩いた。
「榎木。どうした、楽しそうだな」
振り向くと、曳田の不機嫌そうな顔がそこにある。
「うん。まぁな」
「何だ、女かよ」
「まぁ、そんなところ」
「ち、幸せそうな顔しやがって」
声は悔しそうなのに、頭にぽんと乗った曳田の手は暖かかった。いつか、こいつには話すかもしれないな。と俺は笑いを浮かべる。
「へへ、曳田って優しいな」
「何だ。気持ち悪ぃ」
曳田がますます不機嫌そうに顔を歪めた。それを俺は笑い飛ばす。それも日常のひとコマだ。

<おわり>

これにて本編は終わりです。
ラブラブ番外編NEXT

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