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辿り付いたところ<憧憬の王城>新年SS祭り 

新年SS祭り。今回は意外なCPや、面白リクエストが多かったので出来る限りお応えしてみようと思います。
基本、主役は上位CPですが、他CPとのコラボが多いかもしれません。

次点四位「アデイール×誠吾」 本編「憧憬の王城」

【辿り付いたところ】

頬に当たる冷たいものに、窓際へ座っていたアデイールは空を見上げた。
「雪、か」
ここへ落ち着いて数年が過ぎている。生まれ育った山城とは違う環境にもようやく慣れてきた。
ふわりとアデイールの背後からコートが着せ掛けられる。
「セイ」
「見ているこっちが寒い」
振り向いた先には寒さに震える初老の男が立っていた。半裸のように見えるアデイールの上半身に身に着けた毛皮は、アデイール自身の体毛だ。半ば獣であるアデイールは多少の寒さにはびくともしないが、アデイールの魂の半身は非常に脆弱な肉体しか持たない。
「何か暖かいものでも食べに行くか」
アデイールは男に笑いかけ、着せ掛けてくれたコートの前を留めた。男が笑って立ち上がる。
「何にする?」
「シチューがいいな。肉と野菜がたっぷりと入った奴」
問い掛けられて、セイが答えた。
「ショーンの酒場か」
街の入り口にある小さな酒場は、宿屋も兼ねている。こんな街道を外れた街でも時折来る物好きがいないこともない。
ショーンはそういう物好きと街の独り者の為の酒場だ。店主のショーンは二十年程前にこの地へ辿り着いた異邦人である。
この街は、異邦人とその子孫たちのひっそりとした街なのだ。
「おや、王様。セイもいらっしゃい」
扉を潜ると、小柄なショーンの陽気な声に出迎えられる。王様というのはアデイールに付けられたあだ名だ。
「運がいいよ。今日は吟遊詩人が来ている」
「吟遊詩人?」
ショーンがメニューを置き、カウンターを指し示す。そこには長い黒髪の男と三弦を抱えた金茶の短髪の男がいた。短髪の男が座り込み、三弦を奏でだす。旋律は優しく穏やかな音色だ。それに合わせて黒髪の男が歌いだした。春の歌。花々が芽吹き、街に市が立つ。華やいだ季節に人々は浮かれ、美しくなった乙女たちが恋をする。
「優しい歌だな」
セイが呟き、テーブルの下でアデイールと手を重ねあわせた。一瞬、驚いたアデイールはすぐに意図を悟る。
出逢った頃、まだ少年だったアデイールと、言葉も通じずこの世界に飛ばされてきたばかりのセイ。心を通じ合わせ、ここに至るまでの道のりを思い起こす。そんな歌声に聴き入った。
優雅に二人の男が頭を垂れると、多くもない客たちは揃って惜しみない拍手と銅貨を男たちに投げる。セイも銀貨を投げた。
それに長髪の男が眉を寄せる。
「申し訳ないが、こんなに貰う訳にはいかない」
どうやら、芸人としてのプライドに傷を付けてしまったらしい。銀貨を差し出す男に、セイは苦笑いを浮かべた。
「いや、昔を思い出して浸ってしまった礼だったんだが」
「そうだとしても歌の代金としては」
「ヴェルハ」
言い募る黒髪の若い歌い手を、背後から短髪の三弦の吟じ手が止める。
「失礼いたしました。旦那様方。もう数曲お望みはございますか」
にっこりと愛想良く笑う男は、若い歌い手の相方にしては随分と年上のようだ。ガタイが良く、吟遊詩人と言うよりも騎士か軍人と言われた方が納得出来る。
その男に、セイはふと以前に会った騎士を思い起こした。
「じゃあ、もう一曲、いいだろうか。ティアンナの伝説の騎士の歌を」
「『焔の剣の騎士』を。承知いたしました」
吟じ手がセイとアデイールの目の前で、三弦を奏でる。打って変わって力強くそれでいて幻想的な音色。合わせて歌い手が朗々とした声を上げた。
伝説の魔術に守られし国。豊かではないが、活気のある幸福な国。その守りが破られたとき、二人の男が立ち上がった。魔を切り裂く剣は焔と光。皇女を救い国を救った騎士たちの伝説。
圧倒的な力を持つ魔物の前に、傷ついても立ち上がる騎士たちの焦燥と力強さを、三弦と朗々とした声が切々と歌い上げる。まるで、その場にいたかのように真に迫った騎士たちの心情を。
歌が終わったとき、その場の誰もがほっと息を吐く。頭を垂れた吟遊詩人たちに拍手が湧いた。
「リベア殿や魔術師殿はお元気だろうか」
「ああ。きっと」
知らず、ぽつりと呟いたセイに、アデイールが力強く答えを返す。四人で共に渡った場所を思い出そうとしたが、おぼろ気な記憶しかない。己の故郷だというのに、そこは既にセイには遠い場所でしかなかった。
「アデイール」
隣にいる男を呼ぶ。
「何だ、セイ」
当たり前のように応えがあった。
「いや、何でもない」
もう一度、テーブルの下で手を重ねたとき、幾頭もの蹄の音と、奇声を上げる男たちの声が、騒がしく近づいて来た。
「野盗か!」
アデイールが剣を片手に外へと飛び出す。セイも腰の矢を手に取った。
十数人の野盗の前にアデイールが立ちはだかる。手に手に剣や斧を持った男たちは、常ならば街道沿いで人を襲っているが、食い詰めると小さな街を襲い、女や食物を手にしていた。
この街にも何度か襲来してはいるが、全てアデイールが退けている。何処の国にも属していないこの街では、個人の力でどうにかするしかないのだ。
だが、そろそろ限界だろう。今回はたまたまアデイールがショーンの店にいたからいいようなものの、でなければ何人かが犠牲になっていたに違いない。
アデイールは剣を握る手に力を込めた。
ここはセイとアデイールの最後に辿り着いた場所。誰にも邪魔はさせない。
襲い掛かってくる男たちを剣で傷つけ、戦意を失わせる。意図的に関節部を狙い一撃で動きを止めた。多数を一人で相手取るのはアデイールの得意とするところではない。
人数を減らしながらもアデイールの囲みは段々と狭まってきていた。
セイが弓を引く。アデイールを倒すのに必死で、野盗は誰もこちらに注意を払ってはいない。矢は五本。全員を打ち倒すには足りない。
背後からアデイールを襲う一人に狙いを付ける。鋭い一矢が飛んだ。
野盗の一人が倒れ付す。その隙に黒い影が躍りこんだ。
ごとりと重いものが落ちる音が響く。同時に耳障りな絶叫と息苦しい程の濃い血臭が辺りにたちこめた。
腕を無くし転げまわる男たちを見て、アデイールを取り囲んでいた男たちが一斉に引く。アデイールを庇うように剣を構えているのは、先ほどの歌い手だ。
引いた野盗目掛けてセイが矢を放つ。一人が倒れ付すのと同時に、背後から三弦の吟じ手が巾広の剣を振るう。それきり男は動かなくなった。
黒髪の歌い手とアデイールは背中合わせに周囲を見回す。残ったのは既に数人。時間の問題だった。

最後の一人が倒れたとき、ショーンが喝采を上げる。固唾を呑んで成り行きを見守っていた客たちもそれに和した。
「これで二度とこの街に手を出す奴はいなくなったぞ」
二人の吟遊詩人がショーンを振り返る。
「親父。約束の払いをしてもらおう」
「ああ。もちろん」
金貨を幾枚もショーンが握らせた。男たちはそれを受け取ると、そのまま街の外へと足を向ける。
「傭兵を雇ったのか」
「ああ。俺たちの街だ。王様に頼りきりじゃない。俺たちも守る。皆で金は出し合った。あんな報酬だが、来てくれる傭兵がいた」
アデイールの問いに、ショーンが答え周囲の皆がうなずきあう。傭兵を雇うには小額だが、こんな小さな街では大金だ。
セイがアデイールの元へ寄り添う。
「俺たちの場所だ。俺たちの街だ。俺たちだけじゃなく、皆が大事にしている街だ」
セイの言葉にアデイールが笑った。辿り着いた街は、優しくて逞しい。二人で寄り添い合って暮らすのに相応しいところだった。

<おわり>

アデイール×誠吾。久しぶりに書いてみました。既にアデイールも三十半ばくらいかな。
傭兵で芸人な二人は、もちろんあの二人です。
新年SS祭り・第二弾「旅の空」

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