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そこが俺たちの家<残り香>新年SS祭り 

新年SS祭り・第三弾。二位「高良×尚志」 本編「残り香」

【そこが俺たちの家】

「いらっしゃいませ」
鮎川尚志は入ってきた客に穏やかな声を掛けた。ここは、山間部にある温泉宿のそばにある町だ。
ここで鮎川が喫茶店を営み始めて既に数年が過ぎている。道の駅で販売している地元産のリキュールの効いたパウンドケーキと、これまた地元産の新鮮な野菜と肉、川魚を使った素朴な料理は、尚志の静かな美貌と相まって、結構な評判になっていた。
だが、さすがに雪が降り始める頃には温泉客も足を伸ばすことも減ってくる。それゆえ、まだ昼には早いこの時間は結構閑散とした雰囲気だった。
「お好きな席へどうぞ。ストーブのそばは温かいですよ」
背の高い男が二人。どうも一人は外国人のようだ。彫りの深い顔立ちときっちりと着こなしたコート。それに細い傘でも持てば、映画に出て来る英国紳士そのままといった感じである。
「ああ。ありがとう」
だが、男ははっきりとした日本語で礼を告げた。尚志はほっと息を吐く。外国人の客がいない訳では無いが、やはり年に数度使うかどうかという英語では接客は心もとない。
「鮎、おはよう」
「ああ高良、おはよう。あすこのお客さん、今来たばかりやけん」
起きだして来た同居人兼恋人に小声で状況を説明した。高良は万事心得たとうなずいてみせる。
「何が旨いんだ?」
「うわ。だご汁がある。懐かしか」
コートを脱いだ男の問いに、ジャケットにジーンズ姿の肉付きのいい男が声を上げた。どうやら、この辺りの出身らしい訛りがある。
「創玄さん、ステーキが地元で育ててる牛なんだ。旨いよ」
「ほう」
「あ、麦飯が栗入りなのか」
「どれも旨そうだな。二人で食べればいい。単品で頼めばいいさ」
紳士っぽい男が手を上げるのに、高良が走り寄った。
「何にしますか?」
「この栗飯と、ステーキ、田楽と最初に何か言ってただろう。津行」
「だご汁も」
勢い込んで言う男に高良はしっかりとうなずく。
「はい、鮎。栗飯、ステーキ、田楽、だご汁」
「鮎は頼んでないが」
声を上げた高良に、紳士は不思議そうな声を掛けた。どうやら、誤解されてしまったらしい。
「すみません、お客さん。鮎って言うのは俺の呼び名で。本名が鮎川なんですよ」
「それは失敬」
尚志が笑いながら言うのに、紳士はいかにも紳士っぽい返事を返す。その決まりすぎた仕草が、隣に座るジャケットにジーンズ姿の男の庶民的な雰囲気とは掛け離れていて、一体どういう間柄かと考えてしまった。
「ところで、本当に良かったのかい。声も掛けずに」
「ああ。今更顔を出す気もねぇしな。第一、あんたをどう紹介すんだ?」
男の声はそう大きい訳では無いが、かといってひそめるでも無い。盛り付けをしている尚志や朝の珈琲を入れる高良には丸聞こえだ。
「僕はその間は宿に帰っていても」
「二人で旅行に来てんだぜ。あんたが俺の家が見たいっつーから見せたけどよ。今更、帰る気もありゃしねぇ。俺の家はあんたといるあのマンションでいいじゃねぇか」
男の言葉をそ知らぬフリで聞き流しながらも、尚志はツキンと胸が痛む音を聞いた気がした。どういう経緯でかは知らぬが、新しく家族になったであろう男たち。昔は捨てたというのだろうか。それとも。
「高良。よろしく」
振り切るように尚志は高良へ微笑みかける。
「ああ」
それに応えるように穏やかな笑みを浮かべた高良が、盆に乗せられた料理をテーブルへと運んでいった。
「お待たせしました。お客さん、こっちの方ですか」
「ああ。『だご汁』って言ったからか」
「俺、東京出身なんですけれど、最初何のことか分らなくて」
「何の事だ?」
交わされる会話に、焦ったように紳士が割り込んだ。
「ここらでは『だんごじる』じゃなくて『だごじゅ』って言うんだ。方言だし、東京じゃ分かんねぇよな。俺も久しぶりに帰ってきたが、やっぱりそこは方言出るな」
「ぬくもるとか、とってはいよとか柔らかい感じですよね」
「兄ちゃん、東京か。珍しいな」
「津行」
会話を続けようとした男の言葉を紳士が遮る。
「プライベートだろう。連れが失敬したね」
「悪ぃな」
にっこりと微笑む紳士の言葉に、男が頭を掻きつつ謝ってきたが、そのくらいなら高良も慣れていた。大体、東京から親戚もなしでこんな場所に移り住むのが奇異に見えるくらいは折込み済みだ。
「いえ、大した理由じゃないんですよ。忙しない都会に疲れただけで」
「そうだね。雄大な自然に囲まれていると、こんな暮らしもいいなぁと思うよ」
「嘘付け。あんたがこんな田舎で暮らせるもんか。第一、和田さんもいないのにどうすんだよ」
誤魔化しただけの高良の言葉に紳士が乗って来る。それに男が突っ込んだ。
「執事がいなければ何も出来ないと思われているとは心外だな。津行は手厳しい」
「とにかく、こんな田舎じゃ俺の仕事なんかねぇ。旅行でいいだろ」
「楽しい旅行になるといいですね」
じゃれあうような言葉の応酬に、高良はクスリと笑ってテーブルを離れると、カウンターへ戻り、飲み掛けの珈琲を口に含んだ。
すっかりと冷めてはいるが、それでも美味いと感じるのは、ここいらの水が美味い所為だろうか。
「なぁ、鮎」
掛けられた声に、じゃがいもを剥いていた尚志が顔を上げた。
「ここが俺の家でいいんだよな」
しっかりと尚志を見つめる高良の瞳は、真剣な色をしている。確信と不安に揺れる瞳。
それを見た時、尚志は思い知った。捨てさせたことを後悔ばかりしていた。だが、そうではない。高良も不安を抱えているのだと、何故気付かなかったのだろう。
自分こそ、しっかりと迎え入れてやるべきだったのに。
「おら、とにかく食え。旨いからよ! 俺の故郷の味だからな。帰ったら俺が作ってやるよ。それでいいだろ」
男が大声を上げた。煮え切らない紳士に男が切れたらしい。尚志はクスリと笑って声を掛けた。
「よかなら、レシピ持っていくね?」
「それはよか。ウチの味で作るけんが」
方言で声を掛けた尚志に、反射的にだろう、男も方言で応える。
「俺の味で作ってやるけんで、よか」
呟くように男が再び言葉を紡いだ。それが男たちの家の味だろう。クスリと尚志も笑う。
「ここが高良の、高良と俺の家だけんな」
ぽつりと呟いた尚志の言葉に、高良が目を見開く。男の声に邪魔された時点で、応えは期待していなかったのだ。
「あ、ゆ」
「いい加減に尚志て呼ばんな。さっきみたいに間違われて紛らわしか」
「ああ。尚志」
カウンターで秘かに確かめ合う。客から見えないのをいいことに手を重ねあおうとしたとき、扉が開いた。
「ちゃー。日替わり定食、よかな」
「高良。こっち、ミートソースと珈琲ば頼む」
大声を上げて、どやどやと近所の男連中が入ってくる。この辺りには昼を食べる店が殆ど無い為、弁当屋かこの喫茶店が独身男の定番だ。
「いらっしゃい」
尚志と高良は声を揃える。愛を交し合うにはまだまだ時間は早い。だが、ここが二人の家に間違いなかった。

<おわり>

もっとも九州が似あう男はということで、津行の登場。きっと家は農家だよね。それか畜産やってるか。
ふとした言葉で揺れる。結構似た者同士かもね。
新年SS祭り・第四弾「綺麗な男」

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