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傭兵と吟遊詩人2<3> 

ヴェルハとフォゼラが町の広場へと立つと、あっと言う間に周囲を取り囲まれる。どうやら、昨日の歌を聞いていたものたちがいたらしい。
それでなくとも、ヴェルハの容姿は目立つ。黒く長い髪に黒瞳。長身で甘めの容貌。黒髪に黒い瞳というのはこの大陸では珍しい組み合わせだ。
それが大柄な芸人の三弦の旋律で、様々な歌を歌い上げる。特に、甘い声を響かせて歌う恋歌は、多くの乙女たちを魅了した。
年嵩の女性たちは、ヴェルハに熱っぽい視線を送っている。
これは断るのが大変だと考えて、フォゼラは内心冷や冷やしていた。
案の定、広場を立ち去ろうとするヴェルハの傍らに身を寄せてきた女がいる。
「ねぇ、芸人さん。一緒にお食事でもいかがかしら?」
豊満な肢体を持つ十二分に美しいとされるだろう女に、ヴェルハは興味なさそうな視線を向けただけだ。
「間に合ってる。行くぞ、フォゼラ」
「ああ」
冷たい態度で女を退け、ヴェルハはフォゼラを伴い、広場を後にする。その二人の前に昨日の騎士が手を上げた。
フォゼラは軽く頭を下げ、ヴェルハは眉を潜めただけで騎士の脇をすり抜けようとしたが、その二人に騎士の明るい声が掛かる。
「無視しないでくれよ。今日は俺の主人が二人に用があるんだ」
冷たい一瞥を投げるだけのヴェルハに変わって、フォゼラが騎士に向き合った。
「どの様な? 私たちは単なる流れの芸人です」
「俺はしがない使いだから。それは会ってから主人に聞いてくれ」
探るように騎士を見るフォゼラだが、本当にそれ以上は知らないらしい。背後の馬車の中から、もう一人騎士が降りてきた。
「吟遊詩人の方々。ここで断られるのは得策ではないと思いますが」
堂々とした態度の騎士は隙のない身ごなしで二人に対峙する。さっと下がった昨日の騎士の反応を見ても、身分が上のものであることは明らかだ。
ヴェルハは舌打ちをして、馬車に乗り込んだ。フォゼラもそれに続く。
続いて、二人の騎士が乗り込んできた。
「聞き分けてくださったこと、感謝します」
物腰は丁寧だが、二人に対する恫喝を含んだ言葉に、ヴェルハは面白く無さそうにごろりと横になるとフォゼラの膝を枕に目を閉じる。
「悪いが俺の相棒は気が短い。要らん騒動はこっちも御免だ。何処のどなたの御用かは知らんが、俺たちに出来るのは歌うことだけだ。それは承知の上でのお誘いと見ていいんだな」
「もちろんですよ。貴方方にそれ以上の用は無い」
「ガルエイドさま」
二人の間に流れる険悪な雰囲気に、若い騎士が思わず声を上げる。
「お前がアリアスさまを連れ出したりするから、このようなことになったのだ。少しは反省しろ」
「つ、連れ出してなど」
ガルエイドと呼ばれた騎士が、じろりと若い騎士を見下ろす。それに若い騎士が反論をしようとするが、冷たい視線で射抜かれて、ぴたりと口を閉じた。
「あの方はまだ幼い。護るのと同時に、教え諭すことも我らの役目だ」
ガルエイドが、くるりとフォゼラへ視線を向ける。
「申し訳ないが館に入るにあたって、貴方方の腰のもの、お預かりさせていただきたい」
「御免こうむる」
鋭い視線を浴びたフォゼラだが、否という言葉しか有り得無かった。自分たちの牙を寄越せと言われて、従う理由など無い。
「俺たちは旅芸人だ。自分の身は自分で護るしかない。元々、我らが行きたくて同行している訳でも無い。そういうことであれば、俺もこいつも今すぐに降りる」
ガルエイドとフォゼラの間に火花が散った。若い騎士ははらはらとそれを見守るのみだ。
「了解した」
しばらく睨みあったが、一歩も引かぬ構えのフォゼラに、ガルエイドの表情が柔らかくなった。
「君たちの剣については、私が責任を負う」
「が、ガルエイドさま」
断言したガルエイドに慌てたのは若い騎士だ。
「仕方があるまい? この男たちを連れて来いとの命令だ。だが、このような男たちには、剣で言うことは聞かせられん」
その言葉に、フォゼラはむしろほっと胸を撫で下ろす。ここで拒否などされれば、己の膝で目を閉じた男が剣を抜く恐れがあった。
馬車が停まり、ガルエイドが降りる。そこは白亜の豪邸だった。否、小城と言っても差し支えない館である。
城塞都市マルヴェイクは石切り場から採れる白い石の産地だ。不純物の無いもの程、高値で売り買いされている。だが、そのマルヴェイクにあってもこれほどの豪邸が白い石で出来ているのは驚愕であった。
さすがのフォゼラも驚きを隠すことは出来ず、足が止まる。そんなフォゼラを余所に、ヴェルハはそんなことにはまったく感銘を受けている様子は無かった。
フォゼラとヴェルハが、ガルエイドの後に続く。長い廊下も白い石に囲まれ、高くなった陽の光にきらきらと輝いていた。
ガルエイドが扉の前に立つと、兵士がさっと身体を引く。
扉を開くと、中央に設えられたゆったりとした椅子に座った子供がいた。年の頃は十になるやならずと言うところか。緑の瞳に切り揃えられた短い金の髪の、ふわりとした容姿の少年だ。
「ガル。お前は呼んでない」
少年は、キツイ眼差しでガルエイドを睨みつける。だが、恭しく礼を取ったガルエイドはまったく意に介していなかった。
「ご命令の通りに吟遊詩人を連れて参りました。この吟遊詩人は剣を手放す気はないと申しておりまして。私がいない場合は、守備役が二人を摘み出しますがよろしいですか」
気位の高そうな少年は悔しげに唇を噛み締めたが、どうやら反論の余地はないと見たらしい。
「いいだろう。お前たち、名は何という」
「フォゼラと申します。後ろに控えますはヴェルハ」
いきなり振られた質問に、フォゼラが恭しく答えた。
「広場でお前たちの歌を聴いた。また聴かせて欲しいが我はこの通りに何処に行くにも不自由な身だ。そこでお前たちを呼んだのだ。お前たちを雇いたい」
じっとこちらを伺うように見る少年は断られることなど考えてもいない。フォゼラはチラリとガルエイドに視線を送るが、ガルエイドは何の表情の動きもなかった。
「我らの歌を気に入ってくださったことは、大変ありがたいことでございます。ですが、我らは旅から旅の生活をする旅芸人。ひとところに留まるには期限がございます」
「どのくらいならば良い?」
「長くとも三月」
聞き分けの良い少年の言葉を意外に思いながらも、フォゼラは淡々と話を進める。何処の王子様かは不明だが、これだけの屋敷を構える主人だというのなら、大人と同様に扱ってもいいだろう。
「そうか。残念だが仕方あるまい。では三月だけ、お前たちを雇おう。さっそくだが、一曲披露してくれぬか」
「はい。どのような曲を?」
常ならば貴族たちに雇い入れられる場合に所望されるのは恋歌だが、こんな幼さの残る少年ではそうはいくまい。
「漆黒い旋風の歌を聴きたい」
「はい。承知いたしました」
内心、王族の聴くような歌ではないとは思いつつも、フォゼラは磨き抜かれた床に座り、ヴェルハに視線を送った。

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