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傭兵と吟遊詩人2<4> 

ヴェルハが黒いマントで身体を覆い隠し、一歩前へと出る。それを確認してからフォゼラが抱えた三弦を掻き鳴らした。
力強く、それでいて物悲しい旋律が奏でられ、それに合わせて黒いマントを纏うヴェルハの口から朗々とした歌声が流れ出す。
剣を取り戦う一人の男の生き様。何よりも強く、何よりも自由な男の。
ヴェルハの歌声にフォゼラの声が添えられる。二人の声と三弦の旋律が重なり合う。旋律が終わると、ガルエイドの口から感嘆が漏れた。
「これは……」
フォゼラが立ち上がり、ヴェルハと共に恭しく頭を垂れる。その二人に少年の惜しみない拍手が送られた。
「素晴らしいよ。もっと聴きたい!」
「駄目です。アリアスさま、一曲だけという約束ですよ。この者たちは、明日もいるのです。毎日、歌ってもらいましょう」
ガルエイドの静止に、一瞬むくれた顔をした少年だが毎日という言葉に機嫌を直す。
「それにアリアスさまが聞きたがっていた、旅先のお話もしていただきましょうか」
ガルエイドの見事な誘導に、少年は顔を輝かせてうなずいた。
「では、契約を済ませて参ります。フォゼラ、ヴェルハ。こちらへ」
恭しく礼を取り、ヴェルハとフォゼラはガルエイドに伴われて少年の前から辞した。
「主人を手玉に取る手腕は見事なもんだな」
ガルエイドの執務室らしい部屋に通された途端に、ヴェルハが皮肉を口にする。
「籠の鳥で居てもらうための方策だ。今は、あの方を表に出す訳にはいかんのだ。お前たちにも協力をしてもらう」
ガルエイドの表情はヴェルハの皮肉にも崩れることが無い。フォゼラは何事も無かったかのようにガルエイドの前に立った。
「契約の条件は?」
「毎日、歌を二曲。それと、旅の話を。お前たちが行った場所や珍しいものの話を聞かせてやってほしい。その他に、晩餐や園遊会などでの演奏も頼む。報酬は月に銀十枚でどうだ?」
傭兵としての報酬に比べれば小額だが、街角で歌って稼げる金額ではない。
「お前たちの部屋は屋敷内に用意する」
しかも清潔なベッドと食事つきだ。
「いいだろう。承知した」
フォゼラがうなずくと、ガルエイドはヴェルハへと視線を流す。
「お前はどうだ?」
「フォゼラが承知したと言っただろう。異論は無い」
相棒の受けた仕事に否やは無い。
「ところで、あそこの傭兵連中。ろくに役にもたたんぞ。あれなら、あんたのところの若いのの方がまだマシだ」
ガルエイドの執務室は門を見下ろす位置にある。おそらくは態とこの位置の部屋を選んだに違いない。
門の横に傭兵が数人立っていた。身体は大きく獲物も大振りなものを持ってはいるが身ごなしが重い。あれならば、老獪なオヤジ連中の方が余程ものの役に立つ。
「解っている。こけ威しと時間稼ぎだ。うちの若いのというのはエイセスのことか?」
「名前は知らん。昨日から俺たちに張り付いてるあいつだ」
ヴェルハの言葉に、ガルエイドが笑みを浮かべた。
「まだまだ雛でな。鍛えてくれるとありがたいが」
「契約外だな。行くぞ、フォゼラ」
ヴェルハに釣られて外の傭兵を見おろしていたフォゼラが、ヴェルハの後に続く。
「あの連中。確か、斡旋屋で会った奴らじゃないか?」
執務室を出るなりにフォゼラが口を開いた。出会うと厄介なことになりそうな予感がする。
「どうやら、事が起こりそうな館らしいな。これなら傭兵として雇われた方が良かったかもしれない」
「だが、お前の嫌いな馬鹿共と同じ仕事だぞ」
「不味いな。事が起こる前に、連中を切り捨てちまいそうだ」
苦笑いを浮かべたヴェルハだが、目は笑っていない。
「ヴェルハ。解っているだろうが、俺たちは芸人だ。忘れるなよ」
「ああ、俺はあんたの歌を奏でる最高の歌い手だ」
ヴェルハの顔に浮かんだ笑みは、今度は明るく不敵なものだ。それにフォゼラがニヤリと笑う。
「そうだ。お前は俺の最高の歌い手だ」
誰に言われるよりも、そうフォゼラが認めてくれることがヴェルハにとって重要なことだった。

昼下がりのお茶の時間が、フォゼラとヴェルハの出番だ。
付き従うガルエイドを見て、アリアスは一瞬眉をひそめるが、ヴェルハとフォゼラの姿を見ると、ぱっと明るい顔になる。
子供らしい現金さにフォゼラの口元に笑みが浮かんだ。アリアスを見ていると、小屋で面倒を見ていた子供たちを思い出す。
「アリアスさま。本日は何を歌いましょうか?」
「旅芸人の歌がいいな」
アリアスは結構俗な曲を好んだ。コミカルな庶民の生き方を歌ったものを楽しげに聴いている。本当にそれでいいのかと、フォゼラは時折ガルエイドに視線を送るが、ガルエイドも留める様子がなかった。
剣舞や曲芸の真似ごとをするフォゼラを見て、アリアスは目をキラキラとさせている。
「フォゼラはいろんなことが出来るんだな。ずっと旅芸人なのか?」
「はい。幼い頃は仲間たちと小屋掛けして旅から旅への生活でした」
「ヴェルハは?」
子供なりのストレートな質問に、ヴェルハはニコリともせずに答えた。
「歌で身を立てるようになったのはフォゼラと知り合ってからです。フォゼラと知り合うまでは、いろいろと後ろ暗いこともやっておりましたので、ご容赦を」
ヴェルハはなるべく簡素に、数少ない真実を述べるに留める。
「盗賊、だったりしたのか」
「盗賊はやったことがありません。退治したことはあります」
おずおずとアリアスが答えを見つけるのを切って捨て、ヴェルハはそれ以上の答えを拒否する。
「アリアスさま」
そっと首を振るガルエイドに、アリアスは唇を尖らせた。
「私はもう大人だ。これ以上はヴェルハが答えをくれぬくらい解っている! お前はいつまで指図する気だ」
「これは失礼を」
頭を下げるガルエイドに、アリアスは顔を真っ赤にして怒りをぶつけている。
「第一、フォゼラとヴェルハに会うのに、何ゆえにお前が付いて来る」
「この者たちは剣を所持しております」
ガルエイドが頭を垂れたまま言い放った。

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