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傭兵と吟遊詩人2<5> 

「私たちは旅芸人です。剣は命を守るもの。これを捨てては生きていけません。そして、貴方方が敵ではないという確信は持てません。ガルエイドさまも同じこと」
フォゼラが控えたまま言い添える。それにアリアスは唇を引き結んだ。聡い少年は子供の我侭を言い張ることは無い。
「今までもそうだったのか? ソレルの伯爵夫人の時も?」
エイセスからでも話を聞いたのだろう。
「あの折は、警護を兼ねてとのことでしたので。それにドノヴァン伯爵夫人ならば、私が切りかかったところで、逆に切り捨てられるかもしれません」
「つ、強いのか? 女の人だろう?」
にっこりと笑ったフォゼラの顔に、本気を感じ取ったアリアスが息を呑んだ。
「それについては私よりヴェルハの方が的確です」
「強いですね。おそらくこの屋敷の誰よりも」
話を振られたヴェルハは一刀両断である。ヴェルハが本気でかからねばならないと思う女だ。
「ガルでも?」
「はい」
ヴェルハのそっけない答えにも、ガルエイドは静かに頭を垂れたままの姿勢を保っている。
「それでは、もう一曲は伯爵夫人の歌を歌いましょうか? 恋歌ですのでアリアスさまにはお早いかと考えていたのですが」
言葉を沿えたのは、アリアスよりもガルエイドの了解を得るためだ。案の定、アリアスはぷくりと頬を膨らませる。
「フォゼラまで私を子供扱いするのか」
「これは、失礼を」
恭しく頭を垂れるフォゼラの横で、ヴェルハがおもむろに立ち上がり、長剣を抜き放った。真っ直ぐに掲げ、ぴたりと静止する。その挙動にもガルエイドの制止が掛かることが無いことを確認して、フォゼラが三弦を奏でだした。
戦うことでしか居場所を得られぬ女戦士。強く美しい野生の獣のような女。だが、心はいつも故郷のあの子の下へ。優しさも涙も愛情も全て置いてきた。取り戻すまで戦い続ける悲しい乙女。
甘く冷たいヴェルハの声が庭中に響き渡る。それに添えるフォゼラの声も花の咲き乱れる庭園を華やかにしていた。
警護に当たる兵士たちも、剣を掲げたまま歌うヴェルハに注視する一方で、聞き惚ている。
力強く何処か物悲しい響きの旋律が二人の声と絡み合い、最後の音を奏でた。同時にアリアスの拍手が重なる。
「素敵な歌だ。でも、何処が恋歌なのか判らないな」
アリアスの正直な感想に、フォゼラは内心笑ってしまった。
「では、次回はもっと判り易い歌にいたしましょう」
「そうだな」
「アリアスさま。お時間でございます」
アリアスの傍に控えたエイセスが控えめに言葉を掛ける。どうやら、アリアスのお気に入りらしいエイセスは、上司であるらしいガルエイドが現れると、じっと黙ったままになる。
どうやら、ヴェルハとフォゼラを街で見掛けた際のアリアスの外出は無断で行われたものらしく、かなり叱責を食らったようだ。
エイセスの声を潮に、ヴェルハとフォゼラは一礼してその場を辞する。その後をガルエイドが付いてきた。
「ヴェルハ、フォゼラ。お前たちは警護もやるのか」
「やることもあるな。状況と金次第だ」
一応、雇い主であるアリアスの前では何とか芸人らしく振舞うヴェルハも、ガルエイドには途端にぞんざいな口調になる。
「金を払うと言えば、アリアスさまの警護引き受けてくれるか?」
「状況次第と言っただろう。流れの芸人を雇わなきゃならないようには思えんな」
ヴェルハは冷たくガルエイドに背を向けた。

ヴェルハとフォゼラが昼餉に呼ばれるのは初めてと言う訳では無い。時折、この館には身分の高そうな来客があった。騒がしいなと思っていると、突然、ガルエイドに呼び出され、歌を乞われる。
この日もそういったひと時であると勝手に解釈をしていた。
二人が現れると、アリアスが嬉しそうに隣に座る男に語りかけるが、隣の背の高い男は神経質そうな眉をひそめ、立ち上がった。
「ガルエイド! この者たちは剣を持ったままではないか。何故にそんなことを許した」
「アブレイズ」
泣きそうな声で、アリアスが隣の男の袖を引いた。この家の来客は、揃ってアリアスに甘い。ヴェルハとフォゼラが剣を所持していることを一旦は咎めるのだが、アリアスの泣き顔を見て、ガルエイドを叱責するに留めるのが常だ。
だが、今日の男は頑強だった。
「アリー。アリーが泣くことは無い。もっといい吟遊詩人を私が連れてこよう。芸人一座を引っ張ってきてもいいよ」
打って変わって優しげにアリアスに語り掛ける男に、フォゼラは呆れつつ解放される時を待った。心はすっかりと次の街へと飛んでいる。身分の高いらしい男に睨まれたのなら、この街に居つくことは利が無いばかりか、下手をすれば命の危険が伴う。
「アブレイズさま。この者たちはアリアスさまの警護も兼ねております」
「警護だと。そんな話はアナフィスからは聞いていないぞ」
アブレイズにガルエイドが言い添えるが、それは一層アブレイズの怒りを煽ったようだった。
「アナフィスさまがお帰りになられた後でしたので」
「芸人風情だぞ! どれほどの役に立つというのだ。馬鹿馬鹿しい」
まるで決定事項のように言葉を続けるガルエイドを、アブレイズは鼻で笑い飛ばす。大柄なフォゼラはともかく、ヴェルハはどこから見ても長身であるだけの優男だ。見掛けだけで判断をしているらしい相手に、ヴェルハは内心呆れている。
黙っていたのは、フォゼラがすっかりここを旅立つつもりであるらしいことを感じ取ったからだ。足の向くまま気の向くままの旅芸人。面倒ごとになるようであれば、さっさと逃げ出せばいい。
現在の自分は傭兵ではないのだ。
「ソレル王国、ドノヴァン辺境伯夫人の警護であったそうです」
「あの、血塗れの伯爵夫人の?」
セレフィーア・ドノヴァンは上流階級の一部では『血塗れの伯爵夫人』との名がついている。王妃として嫁いだ国で、女だてらに剣を取り戦場を駆け巡ったその経歴を、あざ笑うものたちは多い。アブレイズもどうやら、その噂を耳にしているのだろう。
「ふん。どのくらいの腕前か見てやるのも面白そうだ。そこのお前、立派な剣を下げているが、こけ脅しではないのだろうな。俺が相手になってやろう」
奇天烈としかいい様のないことを言い出した相手に、ヴェルハは呆れてガルエイドに視線で助けを求めた。ここで騒動を起こすのが不味いのは判るが、剣を片手にすっかりやる気満々の相手に何と断ればいいか。少なくとも普段のように振舞える相手ではないくらいの自制はヴェルハにもある。
大柄なフォゼラよりも優男のヴェルハを相手にと言い出すくらいだ。剣の腕前など知れたものだろう。
「アブレイズさま。本気ですか」
「ああ。ソレルの伯爵夫人の護衛だったと言うのならば、可愛いアリアスを任せるのに異論はない。だが、それが嘘だった場合は」
フォゼラが深く溜息を吐いた。ヴェルハに目配せをしてくる。ヴェルハは仕方なく立ち上がった。
「アブレイズ……」
不安そうなアリアスの髪をかがみこんだアブレイズが梳く。
「こんな嘘つきは私が追い払ってやるからね」
「嘘なんかじゃない。それにヴェルハとフォゼラは私が頼んでいてもらっているんだ」
言い募るアリアスに、アブレイズは哀れむような視線を送った。何も知らない可愛そうな子だとでも思っているのだろうが、何も判っていないのはどっちだとヴェルハは笑いを堪えるのにひと苦労である。
「ヴェルハ」
促すようにガルエイドがヴェルハを呼んだ。ヴェルハはうなずいて剣を抜いたアブレイズの前へ立つ。
「剣を抜け。それとも本当にそれはこけ脅しか?」
「いかようにでも」
平坦な声で応じるヴェルハに、アブレイズはせせら笑いを向けた。

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