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遅れてきた男<悪い大人・いけない子供> 

遊びなれた悪い塾講師と、その教え子のその後の話。
冬イベントの無配SS。本編「悪い大人・いけない子供」はこちら

「センセ。お待たせ」
相変わらず、森木は犬っころのように俺の元へと駆けてくる。コイツが高校生の頃は、会うのはホテルか俺の部屋だった。だが、きちんと大学に受かって(おそろしく手間の掛かるアホだったがな)成人した今、そこまで神経質に人目を気にする必要も無い。
「課題は片付いたのか」
「うん。グループ発表だったからさ。イマイチ面倒くさくて」
答えながら、森木は俺の向かい側へと腰を下ろした。
「いらっしゃいませ」
躾のいいウェイトレスが磨かれたグラスの水を静かに置く。と同時に森木の腹が鳴った。森木が恥ずかしそうに照れ笑いをする。
「飯、食うか。ここの飯は旨いぞ」
「でも、高いんじゃね?」
上目遣いに俺を見る森木に、俺はニヤリと笑い掛けた。
「奢ってやる。その代わり、サービスしろよ」
「え~、それは勘弁してよ」
悪魔と大差ない俺の笑いに、森木は情けない声を上げる。まぁ、当たり前か。俺だってどっちかといえば攻めたい方だ。
だが、こういう情けない顔も好みで、ちょっと意地悪をしたくなる。正直、本気で付き合った数少ない相手だ。
「冗談だ。ちゃんと普通に奢ってやるから、何でも頼め」
「ホントに?」
からかい過ぎたのか、森木が俺を疑わしそうに覗き込む。
「あんまり疑うと、本当に今日はお前下だぞ?」
「へへ。じゃあ、クラブサンドセット。スープつきで」
本当にがっつり注文する森木に、若いなと思う。間もなく運ばれてきたセットをがつがつと口にする森木を見ながら、俺は珈琲のおかわりを頼むのが精々だ。
くつろいでいた俺と森木が立ち上がるのと、奥の席から歩いてくるサラリーマンの二人連れが歩いてくるタイミングが重なる。ちょうど背後を振り向いたようで、見事に森木にぶち当たってしまった。
「すみません」
「いえ、私こそ。前を見てなく……」
森木に頭を下げたサラリーマンが顔を上げ、固まった。
「先生」
「瀬尾野……」
俺とその男が見詰め合っていた時間は不審に思われる程度には長かったようで、俺の袖を森木が引く。
「センセ、知り合い?」
「ああ。昔の教え子だ」
俺は目を細めていた。逞しく立派に成長した瀬尾野は、俺にはひどく眩しい。
「先生にはいろいろお世話になって。学校辞められた後は、一体どうされたのかと思っていました」
さりげない風を装った瀬尾野の嫌味に、俺はちょっと好戦的な気分になった。優等生だった筈の男が、こういう口をきくようになったとは。
「お前のお陰でな。今は塾の講師だ」
多分に含みを持たせた言い方に、瀬尾野の顔付きが変わる。それに気分を良くして、俺はさっさと支払いを済ませて森木を促した。

「センセ、あいつ、ナニ」
何の部分に篭められた非難じみた響きに、俺はクスリと笑う。それを馬鹿にされたと感じたのか、ベッドに転がった俺を押さえ込むように、森木が顔を覗き込んで来た。
「解っているんだろう?」
森木は勉強は出来ないが、決して馬鹿ではない。そういう察しはいいし空気も読める。
「あいつがセンセが教師辞めた原因ってことはね。そういうことじゃなく、俺が聞いているのは」
勢い込んで聞いてくる森木の口を唇で塞ぐと、森木がムッとした顔になった。
「そんな顔するな。誤魔化すつもりじゃねぇさ」
俺はベッド脇の棚から煙草を取り出し、火を付けると煙を吐く。森木は俺の正面でじっと俺の行動を見つめていた。
「昔の男。って奴だ。優等生でな、先生先生って慕ってくれて、俺も可愛がってた。普通の教師と教え子だったがな」
森木は妙な顔で俺を見る。まぁ、今の話の何処に昔の男って単語が当てはまるのかわからないといった顔だ。
「瀬尾野の母親はいいところの奥様でPTAでも幅利かしてた。その当時、まだ新人教師だった俺じゃ、頭が上がらん。いいように引っ掻き回されてた」
瀬尾野に良く似た母親は、瀬尾野みたいな大きな子供がいるとは思えない若々しい美人で、校長の不倫相手でもあった。
「不倫って、待ってよ。何でそんなこと新人教師が知って……」
言い掛けた森木が、はっと思い当たったのかじろりと俺を見る。コイツ、カンはいいな。
「センセ、校長と寝てたね?」
「まぁな。校長のとこで鉢合わせしちまって、バレた。あの当時は俺も手当たり次第だったしな」
ナニを今更とは思うが、森木は非常に不愉快そうだ。俺だって、最初からこんなふてぶてしかった訳じゃない。上からの圧力に屈した、悲しい宮仕え時代だってあった。そんなことは言いたくないし、いいやしないがな。
「弱みを握られたと勘違いしたのか、森木の母親はますますPTAを引っ掻き回すようになって、しかも、それでも落ちない俺に色仕掛けで」
「見られたんだな。あいつに」
森木の問いに俺はうなずいた。父親のいない母一人子一人の家だ。何かが可笑しいと気づくのに時間は掛からない。
「担任教師に色仕掛けで迫っているところを息子に見られて、俺にレイプされたと騒ぎ立てた。ところが、瀬尾野が即否定した」
只でさえ潔癖な思春期に母親がそんなことをしていれば、大抵の男は女性不信になるだろう。
「で、センセ、慰めるついでにやっちゃった訳ね」
呆れたといわんばかりの森木の口調だが、俺だってその当時はまだ若い頃で、情熱もあれば、繊細な神経だってあったんだ。必死で己を守ろうとしている子供の情熱に流されてしまった。
今でも覚えている。
『先生。あんな汚いことをした女の子供は汚い?』
縋るように俺を見上げる子供を放っておけるような神経は、当時の俺にはとても無かった。
「まぁ、俺も若かったからな。母親にもすぐにバレちまって、俺は淫行教師として放校。評判は出回るからな。俺は教員としてはどこにも勤められない」
校長の噂も出回っていたから、事情を察する人間は大勢いて、辛うじて表沙汰は避けられたし、教員免許を取り上げられることは無かったが、正規の教師としては勤められない身だ。
「どうせ、センセのことだから、手酷いフリ方したんだろ」
「お前が俺の立場なら優しく出来るか」
揶揄するような森木に、俺は憮然と言葉を返す。
「まさか。追ってこられたりなんかしたら、せっかくセンセが悪者になったの台無しじゃん」
俺は意外と鋭い指摘にニヤリと笑った。コイツはやっぱり俺のことが良く解っている。
「それで、お前と俺は出会ったんだ。だろ?」
学校で教師として勤めていれば、森木と俺はきっと出会わなかっただろう。
「へへ。そうだね」
抱き寄せてくる森木の身体は、俺には及ばないが、それでも成長期特有のひょろ長い身体つきはとっくに卒業して、充分に男らしい逞しさを備えている。
俺はそのまま森木の腕に身を任せ、ベッドへ押し倒された。
以前は、キスはあくまでセックスの前戯でしかなかったが、森木とのキスは優しい戯れだ。お互いの想いを交し合う行為。
「センセ、好き」
「ああ。俺も好きだぞ」
幾度かキスを繰り返していると、ドアがノックされるのに気付いた。俺の部屋は窓際で、灯りが付いていればいるのは丸分かりだ。
無視をするわけにもいかずにドアへ近づく。森木もそのあたりは心得ていて、ベッドをきちんと片付け、ソファに寄りかかって本を読み始めた。
いかにも、教え子が先生の家に遊びに来ましたのフリである。
「はい」
だが、扉を開けた俺は即座に後悔した。次からはせめて相手を確認してからにした方がいい。
「先生。上げてもらえますよね」
瀬尾野はふてぶてしい態度と有無を言わさぬ口調で部屋へと踏み入れた。
「センセ。誰だった?」
顔を上げた森木が眉をひそめる。それを見た瀬尾野も同様だ。
「先生。どういうことですか」
「どういうことも何も」
俺はどっかりと森木の横へと腰を下ろし、身を寄せる。その俺の肩を森木が抱き寄せ唇を重ねた。
「こういうことだろ」
森木は挑戦的な態度で言い放つ。
「あ、あんた、また子供に手を出したのか」
「残念、逆だよ。俺、あんたみたいないい子ちゃんじゃなくってね」
俺は煙草に火を点け、燻らせた。紫煙の向こうで瀬尾野が顔色を無くしている。
「もう遅いよ。さっさと帰れば?」
あくまで挑戦的な森木の態度に、瀬尾野が森木に手を伸ばす。襟首を掴もうとしたらしい腕を森木は払い、バランスを崩した瀬尾野の腹を蹴る。
うずくまる瀬尾野を、森木が見下ろした。
もう遅いの意味を瀬尾野は確実に解っている。瀬尾野に本気だった時期もあったのだ。だが、もう俺は森木を選んだ。
「やりすぎるなよ」
さすがに大人相手に中坊の頃からカツアゲやってた森木と、喧嘩なんかしたこともない瀬尾野じゃ勝負は見えてる。
「だって、こいつ腹立つ。センセのこと全然解ってない」
「解ってるさ。解ってるから」
ギラリとした目で瀬尾野が俺を見た。もうその目に俺が映ることは無い。
「瀬尾野。悪いが、コイツのいう通りだ。もう遅い」
俺は煙草を灰皿へ押し付け、立ち上がった。
「送っていこう」
「センセ!」
焦って立ち上がる森木をギロリと睨みつけると、渋々と森木が腰を下ろす。
「心配するな」
お前が心配するようなことはしないから。俺は森木に心の中で呟き、瀬尾野を促した。

「先生。あの子の他に何人もいるんでしょう。俺一人くらい増えたって」
諦めきれないらしい瀬尾野は下を向いたまま、独り言のように呟く。答えを求めてはいないだろうそれに、俺ははっきりと断言した。
「いや、アイツだけだ。もう何年もな。多分、アイツが俺と別れない限りは」
瀬尾野の視線が驚いたように俺に向けられる。
「俺らしくも無く、本気なんだ。アイツが一生懸命本気で追いかけてきたときから」
瀬尾野が深く溜息を吐いた。
「参ったな。先生にそんな情熱的な告白されるなんて思いもしませんでした」
「そりゃそうだろう。俺もまさか自分がそんな馬鹿を言い出すとは思わなかったからな」
俺はニヤリと笑う。ふてぶてしく図太く、そうあるべく生きてきた。セックスなんてただの快楽。本気の恋愛なんざ、馬鹿馬鹿しい。
なのに。
「森木、暁生に捕まった。二十も年下だぞ、アイツ」
「もりきあきお。先生を捕まえたラッキーボーイの名前ですね」
「アンラッキーなんじゃねーか。俺みたいな外れくじ引かされて」
顔を上げた瀬尾野は、泣き笑いの妙な表情だ。それに俺は背を向ける。もう瀬尾野は大人の男だ。俺は何の手助けも出来ない。
部屋を見上げると、窓際でうろうろと落ち着かないらしい影が往復していた。
「アイツは馬鹿か」
聞き分けの無い馬鹿な子供。いや、だからこそ俺は暁生を選んだんだろう。口元に知らずに笑みが浮かんだ。エレベーターが降りてくるのさえ待ちきれずに、階段を駆け上がる。
暁生の待っている部屋まで。

<おわり>

春イベントの無配SSは「キャッチ」です。WEBでの公開は夏になります。

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