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おだやかな恋人たち<告白> 

図書室で交わす視線。見つめるだけの恋。

<初デート> <バレンタイン>完


図書委員なんて地味な癖に、面倒な仕事が満載だ――――多くの生徒はそう思っていたし、生徒会の中でも軽んじられがちである。
だから、クラスの中でも比較的大人しくて友人の少ない小池芳(こいけかおる)に、それが割り当てられたのは必然と云って良かった。
芳は、それでも不平を云わずに業務をこなしていたし、放課後や昼休みの当番も進んでやっている。
芳の数少ない友人の一人、倉林などは、『そんなに真面目にやらなくても適当でいいんだ』などと云うのだが、芳は何事にも手は抜きたくなかったし、実は芳にだってそれなりの下心が存在していた。
「誰かがやらなきゃいけないなら、僕がやってもいいだろ?」
なので、倉林への反論も勢い声が小さくなってしまう。
「芳はホントに人が良すぎだよ」
芳の心など知らない倉林は、しきりに憤慨していた。大体、図書当番だって、全委員が担当するべきもので、通常なら7クラスで3学年なので、一月に一度、多くても2度しか廻って来ないものなのだ。
ところが、3年の塾通いや、2年の部活などの交代要員を、殆ど芳が引き受けているのである。そうなると一年までサボりたい時は芳に当番を頼むのが通例になってしまって、芳はすっかり図書室の主と化していた。


大体において、男子校の図書室など、試験前でも無ければ誰もいないのが当たり前で、芳は本の修理や整理の傍ら、カウンターで本を読むくらいしかすることが無い。
誰もいない放課後の図書室は、ひんやりとした空気のある穏やかな場所だった。


いや、芳の他にただ一人だけ、そこに存在する人間がいる。
図書室の片隅にある長細い窓から射し込む、昼下がりの穏やかな光の中で、眠っているのは、高校の一年生と云うにはかなりふてぶてしい容貌の男だ。
多くのクラスメイトが、躯だけは大きいものの、まだまだあどけない少年の面差しを残す風貌であるのに対して、彼だけは既に大人の様相をまとっている。
まだ、躯さえ大人になりきれていない芳にとって、彼、小沢健次(おざわけんじ)は初めて見た瞬間から憧れだった。
カウンターで本を読みながら、時折顔を上げて、彼の寝ている姿を盗み見る。
こういうとき、芳は顔の半分を覆い隠すような度の強い眼鏡に感謝するのだ。小沢はきっと自分の視線になど気付かないだろうと安心できたから。



いつから小沢が放課後の図書室の陽だまりで眠るようになったのか、芳は覚えていない。
気付いた時には、放課後の図書室で眠る小沢と、その寝顔をそっと見つめる自分がいて、まるで二人だけの時間がソコに存在するかのようだった。
最初は憧れて見つめるだけの小沢に、芳が恋心を抱くようになるのには、さほど時間が掛からなかった。


「まだ、残っていたの? 閉めるわよ?」
年若い司書の声に、芳ははっと顔を上げる。
いつもは、時間になると小沢が出て行くので、ソレをきりに引き上げていたのだ。
だが、小沢はまだ眠ったままだ。
「すみません。あの、でも……」
司書は、芳の視線の先の小沢に気付いたらしい。
ヒールの音も高らかに近寄って行くと、小沢の耳を摘み上げた。
「いでで~~~~、この暴力女! 何しやがんだ!」
一発で目が覚めたらしい小沢が、司書の手を払う。
「目が覚めたでしょ? アンタの所為で小池くん帰れなかったのよ」
司書の広田は、腰に手を当て偉そうに小沢を見下ろした。
「あ、悪ぃな。小池」
いきなりまっすぐな視線で見られた芳は、天にも昇る心地だ。しかも。
「小沢くん、僕の名前……」
確かに、『小池』と小沢は呼んだ。目立たない芳は、時折クラスメイトすら名前を間違えることがあるぐらいなのだ。
「俺だって同じクラスの奴の名前くらい覚えてる」
そうは云われても、遅刻常習犯で授業だって結構サボっている小沢が、クラスでも目立たない自分を知っているなんて、誰が思うだろうか?


「鍵、閉めるわよ」
「あ、はい」
司書の声に、慌ててカバンに読んでいた文庫本を放り込む。
外へ出ると、図書室のドアのところに小沢が立っていた。
「一緒に帰ろうぜ」
「う、うん」
どんな気まぐれで、小沢がそんなことを云い出したのかは解らないが、振って沸いた幸運が、素直に嬉しくて、芳は思わず頷いてしまう。
「小池さ、いつも一緒にいるだろ? 倉林」
二人して並んで歩いていると、ふと思い出したように小沢が口を開いた。
「仲いいのか?」
「うん、そうだけど」
成り行きで一緒に帰ることになったものの、きっと小沢は、芳と何を話していいのか判らないのだろう。いきなり飛んだ話に芳は首をかしげる。
それとも、それが聞きたくて、一緒に帰ろうなどど、言い出したのか。
「あのさ、え、と。間違ってたらごめんな。付き合ってんのか?」
ツキアッテンノカ?―――――云われた言葉が芳の中で形になるのには時間が掛かった。あまりにも意外な言葉だったからだ。
「な、ななな、何でそういうことになるわけ???」
芳がどもってしまったのも無理は無い。確かに芳は小沢が好きだが、その他の男など考えたことすら無い。
「いや、ごめん。でもあいつ、いつも俺が小池に話し掛けようとすると邪魔するから」
「え?」
小沢が自分に話し掛けようとしていた?――――初めて聞く事実に、芳の頭はショートしそうだ。
「何で?」
「俺、いつも図書室で寝てるだろ。でも、最初は屋上とか中庭とか、いろんなところで寝てたんだぜ。でも、図書室が一番落ち着くんだ」
そう云えば、と芳は思う。図書室なんて決して快適な場所ではない。夏は暑いし、そろそろ肌寒い。屋上や温室の方が余程暖かいし、風の通る中庭は、夏には快適な場所だ。昼休みならともかく、人のいない放課後ならそっちの方が過ごしやすい筈。
「そのうち、図書室でも落ち着かない日があるって気付いたんだ。他のヤツが当番の日は何だか、こう落ち着かなくてさ」
「そうなんだ」
それでは芳だけでは無く、小沢もあの時間を大切に思ってくれたのだろうか? 芳は胸の奥がほわんと暖かくなるのを感じていた。
「何で小池だとこんなに落ち着くんだろうって思ってて、話してみたかったんだ。お前と」
小沢はまっすぐに芳を見つめてくる。
「お、小沢くん?」
その視線に、芳は戸惑いと、強い胸騒ぎを感じた。
「時々、俺のこと見てたよな? 俺の自惚れじゃないよな?」
「気付いて……」
小沢がうなずくのに、芳は顔に火が付くような思いを感じる。
だが、逃げ出すより早く、小沢の手が芳の細い腕を掴んで離さない。
「離してッ、お願い」
恥ずかしい、逃げ出したい。それしか考えられない芳は、小沢の腕を振りほどこうと必死だ。
「逃げないでくれよ。俺、自惚れてるだけか?」
そんな芳を、小沢がそっと抱きしめる。ありったけの思いを込めて。
「お、ざわ、くん…?」
「なぁ、応えてくれよ」
芳の憧れていた小沢は、いつも自信たっぷりで、クラスの誰よりも大人だった。その小沢の声が、今はひどく自信無さ気だ。
しかも、自分を抱きしめている小沢の腕は震えている。


「小沢くん。それ、僕のことが好きってこと?」
「駄目か?」
芳の言葉に、小沢が泣きそうな顔をした。
「駄目なんかじゃ無いよッ!」
芳は嬉しさのあまり、小沢に抱きつく。
「こ、小池?」
いきなりの芳の行動に、今度は小沢がパニックになった。
「僕も、好き。小沢くんのことが好き」
芳は熱に浮かされたように、告白する。叶うとは思っていなかった想い。
「嘘じゃないよな?」
「小沢くんこそ嘘じゃないよね?」
互いの顔を見合わせて、芳と小沢は笑いあった。

どちらからともなく、手を繋ぎあう。
帰り道は、あの図書室以上におだやかな空間だった。


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