スポンサーサイト 

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
*Edit TB(-) | CO(-) 


傭兵と吟遊詩人2<6> 

「覚悟は出来ているという訳か」
斬りかかるアブレイズの動きがピタリと止まる。ヴェルハの抜きざまの一閃は、アブレイズの喉元に突きつけられていた。
冷や汗を流すアブレイズの顔をじっと見てから、ヴェルハは剣を納める。一方のアブレイズは立っているのがやっとの有様だ。
「アブレイズさま。ヴェルハとフォゼラをアリアスさまの護衛としてお認めいただけますか」
アブレイズの前に、神妙に頭を下げたガルエイドが控える。その言葉で我に返ったアブレイズは、鷹揚にうなずいてみせた。
「仕方がない。腕前だけは本物の様だ」
足早に席へと戻り、濃い果実酒を煽る。ヴェルハは澄ましたもので、芸人としてフォゼラの横へと控えるだけだ。
漸く落ち着いたのか、アブレイズが意地の悪い笑いを閃かせる。
「その方らは何の芸を見せる? 剣舞か?」
「いえ、歌でございます。何なりとお申し付けを」
「すごいんだよ。アブレイズ。フォゼラは何でも出来るんだ」
アリアスが取り成すように告げたが、その言葉により一層意地の悪い表情がアブレイズに浮かんだ。
「歌は聞く気分じゃないな。舞は出来るか」
「はい」
剣を持ったフォゼラが立ち上がり、ヴェルハも剣を構える。レパートリーを増やそうとヴェルハに剣舞だけは仕込んだ。二人で音を口ずさみながら剣を振るうだけだが、客の受けはいい。
「剣舞はいい。女舞は出来るか」
無理難題を押し付けて溜飲を下げるつもりであるらしいアブレイズに、ヴェルハが平静でいられたのは、フォゼラが隣にいるからだ。フォゼラが平静に対応しているうちに自分がこの場を荒らすことは出来ない。
「はい。私でよろしければ」
フォゼラが頭を下げるのを、心配そうなアリアスの視線が追った。
「ヴェルハ。マントを」
差し出したフォゼラの手に、ヴェルハは自分の黒いマントを渡し、代わりにフォゼラのマントを受け取る。フォゼラのものよりも幾分か長いそれは、フォゼラの身体をぴったりと覆った。
「雪の舞を」
冬将軍の娘たちの曲をとのフォゼラの指定に、ヴェルハは三弦の旋律を正確に歌い上げる。
それにあわせて、フォゼラの身体が儚く淡く、だが、冷たく凍てつく雪の舞う様子をなぞる。ひらりと舞うマントに隠され、フォゼラの姿は殆ど見えない。
上手く己の姿を隠し、時折くねる身体のラインのみがマントに沿って現れる。ゴツイ身体つきである筈のフォゼラの舞姿は扇情的ですらあった。
「フォゼラ?」
女性に見える訳ではないが、普段のフォゼラとはあまりに違う中性的な舞に、アリアスはぽかんとしている。
ゴツイ男の舞う女舞など笑いの種にしてやろうと待ち構えていたアブレイズですら、男とも女ともつかぬ舞に見とれるだけだ。
舞いながらフォゼラが、旋律を歌うヴェルハにしなだれ掛かる。ヴェルハがその腰を引き寄せると、今度はさっと身を翻した。
旋律と舞が絡み合い、この場を魅了する。ヴェルハが旋律を歌い終えるのと同時に、フォゼラがその身を伏せる。その上に、ヴェルハのマントがふわりと落ちかかり、フォゼラの身体を覆った。
アリアスが感嘆の声を上げる。
「すごい、すごいよ。フォゼラ、すごく綺麗!」
「ふん。これも中々見られるものではないか」
これではアブレイズも認めざるを得なかった。
「いいだろう。貴様ら、アリアスの傍へ侍ることを認めてやろう」
「ありがとうございます」
深く頭を垂れたフォゼラの横を、アブレイズが足音荒く立ち去っていく。アリアスが慌てて後を追った。

「俺たちは護衛として雇われた覚えはないぞ」
ガルエイドの執務室で、憮然とした面持ちのヴェルハが不満を並べる。ソファへと腰掛けたフォゼラにしても、顔つきは似たようなものだ。
「方便だ。この屋敷にこれ以上、妙な輩を入れる訳にはいかん。真似事だけでいい」
「真似事だと?」
ヴェルハがせせら笑うような声を上げる。明らかに気分を害していることは明らかだ。
「この俺に、護衛の真似事をしろだと。馬鹿馬鹿しい。護衛として雇いたければ誠意を示せ」
「雇えというのか」
一度は護衛を拒否したのはヴェルハ自身である。
「状況と金次第だ。流れの芸人風情に話せるものではないというのであれば、話はご破算だ。俺たちはここを出て行く」
きっぱりと言ったヴェルハが身を翻した。それにフォゼラも従う。
「待て」
背を向けた二人をガルエイドが止めた。
「引き受けるのであれば。話せる限りのことは話そう」
ガルエイドの硬い声に、ヴェルハとフォゼラの足が止まる。目を見交わして、二人は振り返った。ヴェルハがどっかりとソファに腰を下ろす。その背後にフォゼラが立った。
「ただし、引き受けるからにはそれなりのものは貰うぞ。この俺たちを護衛として雇うのであれば、な」
「了解した」
腕前については、先程のアブレイズとの立会いを見ていれば不足は無い。身ごなしからも、最初に傭兵たちを見ての見解からも、それは明らかだ。フォゼラにしても同様であろうとガルエイドは見ている。むしろ、才能ある身とはいえ、何故に流れの芸人などで身を立てているのか不思議なくらいだ。
「アリアスさまは、とある王族の血を引いておられる。半分しか血は繋がらぬ兄姉からも可愛がられ、表には出られぬ身ながら、将来は約束されていた」
いた。という過去形に引っかかりつつも、ヴェルハは顎を引いて先を促す。
「先だって、その王族の跡継ぎが落馬で死亡した。跡を継ぐのは三人の兄姉たちの内の誰かだ。跡継ぎの方は、誰もが認める政治的手腕をお持ちだったのでな。三人の誰かでは不足だというのが大方の考え方だ。むしろ、幼いアリアスさまを教育して、跡継ぎにというものも出てな」
ガルエイドの口元に苦い笑みが浮かんだ。
「そこに、跡継ぎの落馬が謀略だとの話も絡んできた。仲の良いご兄弟たちだったのだが」
「誰も信用できんと言う訳か。ならば、俺たちを信用する謂れも無いだろう」
表面上は今まで通りに仲の良い兄姉たちが、腹の底では何を考えているのか解らない相手となった。それならば、流れの芸人など余計に腹の知れぬ相手の筈だ。
「いや、むしろお前たちの信頼を買いたい」
ストレートな言い様にヴェルハがニヤリと笑う。こういう相手は嫌いでは無い。
「いいだろう。アリアスの護衛、引き受けてやる。俺たちの剣、お前に売ってやろう」
「幾らだ」
問い返したガルエイドの瞳は、真剣に二人を見据えていた。
「金百枚。成功報酬だ」
「高いな」
「それだけの価値はあるぞ。漆黒い旋風とその相棒の腕を買うというのだからな」
重い空気を振り払うように笑いを浮かべたガルエイドの瞳が、続くヴェルハの言葉に見開かれる。
「くろい、かぜ」
「契約を。傭兵としての俺たちとの」
呆然とするガルエイドの目の前に、ヴェルハが剣を突き立てた。黒い髪が入ってくる風に舞う。まるで魔物が目の前に現れたかのような、そんな予感にガルエイドはぞくりと身を震わせた。

NEXT

FC2 Blog Ranking
完結小説一覧
スポンサーサイト
*Edit TB(-) | CO(-)  Tag List  [ 小説 ]   [ メンズラブ ]   [ 漢受け ]   [ ファンタジー ] 


Back      Next

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。