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傭兵と吟遊詩人2<7> 

「どういうことだ?」
男が斡旋屋の扉を開いたとき、狭い店内は騒然とした雰囲気に包まれていた。大柄な筋肉馬鹿どもが斡旋屋の店主に詰め寄っている。
「何で俺らが首になるんだ」
「知らんよ。もっと腕のたつのを寄越せと言われただけだ」
詰め寄られた小柄な斡旋屋の親父は、自分の倍はあろうかという男たちの凄みを効かせた恫喝にもしらっと応対するだけだ。
「俺たちの腕が劣るっていうのか」
「劣るだろうよ」
親父はこの街で、父親から受け継いで斡旋屋を生業としている。父親が生きていた頃、この国が動乱の真っ最中だった。幼い頃から数々の傭兵たちを見てきたのだ。余程の擬態を施していなければ、腕の程など一目で見抜ける。
「何だと」
掴みかかろうと伸ばされた腕は、背後から阻まれた。男が振り向くと、体格的には同等くらいの男が腕を掴んでいる。
「おっさん、黒の旦那が腕のたつのを探してるって聞いたんだが」
腕を掴んだまま、背後の男が親父に話し掛けた。掴まれた腕を外そうとすると、その腕が万力で締め上げられたように痛む。
「ああ。そいつら、そこを首になったばかりだ。黒は雑魚はいらんとよ」
「成程ね。俺ならいいか?」
「いいだろう。手札はこれだ」
親父がうなずくと、男が親父に掴みかかっていた男の腕を外した。差し出された紹介用のカードを受け取る。短い茶色の髪に濃い茶の瞳。背には幅広の両刃の刀を背負っている。
首になった男たちをまったく無視して進む会話に、他の男も声を上げた。
「お前、何モンだ」
「おや、傭兵の端くれなのに俺の顔も知らんモグリか」
「お前さんがそれほど有名だとは思えんがね」
親父の入れた突っ込みに、茶髪の男が肩を竦める。
「そりゃないぜ。旦那にゃ劣るが、これでも結構名は知られていると思うんだがなぁ」
「そいつらは、黒にも突っかかってたぞ」
「そりゃあ」
物を知らないにも程があると男が呆れにも似た溜息を漏らした。その溜息さえも馬鹿にされたように感じた男どもは、激高したまま獲物を構える。
「やる気な訳か。いいだろう、表へ出ろ」
どうも分不相応な自信だけは有り余っているらしい男たちに、茶髪の男はうんざりしていた。こういう輩は叩き潰さなければ後に響く。
扉を潜るかどうかと言うタイミングで、背後から男の一人が茶髪の男に戦斧を振り下ろした。
それを幅広の剣で軽く受け流し、戦斧の男の肩先を男の剣が切る。男はそれだけで動けなくなっていた。
「おいおい、黒の旦那ならお前さんの腕は今頃胴体とオサラバしているぜ」
「貴様」
他の数人が茶髪の男を取り囲む。
「一応、言っておく。このまま逃げ出せば助けてやる。刃向かう気なら容赦しねぇぞ」
茶髪の男の雰囲気ががらりと変わった。先ほどまでのふざけた態度は微塵も無い。男たちがごくりと唾を呑み込む音が響いた。

ガルエイドの執務室は異様な雰囲気に包まれていた。
ずらりと揃った男たちはどれもこれも一癖ありそうな連中だ。内心、冷や汗を掻きながら、ガルエイドは平静を保つのに苦労した。もちろん、そんな内心を見透かされているであろうことは承知はしているが、この屋敷を纏める身として虚栄も張れぬと馬鹿にされたくは無い。
目の前の茶髪の男がニヤリと笑った。
どうやら、この男が一番の実力者かと見定めたガルエイドはその男をじっくりと観察する。不敵な笑いを浮かべた風貌は、黙っていれば男前で通るだろう。下品にならぬ程度に野生的で、隙の無い身ごなしは、騎士服でも着せればそれなりの立場の騎士でも通るだろうと思われた。肩に担いだ大剣は、幅広の重い剣だ。
「俺たちを集めた目的は?」
「主目的は護衛だ。我が主の護衛を頼みたい」
男がガルエイドに向って先鋒を切った。
「これだけの腕の立つ傭兵を集めてか。一体ナニを考えてる?」
「相手が不明だ。用心に越したことはないだろう。それにお前たちを集めたのは私ではなく、ヴェルハだ」
あくまで平静なガルエイドの口から出た『黒い旋風』の名に、傭兵たちがざわめく。漆黒い旋風が名で呼ばれることはあまり無い。
「で、黒の旦那は?」
それほどまでに漆黒い旋風が認める雇い主なのかとの疑いが傭兵たちの間に広がった。本来の主はガルエイドが我が主と呼ぶ人間なのだろうが。
「我が主は午後の茶の時間なのでな。吟遊詩人としての仕事をしてもらっている」
ガルエイドが庭へと視線を移す。自然と傭兵たちの目線もそちらへと向いた。
服装から貴族であることが一目で解る少年と、その目の前に控えた男が二人。短い金髪の男が楽器を抱えると、長い黒髪の男が立ち上がる。歌は『漆黒い旋風の歌』。
「確かに旦那だな。吟遊詩人のおっさんもまだ生き残ってたか」
庭から聞こえる朗々とした歌声は確かに漆黒い旋風のものだ。共に仕事に就いた者たちであれば、一度ならず耳にしたことはある筈だ。戦場で歌い上げる『葬送の歌』を。
同じ声が、戦うことでしか生きられぬ男の生き様を歌う。
「あんたの主人も豪胆だな。それとも、知らぬが仏という奴か」
「まだ幼い身ではあるが、ヴェルハとフォゼラを前にしても臆することは無い」
ガルエイドが立ち上がり、傭兵たちに背を向けた。
「仕事の内容はヴェルハに聞け。お前たちをどう使うかは任せてある」
背筋を伸ばし出て行くガルエイドの背を見送った茶髪の男がニヤリと笑みを浮かべる。まだ、幼い身でありながらヴェルハの前でも平然としているのなら、見所はあるだろう。
しかも、ヴェルハ自身が指揮をとる仕事など滅多にない。その機会に出くわしただけでも僥倖というものだ。
「面白い仕事になりそうだ」
男の言葉に、周囲の傭兵たちも笑い声を上げる。まずは、ヴェルハに会うことからだ。傭兵たちはそれぞれの獲物を手に庭へと向った。

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