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傭兵と吟遊詩人2<8> 

「何だ、お前たちは」
庭へと現れた屈強で剣呑な雰囲気の男たちに、アリアスを庇うようにエイセスが剣を構える。戦いに慣れた男たちにとって、エイセスの恫喝など子犬が吠えているようなものだ。
一歩、茶髪の男が踏み出す。が、引くと思っていたエイセスの剣は男に突きつけられたままだ。背の高い男が上から睨みを利かせる。
「ここは我が主の庭。誰の許可で入ってきた?」
虚勢と判ってはいても、負けることが確実な相手に張ることは中々出来ることではない。周囲の警備についた兵たちはこちらの動向を伺っている。
「エイセス、良い。どなたかは知らぬが、まずは名乗りを上げられたらどうか」
まだ少年期の高い声が上がり、傭兵たちはそちらへ目を向けた。まだ、幼いといってもいい少年は、身分の高いもの特有の上から睥睨するような目つきで傭兵たちを見下ろす。ただ、それは気持ちがいいくらいに真っ直ぐに向けられていた。
「聞かれたことに答えろ」
少年の前に控えたヴェルハが鋭い視線をこちらへ投げる。茶髪の男がその後ろへと控え、礼を取った。慌てて、他の連中もそれに倣う。
「ライジャ・ストレイドと申します。貴方の護衛としてヴェルハに呼ばれました」
ライジャが礼を取ったまま名乗りを上げた。アリアスの瞳が驚いたようにヴェルハを見る。
「ヴェルハに?」
「先日、ガルエイドさまはアブレイズさまへ仰いました。私とヴェルハを護衛として雇ったと。その場限りの出まかせではガルエイドさまもお困りでしょう」
ヴェルハが口を開くより早く、フォゼラがもっともらしく言い添えた。
「成る程な。その方らがヴェルハとフォゼラが認めたものたちならば、私から何も言うことは無い。苦労を掛ける」
すっくとアリアスが立ち上がる。それに改めて傭兵たちが頭を下げた。

「へぇ、旦那の気配にも動じなかったぜ。あの御付も若いが肝が据わってる」
「成り行きだが、悪くない仕事だ」
ライジャが感心したように口笛を吹く。それにヴェルハが向き直った。
「以前に雇われていた連中が無能もいいところでな」
イラついたようなヴェルハの口調に、長い付き合いのライジャのみならず、納得をする。戦うのに邪魔になるような連中は要らない。だが。
「逆恨みしそうだしな。奴ら、絶対に来るぞ」
むしろ、この屋敷を襲うというのであれば、少しでも内部の情報を集める筈だ。
「まぁ、敵になってくれりゃ、堂々と切れる」
ニヤリと笑うヴェルハに同意するように、傭兵たちが笑う。それは戦うことに慣れた獣たちの笑みだった。
フォゼラはそれを半ば呆れ、半ば感心しながら眺める。そのフォゼラにヴェルハが向き直った。
「フォゼラ。あの男、もう一度来るらしいな」
「ああ。今日の晩餐の席での演奏を頼まれているぞ」
こちらを馬鹿にする意図でフォゼラの芸を望んだ男。恥をかかされ、二度と来ないのではないかと考えていたのだが。
「お前、あいつを篭絡できるか」
ヴェルハの言葉にフォゼラは呆然とした。意外だった。それはヴェルハたちのような力のある男たちのやり方ではない。
「おいおい、このおっさんに誰を篭絡しろって?」
事情を知らぬライジャが呆れたように肩を竦める。フォゼラは逞しい体躯の中年男だ。どんな男が篭絡されるというのか。
「この館に出入りしている王子さまさ」
「まぁ、やれないこともない。あの男、いやに俺の女舞を粘っこい視線で見ていたしな」
「端からその意図だっただろう」
馬鹿にする意図丸見えの舞の指定だ。芸人の意地で煽るような舞を舞ってしまったが。
「面倒になりそうなら、盛り上がった気持ちを挫くつもりでいたが。むしろ、煽れと来たか」
ニヤリとフォゼラが笑った。フォゼラの隣にいるこの男は、もう傭兵だけの男ではない。
「芸人のやり口。上等だろうが」
「もちろん。さすがは俺の相方。俺の最高の歌い手だ」
傭兵としての力技より、芸人としてのやり方を選んだヴェルハに、フォゼラは笑いがこみ上げるのを抑えきれなかった。
「いいだろう。この俺の芸の全てをもって舞ってやる」
フォゼラがくるりと踵を返すのを見送ったヴェルハの満足げな様子に、思わずライジャが声を掛ける。
「おい、本気でやらせる気か」
あの男に惚れているヴェルハならばともかく、あの逞しい男に篭絡される相手などいるのか。いたとすれば、ヴェルハはどうするのか。不安だらけだ。
「ふ。あの舞を見ればお前も考えを変えるさ。俺は勃つのを抑えるのに苦労したぜ。それにこれは俺たちのやり方だ」
俺たちと言って笑ったヴェルハは、狡猾な顔をしていた。それは最強の傭兵としてのヴェルハの表情ではない。ライジャは大きく溜息を吐いた。
「最強の傭兵が、最悪な芸人になりやがった」
唯でさえ扱いに困る男だったが、もっと始末に負えなくなった気がする。
「おっさん。恨むぜ」
ライジャの呟きに、周囲の傭兵たちが顔を背けるが、ヴェルハ一人だけが鼻歌でも歌いそうな顔つきで己の相棒の後姿を見送っていた。

宵闇が迫る頃、宴席が開かれる。アブレイズは今日も何処か神経質な顔つきをしたままであった。その目がアリアスに向けられるときは柔らかい。可愛がっていることが表れている。しかも、アブレイズは数人の貴族の子息を伴ってきていた。
いずれも劣らぬ家柄のものたちだろう。立ち居振る舞いは優雅で気品に溢れ、育ちの良さが物腰にあらわれていた。
貴族たちがそれぞれアリアスの前に立ち、挨拶を述べる。脇に控えたヴェルハとフォゼラは目を見交わした。成程、これはアリアスの披露目の意味の宴席かと見当を付ける。
「アリアスさま。本日は何を」
「そうだな。皆様に楽しんでいただけるよう、流行歌を」
食事がはじまると同時に、フォゼラが訪ねた。アリアスの返事は簡素なものだ。
ヴェルハとフォゼラが演奏のためにアリアスの傍を離れると、入れ替わりにガルエイドとエイセスがその場へ控える。要は警戒態勢のままだ。
ヴェルハが剣を抜き、微動だにせぬ構えを取る。フォゼラの三弦が力強くそれでいて物悲しい旋律を奏でだした。『戦女神』。ヴェルハの口から朗々とした歌声が流れる。
剣を抜いたヴェルハの構えを見れば、ヴェルハの腕の程は知れるはずだ。常とは違い、態とそういった曲ばかりをフォゼラは選んだ。戦場での恋歌や英雄歌。貴族の子弟たちは非常に満足げに笑みを浮かべている。
どうやら、軽くおだてに乗りそうな類の連中らしい。アリアスの素っ気無さも納得できる。フォゼラとヴェルハは秘かに目配せを送った。
フォゼラが三弦をヴェルハに預ける。今日のフォゼラは常の旅装にマントではなく、この地方で使用人が着ている長いシャツに細身のスラックス。それに姿を見せぬように、頭から薄絹を纏っただけの姿だ。薄絹を纏いつかせたまま、後ろを向き、片手を高く掲げる。
ヴェルハの声が流れ出した。冷たく甘い声を響かせ歌い始める。
それを合図にフォゼラが舞いだした。舞神の化身とまで謳われた姉直伝の舞。柔らかな薄絹がひらりひらりとフォゼラの動きに合わせて揺れる。
ヴェルハの歌声もそれに華を添えた。身分違いのかなわぬ恋に身を焦がす美しい女の悲恋。結ばれぬと解ってはいても、その想いに身を捧げる。
扇情的に舞う姿に、美しさに見とれるだけのアリアスの背後で、エイセスの喉がごくりと鳴った。どうやら、若い男には刺激が強かったらしい。
ヴェルハは歌いつつ、周囲の様子を観察した。
アブレイズは、前回よりも纏わりつくような視線でフォゼラを眺めている。他の貴族の子弟連中も同じようなものだ。いや、常の男らしい姿を目にしていない分、より一層の劣情を煽られるのかもしれない。きっと、すばらしい美形を連想していることだろう。
ヴェルハは内心、そんな男どもをあざ笑いながら、フォゼラの舞姿を眺める。己の持つ全てを持って舞うと言ったフォゼラの言葉に嘘はない。この舞を教えた姉に執着した馬鹿な男の気持ちもわかる気がした。男のフォゼラでさえ、こうまで男を煽り立てるのだ。女ならばより一層煽られただろう。
舞い終えたフォゼラがその場へ控え、深々と頭を下げる。その仕草は常の男のもので、夢から覚めたような顔つきで皆が拍手を送っていた。
ただ唯一、ガルエイドだけは苦い表情を浮かべたままである。おそらくはその後のことを憂いているのだろう。少しだけ気の毒に思いながらも、ヴェルハは自分の仕掛けに満足していた。

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