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傭兵と吟遊詩人2<10> 

「ヴェルハ。そろそろ勘弁してやってくれぬか」
アリアスが現れたことで、ヴェルハとエイセスは本来の仕事へと戻った。アリアスの傍にエイセスが控え、ヴェルハがアリアスの前へと膝を付く。
その姿に、アリアスが眉を潜めた。
「ヴェルハ。フォゼラは何処に」
「本日は休ませていただいております」
「そうか、判った」
返答までに微妙な間が空く。問われないことで、アリアスが事情を察していることを知った。
「私が一人で出来る事は多くはありません。本日は、剣舞など如何でしょう」
「そうしてくれ」
少しだけアリアスが落胆した様子を見せる。この子供は、妙にフォゼラへ懐いていた。また、フォゼラも小屋の子供たちを思い出すと可愛がっている。それに明らかに芸人としての腕もレパートリーも如才の無さも、ヴェルハは数段に落ちる。
出来るのは歌うことだけ。それもフォゼラの旋律があればこそ、引き立つのだ。
だが。ヴェルハは顔を引き締める。ここにあるのは芸人としての己だ。
すらりと長剣を抜き、旋律を口ずさみながら舞いはじめる。フォゼラ直伝の舞だが、それはヴェルハの腕を引き立たせるかなり早い舞になっていた。だが、早いだけではなく一つひとつの動きが大きく、ぴしりと決まる。勇壮で華やかな舞だ。しかも歌声は乱れることが無い。
ヴェルハード・ベルゼンでなければ舞えない剣舞。
「すごい。ヴェルハ、すごく綺麗」
舞い終わると同時に、アリアスの興奮した声が上がった。子供らしい感想に、観客を満足させたことが判り、ヴェルハは笑顔を浮かべる。一人で立つ舞台というのはここまで心もとないのか。
「へぇ。これは本当に金が取れる舞だな」
思わずといった感じのライジャの声と拍手が同時に上がった。だが、それにもヴェルハは無言で頭を下げるのみだ。
「ヴェルハも素敵な舞手なんだな」
「フォゼラ直伝の舞でございます」
「フォゼラは本当に何でも出来るんだな」
感心したようなアリアスに、ヴェルハの口元に苦い笑いが浮かぶ。
「フォゼラに舞を教えたフォゼラの姉は、舞神の化身と呼ばれていたそうです。それ故に起こった悲劇と、それを跳ねのけた歌を歌いましょう」
控えていたヴェルハが立ち上がった。
『踊り子の恋』
貴族に気に入られた市井の女の悲劇と、爽快な逃亡劇。歌い上げるヴェルハの声は三弦が無くとも朗々と庭へ響き渡る。前半は好いた男と引き裂かれた悲しみを、後半は街のものたちの庇護を受け、自由へと逃げ出す幸福感を。ヴェルハの声は自在に歌い分ける。
歌い追えたヴェルハが頭を下げると、アリアスから惜しみない拍手が送られ、ヴェルハは胸を撫で下ろした。
「いい歌だね。この人たちはどうなったの?」
「何処か、海の向こうで幸せになったと聞いています」
「貴族は諦めたのかな」
「諦めざるを得なかったのではないでしょうか。これ以上は恥の上塗りでしょう」
「そう」
ちょっとだけ考える仕草を見せたアリアスだが、どうやら時間が来たらしい。エイセスに声を掛けられて立ち上がった。
「叔父上には私から言っておく。これ以上、フォゼラを煩わせることの無いよう」
「ありがとうございます」
どうやら、アリアスはヴェルハの意図を悟ったらしい。頭のいい子だ。確かにこの子を国王にしたいと思う臣下たちの気持ちも解る。
アリアスが立ち去るのを見送って、ライジャとヴェルハが揃って歩き出した。護衛はエイセスとライジャから目配せを受けた他の傭兵に交代だ。
「お前のいう通りの噂はばら撒いてる」
「ああ」
街外れの大きな屋敷に、腕の立つ傭兵が大勢集っている。しかも、その中には漆黒い旋風がいるという噂を、夜毎に街の酒場でばら撒く。
傭兵たちに騎士服や、使用人の服を着せることもあった。
流れ者で最近この街に落ち着こうとやってきたが、戦闘が大掛かりになるようなら、逃げ出すことも考えねばと。
「それと、こいつは余談だが。さっきの歌、おっさんの姉の歌だって言ってたな」
「それがどうした?」
「最初に追われてたのはそれだろう。お前、そっちは」
「ああ。もう片付いている。とっくに吊るされているだろうさ」
平然と答えるヴェルハの声の冷たさに、ライジャはぞっとなった。振り向いたヴェルハの顔に浮かぶのは猛獣の笑いだ。
「見事な初仕事だったぜ。フォゼラは。お前もじきに解る」
ヴェルハード・ベルゼンが初めて背中を預けた相手。ただの吟遊詩人などである訳が無い。そうは思っていても、ライジャたちの間では、どうしても員数外だという頭が働いてしまう。
「ああ。あの剣舞な。実はフォゼラも舞えるぜ。しかも、あの幅広の手前の剣でな」
ニヤリと笑ったヴェルハに、ライジャの足が止まった。金が取れるなどと言ってはみたが、ライジャにはとてもあの剣運びは出来ない。あれは実戦に即した動きだ。
「あれ、をか」
「俺が決めた、俺の相棒だ」
ただの吟遊詩人などである筈がない。悠然と歩み去るヴェルハを、ライジャは呆然と見送った。

ばら撒かれる噂は、やがてガルエイドの耳にも届いた。
「何だと?」
「中には、アリアスさまが簒奪を行う気ではないかと疑うものまで出る始末です」
「馬鹿馬鹿しい。アリアスさまは正当な後継者の一人だぞ」
エイセスはガルエイドの怒鳴り声に首を竦める。
「それはそうですが。かなり噂は広まっています」
「ああ。そうだろうよ。そのうち、私がアリアスさまを擁して反乱でも企てるとでもいう話になるだろうさ」
「そんな腹黒い臣下と思われているのか?」
腹立たしげに執務机に拳を下ろしたガルエイドに、からかうような声が掛かった。
扉を開いて入ってきたのはヴェルハとフォゼラである。
「ヴェルハ、フォゼラ。何だ」
ギロリと睨めつけるガルエイドだが、はっと気付いたように改めて二人を見る。
「お前たちか」
「まぁ、元はな。随分大仰な話になっているようだが、それは計算外だ」
「一体、何を考えて、」
詰め寄ろうとするエイセスをガルエイドが止めた。
「何の企てか聞かせてもらう権利はあるぞ」
「もちろん。そのつもりだ。それと」
来客用のソファへと勝手に腰を下ろしたヴェルハに、反射的にムッとした顔をしたエイセスの喉元に、ヴェルハの背後に立ったフォゼラの剣が、突きつけられた。
「ガルエイドさま。この男はこのままここでよろしいので?」
フォゼラの言葉は静かだが、有無を言わさぬ迫力がある。エイセスの背を冷や汗が伝った。
「いい、フォゼラ。エイセスも企てに加わってもらう」
フォゼラの口元に笑いが浮かび、エイセスから剣先が外された。
「俺たちもいつまでも護衛をやっている訳にもいかん。特に今回は何が狙いなのか、何時仕掛けてくるのか、具体的な敵対者も不明と来ている」
「流れでお引き受けはしましたが、期限は変わりません。長くとも三月です」
フォゼラの切った期限は、確かに最初の契約の際に交わしたものだ。
「あちらから仕掛けるように持っていく気か」
ガルエイドの問い掛けに、ヴェルハがうなずく。
「おそらくは取り込むか、滅するか考え中といったところだろうからな。どちらに転ぶか解らんのなら、さっさと決めてもらうさ」
「そんな危険な! アリアスさまに何かあったら」
ヴェルハの提案に、エイセスが抗議の声を上げたが、それをヴェルハは受け流した。

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