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傭兵と吟遊詩人2<11> 

「何か? ある訳がない。俺たちはその為に雇われた。この間までいた馬鹿共と同じにされては困る。俺とフォゼラ。それに俺の認めた腕を誇る傭兵たちだ」
ヴェルハの言葉に、エイセスが不満そうな表情になる。だが、ガルエイドの手前、反論することなく渋々と黙った。
「エイセス。傭兵たちはヴェルハの指揮で動く。それを邪魔することはするな」
反射的にだろう。エイセスがガルエイドを振り返る。
「ヴェルハ。お前の好きなように動け」
ガルエイドの言質を取ったヴェルハがソファから立ち上がった。
「但し」
扉へ手を掛けたヴェルハとフォゼラに、ガルエイドが鋭い目を向ける。
「アリアスさまの身を危うくするようなことはするな。そうなった場合はお前を切る」
ヴェルハがニヤリと笑う。
「雇い主はアリアスだ。安心しろ、忘れてないさ」
「ならば、いい」
出て行く二人の男を見送ったガルエイドに、エイセスは不安そうな視線を投げ掛けた。
「エイセス。不服そうだな」
「あのような輩にお任せになる意味が判りません。傭兵たちを雇われるのは賛成ですが、ガルエイドさまが指揮を取って動かされれば」
「あんな癖のある奴らを、か。無理だな」
エイセスの不満は解る。ガルエイドは未だにヴェルハの正体を屋敷の誰にも明かしてはいなかった。周囲の兵たちにしてみれば、雇われ芸人だった筈の連中が、何時の間にやら怪しげな傭兵たちを引き連れ、屋敷内で好き勝手をしているようにしか思えないのだろう。
「それより、少しは使えるようになったのか」
ガルエイドの言葉に、エイセスはぐっと詰まってしまった。怪しげな連中だと思ってはいるが、腕は確かだ。思いつきで言い出した剣の稽古をつけてくれるようになって一週間ほど経つが、ヴェルハの足元どころかつま先にさえ達しない。
確かに腕前に関しては、この屋敷の兵たちが束になっても適うまい。
「こんな機会は滅多にない。出来得る限り学んでおけ」
エイセスに下がれと目線で伝えると、ガルエイドは手元の報告書に目を通しはじめた。これ以上の会話を拒否する姿勢に、エイセスは礼を取り踵を返す。
「お前がどんなに不服に思おうが、アリアスさまの護衛として傭兵たちを外すことはない。今は、余所者の方が信頼出来るのだ」
背中へ投げ掛けられるガルエイドの言葉は重い。金で雇われたものたちよりも、この国の兵たちは信用出来ないのだ。王は病身で先は無い。王太子は死に、後を誰が継ぐかは決まっておらず、最有力候補とされるアリアスは幼い。これで争いを起こすなというのが無理だ。
目端の利くものたちは誰に付くか、誰に付けば自分の立場が安泰かを考えている。
ガルエイドは、報告書を片手に重い溜息を吐いた。
これから、毎日のように来客があるだろう。アリアスへ誼みを結ぼうとするもの、同時に傭兵たちの様子を見に来るもの。中には、本当に『漆黒い旋風』がいるのかどうかを確かめる輩もいるだろう。どこまでを受け入れ、どこをいなすか。屋敷を預かるガルエイドとしては頭の重い話であった。

「おや、エイセス。久しぶり」
「えらく疲れた顔してんな」
馴染みの酒場は上級騎士たちの集う、繁華街の中でも比較的品のいい場所だ。
「仕事、忙しいのか」
エイセスに声を掛けたのは、騎士見習いの頃に同僚だった男たちである。
「いや、仕事よりも今は腕を上げるのに必死」
白亜の豪邸は王族ゆかりのものがいるというので知られた屋敷だが、アリアスの素性を察してはいても、表だって口にすることは無い。
耳に入る噂の不穏さに、ここのところエイセスの足は酒場から遠のいていたのだが、常に傍にいる傭兵たちの所為で神経の休まる暇が無かった。少し気を抜きたかった。
「何だ、新しい上官でも来たのか。それとも、指南役か。国王軍では最近は目立つ移動は無かった筈だが」
雇われ傭兵の件はここらでも真偽の判らぬ噂が出回っている。エイセスは力なく乾いた笑い声を上げた。
「エイセス。この間の芸人の二人連れ、知らないか?」
酒場の主人であるダマールがエイセスに問い掛ける。一晩泊っただけで宿に現れなくなった芸人はどこに行ったのか。あの腕ならば、一通り芸を披露するまでは街にいるだろうと踏んでいたのに、広場にも姿を見せず、街を出た様子も無い。妙な話だとダマールは警戒していた。
「何で?」
「いや、うちで幾晩か歌ってもらうつもりだったんだが。あれ以来、見た奴がいなくてな」
「ああ。屋敷で雇ってるよ。歌も上手いし、舞も出来る。曲芸もお手の物。珍しい話もしてくれるからアリアスさまがお気に入りだ」
その言葉にダマールは合点がいった。確かに世間知らずの貴族の坊ちゃんならば、欲しがりそうな玩具だ。街の人間たちは白亜の屋敷に住む王族の血を引く幼い子供がアリアスという名であることは知っている。が、知っているのはそこまでだ。
使用人たちも、詰めている国王軍の兵士たちも口が堅い。それだけに漏れてくる少しの話にも、街の連中は想像を逞しくする。アリアスはその見目の所為もあり、悲劇の王子様なのだ。
だからこそ、今流れている噂にもいろいろな憶測が付け加えられる。傭兵たちを雇ったのは単なる警備の強化を外に見せるためだけだったのに、それが今ではまったく別の意味を持ってきている。
「あれ、あいつらって男の二人連れじゃなかったか」
元同僚が思わずといった声を上げた。
「男だけど、何だ?」
その言葉に妙な引っ掛かりを感じて、エイセスは身を乗り出す。
「あの屋敷に妖艶な舞姫が来たって話聞いたんだけどな。芸人ってもっといるのか」
「ああ。それなら男だよ。芸人は二人だけだ」
男が首を捻った。
「妖艶な舞姫、だぞ」
噛んで含めるような言葉にも、エイセスは平然と応じる。確かに見ていない人間では信じられないだろうが、フォゼラは確かに舞っている間は妖艶な舞姫だった。
「ああ。三弦の吟遊詩人。ガタイのいい男だ」
相手が黙る。その戸惑いはエイセスにもよく判った。
「芸達者とでも言うのかな。布で身体を隠して舞うんだよ。それがすげぇ色っぽいという婀娜っぽいというか。まぁ、そんな感じ。でも、何で」
あれは屋敷の晩餐の席でのことだ。誰がそんなことを話しているのか。
「ティエールさまが、その舞姫を欲しがってるらしい」
「ティエールさまって、グラント候の?」
確か、晩餐の席にいたグラント候の長男だ。どうやらフォゼラの舞にご執心らしい。エイセスは頭を抱えた。これ以上の騒動の種は要らない。
「おっさんだぞ。それに」
言うかどうか迷ったが、諦めさせるにはそれしかない。侯爵家の長男だ。おそらく手に入らないものなど無いであろう環境にいる人間たちには有効な手は限られていた。
「アブレイズ殿下のお手付きだ」
「王弟殿下の」
このところ、アブレイズは頻繁に屋敷を訪れる。アリアスも遠まわしに断りを入れはするが、完全に拒否をするのははばかられる。だが、その度にお気に入りの芸人を夜伽に差し出すほどアリアスは厚顔でもなかったし、屋敷の主人としての面子もあった。
そのアリアスの様子を見ているだけに、エイセスにはフォゼラは厄介ごとの元のようにしか思えない。
「諦めろって伝えてくれ。これ以上、アリアスさまを煩わせたくない」
「いや、さすがに王弟殿下のお手つきじゃ無理だろ」
どうやら、どういう相手かを探っていたらしい男は諸手を上げて話題を変える。憂さ晴らしに出てきた筈のエイセスは、より一層重くなった気持ちを切り替えるように、元同僚たちとの他愛も無い話題に興じることにした。

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