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傭兵と吟遊詩人2<12> 

門を潜ると夜番の傭兵たちが数人立っている。鋭い視線がエイセスを認めた後、無言で頭を下げられた。
その中にライジャの姿を認め、兼ねてより疑問に思っていたことが口を突いてでた。いい加減に酔いが回っていた所為もあったのだろう。
「ライジャ・ストレイド、だったな」
「ああ。何か用か坊主」
主人であるアリアスには敬語は使わないまでも、軽く扱うことのない傭兵たちだが、相手がエイセスとなると途端に若造扱いになる。思わずむっとするが、腕の劣る自分ではどうしようもない。
「お前らは傭兵なんだろう。何で、あの芸人たちがお前らを使っている?」
「芸人風情とでも言いたさそうな口ぶりだな」
今回の仕事、ヴェルハが『漆黒い旋風』だということは伏せたままだ。そして、漆黒の旋風が芸人でもあるということは、まだ知られてはいない事実であった。
「単なる芸人ならばともかく、男の癖に男に身体を売るような輩に」
「おいおい、聞き捨てならねぇな。芸人どもは好きでやってる訳じゃねぇぜ」
市井の人間は生きていくために身体も売るのだ。しかも、今回はこの男の主人を護る為の仕掛けである。
「それに、俺たちが従う理由なんざ、一つだけさ。あいつらが俺たちよりも強いからだよ」
比類ない強さを持つ二つ名の如き傭兵。その傭兵が認めた相棒。傭兵の誰もが望んで得られぬ場所にいる『吟遊詩人』。
強い視線がエイセスを射抜く。周囲の連中はその様子を面白がってニヤニヤと眺めるだけだ。
「強いのか。ならば何故」
アブレイズを拒否しないのか。
「身分のある御仁に逆らって無事でいられるほど、この国は庶民に甘いのか。違うだろう。お前らは、そうやって庶民を良いようにするくせに、良いようにされた方を責める」
エイセスは口を引き結んだ。
「その言葉、ヴェルハの前で口にするなよ。手前の相棒を貶められて黙っているような男じゃねぇ。お前、片耳くらい無くなるぞ」
言わずもがななことを言ってしまったのは、ライジャが多少なりともエイセスを買っている所為だ。アリアスが側近にしたいと思うような男ならば、すぐに間違いには気づくだろう。
「一応、忠告はしたぜ。アリアスを失望させんなよ」
言いたいことが済んだライジャがエイセスに背を向ける。交代の時間だ。傭兵たちが入れ替わり、成り行きを眺めていた男たちと共にライジャが引き上げる。一人残されたエイセスは、ライジャの言葉を噛み締め、立ち尽くしていた。

少女は馬車の中で必死で笑顔を作ろうと試みる。何とか笑顔を浮かべはしたものの、それは自然なものとはいい難かった。何処か引きつったようなそれが鏡に映るのを見て、少女は盛大な溜息を吐く。
まだ幼さを残した痩せた身体は、女性的な魅力には遠く、かといって年相応の無邪気さの許されるような立場でもない。
「不自由だわ」
ぽつりと少女が呟いた。少女を乗せた馬車は城のようにそびえたつ街外れの屋敷へと向う所である。その城と見紛う屋敷の主は、先の国王の落し胤との噂のある少年だ。時折、街へお忍びで出掛けるらしく、下働きの少女たちはその容姿を誉めそやしていたが、自由に出掛けることもままならない身の少女は、目にしたこともない。
そんな少年の下へ嫁がねばならないのかと、溜息はますます深くなるばかりだ。
馬車が停まり、扉が開かれた。
騎士らしい若い男の差し伸べる手に引かれるままに馬車を降りるが、門の傍にいる鋭い目付きの男たちがこちらへ視線を投げ掛ける。
「あの、あの方たちは」
落ち着かぬ視線に、少女は騎士へと問うた。少女の家にも屈強な門番がいるが、そういう者たちとも何か違う気がする。
「最近は何かと物騒ですので。傭兵を雇っております」
「傭兵」
オウム返しに呟きながら、上機嫌で送り出した父親の言葉を思い起こした。
『次代の国王はあの方だけだ。既に腕のいい傭兵を雇い入れていると聞く。何処かの馬鹿どもが命を狙っても無駄なことよ。その中には、あの漆黒い旋風がいるそうだ。あの男は自分の目に適うものでなければ従わぬとの噂だ。お前の婿はたいした男だぞ』
まるでもう既に決まったかのような口ぶりであったが、王太子が亡くなる前も同じような台詞を聞いた気がする。
「こちらより、庭へとお入りください。もう皆様集まっておいでです」
騎士の声に少女は慌てた。少女は、騎士がアリアスの元へと伴ってくれるものと思っていたのだ。
だが、騎士は少女の伸ばした手の届かぬ場所で踵を返す。
意を決して、少女はアリアスが待つであろう庭へと足を踏み入れた。
蔦薔薇のゲートを潜ると、あちこちに花の咲き乱れる美しい庭がある。そこにはきらびやかな衣装を纏った貴人たちが集っていた。
だが、周囲は厳しい警備兵たちがそこかしこに散らばっていた。人垣に囲まれた場所に金の髪の少年が立っている。年長であろう青年たちが群れを成している中、堂々とした態度でグラスを傾けている様は、整った容姿の所為もあるのだろうが、何処か彫像めいていた。まるで美術品に群がっているかのように見えて、少女はクスリと笑ってしまう。
それに気が抜けた少女は、とりあえず挨拶を試みようと足を踏み出した。が、青年たちの向こうには、着飾った少女たちが幾人もアリアスを取り巻いている。
我も我もと少女たちはアリアスに声を掛け、一目でも自分を見てもらおうと必死だ。それを見て、少女は悟る。つまり、少女と同じような立場でアリアスに選ばれようと考えるものは一人では無いのだ。
少女は馬鹿ではない。園遊会という場で行われた初めてのアリアスの大々的な披露目の意図をはっきりと悟っていた。
一人ひとりに対して、断りや歓待を示すのは面倒であるばかりではなく、どれを趣旨選択するかによっては面倒ごとの元になる。そこで園遊会という場を設け、全てを一度で済ませてしまう計画だ。
「嫌だ。沈む必要なんか無いじゃない」
アリアスにとって、少女は問題外だと知らされ、口から自嘲の言葉が漏れる。
「ヴェルハ。フォゼラ」
アリアスが背後を振り返った。そこへ控えているのは腰に長剣を佩いた男たちだ。身体の大きな金の髪の男と線の細い長髪の男。黒い髪と黒い瞳は滅多にない組み合わせでひどく人目を引いた。しかも、黒いマントまで羽織っている。
「何か歌ってくれぬか」
「何をお望みでしょうか?」
金髪の男が柔らかい笑顔を浮かべてアリアスに訊ねた。
「そうだな。恋歌をひとつ。それと何か英雄歌を」
立派な長剣を佩いた姿に、護衛の傭兵かと思ったが、どうやらただの芸人らしい。金髪の男の奏でる弦に乗せて、黒髪の男が歌い出す。冷たい容姿に見合わぬ甘い声が豊かな声量をもって庭に響き渡った。
少女は近くにあった椅子へと腰を下ろし、その歌声に聞き惚れる。素敵な歌声だ。少女に気づいた使用人が近寄ってきた。甘く柔らかなお菓子とお茶を勧められるままに手に取る。
「見間違いのようだな」
「同じ髪と目の色だ。傭兵たちに怯えているから、そんな間違いを犯すんだ」
「まさか、本当の漆黒い旋風がこんな場所に来る訳がない」
どうやら、使用人の影で少女の姿は見えなかったらしい。すれ違いざまに男たちが囁く内容は少女にも聞こえた。
「無粋ね。こんな綺麗な歌声なのに」
一人少女がごちる声は、周囲の誰もが気付かなかった。それに、あんな線の細い男が異名を取る傭兵などである筈がない。少女はそう思ったし、今日ここにいる周囲の大多数の意見はそうであっただろう。
ヴェルハの歌声はフォゼラの三弦と絡み合うように庭中に響き渡った。

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