スポンサーサイト 

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
*Edit TB(-) | CO(-) 


傭兵と吟遊詩人2<13> 

ヴェルハとフォゼラは与えられた部屋から飛び出した。
ひたすら奥へ向って走り出す。廊下を警護する国王軍の騎士たちが怪訝そうな瞳で二人を見る。
ヴェルハはガルエイドの執務室へと走りこみ、フォゼラは更に奥へと走る。足を止めたのはアリアスの寝室だ。
「何ごとだ?」
夜番であったらしいエイセスがフォゼラへ剣を向ける。
「アリアスさまを起こせ。来たぞ」
「来たって何が」
「敵襲に決まってるだろう」
不審気に眉を潜めるエイセスに、フォゼラは淡々と告げた。エイセスが周囲を見回し耳を澄ませる。すると何かが壊される音が微かに響いていた。
「ち、門を壊しに掛かりやがった。とにかく、周囲を固めろ。アリアスを何処かへ隠せ。女たちもだ」
フォゼラは言いざま、再び外へと向う。エイセスが声を張り上げた。
「おい、お前は何処へ」
「外だ。傭兵たちと共に戦う」
剣を片手に走り去るその背中はあっという間に見えなくなる。エイセスは唖然とその後姿を見送っていたが、大きくなる音にそんな場合ではないと動き出した。

「ガルエイド。来たぞ」
ヴェルハが執務室へと入ると、ガルエイドは既に身支度を整えていた。
「敵襲か。門を壊しているのが主力か」
「いや、おそらく庭から侵入してくる奴らがいるだろう。そっちは俺たちが片付ける。どちらか破った方から押し寄せるだろうよ」
「馬無し、投石無しか相手は舐めてるのか」
ガルエイドは執務室から門を見下ろした。思ったよりも軍勢は少ない。
「アリアスを奪取した後に、ここを使うつもりだろう。傷は少ない方がいいさ」
「やはり、奪取か」
暗殺と誘拐。どちらの手を使ってくるかとは思ったが。
「そりゃ、暗殺しても自分が後釜に座れるかどうかわからないとくれば、アリアスを有効に使う手を取るだろう。救世主気取りでな」
ヴェルハが抜刀する。それを合図にガルエイドは声を張り上げた。
「伝令!」
「はいっ!」
扉の前にいたらしい騎士が入ってきて礼を取る。
「第一隊、二隊。双方とも門の前で迎え撃て。単独の侵入者は傭兵たちに任せろ。傭兵たちの指揮はヴェルハが取る」
「はッ!」
身を翻し、放たれた矢のように騎士は走り去った。
「伝令!」
「はい!」
「屋敷の中の警護は私が指揮を取る。第三隊を!」
「はい!」
二人目の騎士が走り出て行く中、ヴェルハが抜き身を下げたまま歩き出す。
「あの小僧はどうする? アリアスの元へはフォゼラが知らせに行ったが」
「フォゼラが知らせたのであれば、自分で判断するだろう。それさえも出来ないようなら不要だ」
肩越しにヴェルハは声を掛けたが、ガルエイドの答えにニヤリと笑い、そのまま悠然と歩み去った。
門を打ち壊す音が響き渡る中、ヴェルハは傭兵たちを率いて庭へと向う。
「侵入した奴らは、一人残らず動きを止めろ」
「生死は問わなくても構わんだろう?」
傭兵たちの一人が声を上げた。それにヴェルハが振り向く。
「いわずもがなだ。戦闘能力を奪え。結果死んだところで自業自得」
冷たい声はあくまで平坦だ。
「へへ。しばらくぶりに暴れられるな」
「表の様子見たが、ありゃ訓練された動きだ」
「庭に忍び込んでくる奴らだって、それなりだろうしな」
小声で交し合う傭兵たちの言葉は何処か弾んでいるが、内容はとんでもなく血生臭い。強い敵と戦えることに喜びを覚える男たち。それも、自分たちが勝てるという自信故だ。
ヴェルハが走り出す。庭へ降りる音はひどく重かった。
「何だ、お前。あのときの」
侵入者は笑いたい程に陳腐だった。首にした傭兵どもは、どうやら侵入者を案内してきたらしい。ヴェルハは走りぬけ様に、傭兵どもの背後にいる侵入者を切り捨てた。
絶叫が響き渡る。
傭兵どもは何が起こったのかわからぬまま、上から落ちてくるものを呆然と受け止めた。血しぶきを伴って降って来るそれは、肘から下の腕や手首。
「だから、言っただろう」
ライジャが話し掛ける声すら、もう傭兵どもは知覚していない。
「黒の旦那ならお前の腕は胴体からオサラバしてるぜってな」
ライジャの声は既に届いていなかった。元傭兵であった男たちは、すでに物言わぬ肉の塊と成り果てている。返す刀でヴェルハが切り伏せたのだ。
庭のそこここに潜んでいたものたちが一斉に立ち上がる。気配を気取られぬようにしていたところを見ると、雑魚ではなさそうだ。
潜んでいた連中が、じりじりと間合いを詰め傭兵たちの周囲を取り囲む。
それにヴェルハとライジャ、傭兵たちが危険な笑いを閃かせた。

静まり返った庭には濃い血臭が立ち込めていた。ライジャと傭兵たちはそこそこの手傷は負っているものの、手当てが必要な程ではない。
静かに立つヴェルハは血に塗れていたが、もちろんヴェルハの流したものではない。
「正面も片付いたみたいだな」
ライジャが肩に大刀を担ぎ上げた。先ほどまで大勢の鍔鳴りの音が響いていたが、それも小さくなりつつある。
ヴェルハがはっとしたように顔を上げた。己の隣にいない相棒は一体何処にいる?
「おい、ヴェルハ」
「黒の旦那?」
走り出したヴェルハを数名の傭兵たちが追う。
「陽動だ。こういう屋敷ならある筈だろう」
「抜け道の類か」
「そうだ。フォゼラは多分」
途中で気づいたのか、それとも最初から屋敷の中が怪しいと思っていたのか。考えかけてヴェルハは止めた。今、ヴェルハがしなければならないのは、何よりも早く相棒の元へと辿り付く事だった。

「ち…ッ」
フォゼラは思わず舌打ちをする。人数を相手取っての乱戦はフォゼラの得意とするところではない。
だが、アリアスの寝所の護衛は少なく、しかも前線に立ったことのある年長のものたちは今は門前で戦闘中だ。フォゼラがやるしかない。
これが街中であれば、アリアスを連れて逃げまわることも可能だが、不案内な屋敷の中では、むしろ地の利は相手にあった。
「もう、いい加減に降参してはどうだ」
目の前の男は、フォゼラを見下ろして言い放つ。おそらく、フォゼラさえ抑えればこの場は収まると思っているのだろうが、正しい判断だ。
アリアスと女たちを宝物庫に押し込み、エイセスたち護衛の騎士を扉の前に立たせてはいるが、その護衛も満身創痍といった有様である。
「それは出来ぬ相談というものです。アブレイズさま」
答えながらフォゼラは目線だけで周囲を見回した。先程から響いていた大勢の戦う声も聞こえない。もう少しだけ持ちこたえれば。
「来い。お前もアリーも私が救い出してやろう」
傲慢な態度は生まれもってのものか。自身の価値を信じて疑わない。フォゼラは声を上げて笑い出した。もう演技は必要ない。
「俺が救われたがっていると? アリアスもか? 何からだ?」
いきなり笑い出したフォゼラに、怪訝そうな目を向けつつも、アブレイズは胸を反らす。
「アリーはあの忠臣面した狐からだ。私こそアリーの後ろ盾として相応しい」
その言葉に傷を負って耐えていたエイセスが剣を握りなおした。
「貴様ッ」
それをフォゼラが制する。
「お前も言っていたではないか。あの男は恐ろしい男だと」
「確かに言ったな。ああ、恐ろしい男だ。恐ろしくて、強くて、血に塗れて戦う姿は誰よりも美しい」
二つ名の如く、漆黒の瞳と髪が黒いマントが血に染まる時の危険で魅惑的なその姿。誰よりもフォゼラを惹きつけて放すことのないあの。
「来い」
フォゼラの言葉を理解してもいないのだろう。アブレイズがフォゼラへと手を差し伸べる。その指先が消失した。

NEXT

FC2 Blog Ranking
完結小説一覧
スポンサーサイト
*Edit TB(-) | CO(-)  Tag List  [ 小説 ]   [ メンズラブ ]   [ オヤジ受け ]   [ ファンタジー ] 


Back      Next

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。