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傭兵と吟遊詩人2<14>完 

一瞬、何が起こったのかさえ、誰も認識出来ない。ただ風が通り過ぎただけだ。
「残念。振られたな、色男」
茶化したような声音で風が囁く。消失した指先から血が吹き出した。絶叫が上がり、全てが動き出す。そこに唐突に出現したのは漆黒の影。黒い髪と瞳。扉の前の護衛たちを庇うように厚刃の剣を握る男の横に立った男の秀麗な顔には、どす黒く変色してこびりついた血の跡がある。
「漆黒い、旋風」
搾り出すような声が上がる。水を打ったように場が静まり返った。痛みを訴え、転げまわるアブレイズの声だけが響く。
「知らねぇってのは怖いねぇ」
ヴェルハとフォゼラを囲む兵たちの背後から、ライジャの揄うような声が掛かった。だが、今更気づいたところで待つのは死だけ。
「こ、殺せ! 生かして帰すな」
固まった兵たちを動かしたのは、アブレイズの苦しげな命令だ。突然、バネの入った人形のように動き出す兵たちがアブレイズを中心に傭兵たちに対峙する。
奇声を上げ、十数人の兵たちが一斉にヴェルハへ向ってきた。
その群れにヴェルハが踊りこむ。跳躍して落ちる合間に数人の耳が飛んだ。
転げまわる男たちにかまうことなく、じりじりとヴェルハを取り囲む。乱戦はヴェルハが得意とするところだ。人数頼みの馬鹿どもの末路を思って、ライジャは口元に笑いが浮かぶのを抑えきれない。
「おい、黒の旦那ッ」
焦ったような怒声が傭兵たちから上がった。皆、ヴェルハとの仕事には慣れている連中だ。何を焦っているのか判らず、ライジャが顔を上げる。
常に背後にも目があるかのような男の背中は、がら空きだった。
ライジャは数人を切り捨て様に、慌ててヴェルハの元へ走ろうとする。それを見逃すような馬鹿ばかりでは無かったらしい。一瞬早く、ヴェルハのがら空きの背中へと数人が切り掛かろうとして、何かがつぶれたような音がした。
「背中を俺任せにするな」
兵とヴェルハの間には厚刃の剣を握る大柄な男。振るった刀は頭蓋ごと兵の命を刈り取っていた。
ヴェルハの口元を物騒な笑いが彩る。
背中合わせにヴェルハとフォゼラが剣を構えた。
絶妙のコンビネーションだとライジャは見惚れる。
ヴェルハはただ前だけを見ていた。振るう刀はいとも簡単にその場の男たちを屠っていく。そのヴェルハを守る事のみに刃を振るう男。
まるで二人して剣舞を舞っているかのような動き。一つだけ違うのは、その度ごとに上がる血しぶきと絶叫だ。
傷つきながらも扉の前に陣取った護衛たちは、唖然と戦闘の様子を見守っている。耳を飛ばされ、うずくまっていた兵の一人が、剣で身を支え、ふらつきながらもエイセスに切り掛かった。
エイセスは我に返り、その剣を受け止める。身を沈めて受け流し、空いた腰を払った。
だが、傷ついた身ではそれが限界だ。痛みでその場へうずくまったエイセスに勝機ありと見てか、数人の兵たちが襲い掛かる。
咄嗟に身をかわしたが、そこへもう一人の剣が落ちてくる。
駄目かと覚悟を決めたエイセスの目の前に、大柄な男が飛び込んできた。
「坊主。言われただろう。動きをよく見ろ。乱戦になったら死ぬぞってな」
ライジャの揄うような声に、エイセスは反論出来ない。
「ほら、あれがお前さんの言う芸人風情の戦いぶりだ。よっく見とけよ」
いい様、ライジャは目の前の兵を二人切り伏せた。倒れた兵たちを見た連中の足がじりじりと下がる。
だが、その足はすぐに止まった。何か大きな塊が進路を阻んでいる。正体を知りつつ、男たちは下を向く。そこには恨めしげな顔で目を見開いた昨日までの仲間たちの遺骸がいくつも転がっていた。
おそるおそる振り向くと、それなりにいたはずの兵たちの姿は既に数人になっている。
「馬鹿、な」
わななく唇が否定する言葉を吐き出した。自分たちは王弟殿下を護り助ける軍の主力。それがたった数人の傭兵と護衛に殲滅させられるなど。
呆然となった男たちの耳に、ふいに朗々とした歌声が響き渡った。
歌っているのは、漆黒い旋風。流れる歌は葬儀の際に死者を送り出す葬送歌だ。やがて、茶髪の芸人が音を添える。荘厳な旋律の意味するところを男たちは正確に読み取っていた。自分たちを送る歌だと。
顔色を変えた男たちは、奇声を発して漆黒い旋風へと躍り掛かった。
「運が悪かったとしかいえねぇな」
ライジャが血払いをした剣を納める。他の傭兵たちもそれに習った。もう既に終わりは見えている。
呆然と座り込んだアブレイズを顧みるものは誰もなかった。

「ギリギリまで入った水瓶みたいなもんだ。そこにフォゼラっていう石を投げ込んだだけさ」
平然と言うヴェルハに傭兵たちががははと笑った。
「確かに吟遊詩人のおっさんはデカイ石だな」
ガルエイドの執務室で集ったのは傭兵たちとガルエイド本人だけである。エイセスは一週間の療養。フォゼラも丈夫な身体であっただけで、数え切れない程の傷を負っていた。
「まぁ、何処まで奴が噛んでいたのか、それとも目の前に落ちてきたチャンスに飛び付いたのかは知らん。俺たちには関係のないことだ」
元々不満はあったのだろう。王太子の死が仕組まれたものか、それとも偶発的なものかはヴェルハたちの知ったことではない。
「報酬だ」
目の前に示された銀貨をそれぞれの傭兵たちが受け取る。
「ヴェルハ」
呼び掛けられて、ヴェルハが振り向いた。
「吟遊詩人としての仕事はどうする?」
「もちろん、続けるさ。契約期間はまだ数日残ってるしな」
フォゼラが受けた仕事だ。途中で放り出すなどあってはならない。それに怪我をしているフォゼラをベッドで休ませたかった。
「では、わが主の茶の時間に付き合っていただこう」
中庭にしつらえられたテーブルについたアリアスの前には、既にフォゼラが控えている。アリアスは楽しそうに笑っていた。
ヴェルハとガルエイドがその場に着くと、アリアスの顔が引き締まる。
「ヴェルハ。苦労を掛けた」
真っ直ぐにヴェルハを見るアリアスの瞳は、相変わらず物怖じするような色はなかった。
「ありがとうございます」
依頼人に礼を述べられることなど滅多にない。
「アリアスさま、本日は何にいたしましょう」
ヴェルハの戸惑いを感じ取ったのか、フォゼラが柔らかくアリアスに尋ねた。
「そうだな。葬送の歌を」
惑うこともなく返された選曲に、ヴェルハはニッと人の悪い笑いを浮かべる。フォゼラの指が三弦を奏でだした。
それに合わせて、庭へ朗々とした歌声が響き渡る。荘厳で何処か悲しみを湛えた歌声にフォゼラが音を添えた。
シンと庭が静まりかえる。アリアスが拍手をしたことで、ガルエイドも我に返った。
「素晴らしい音色であった。ご苦労だったな。我侭に付き合わせた。これにて任を解く。ガル、二人に報酬を与えてくれ」
「は」
ガルエイドが頭を下げ、ヴェルハとフォゼラは片膝をついて控える。
「フォゼラの怪我が治るまでは屋敷に逗留するがいい」
言い置いて、アリアスは身を翻した。その背に深く頭を下げる。ガルエイドを従えて歩み去る背中は、既に大人の気配を漂わせていた。

二人が屋敷を辞したのは、夜も明けやらぬころだった。
一番の乗り合い馬車で街を出るつもりで広場へと向う。
「さて、何処へ向かうか」
「何処でもいいさ。お前と俺ならば何処でも食っていける」
フォゼラの問いに、ヴェルハの応えは早い。今までは傭兵として赴く先を選んでいたが、フォゼラと共に行くのなら、何処でも変わらない。
「フォゼラ。俺にも扱える楽器はあるか」
芸人としてどれだけのことが出来るのか。やってみるのも悪くない。
「お前の楽器は歌だろう。それ以上のものはない」
フォゼラの答えは簡単なものだ。ヴェルハの声は天がヴェルハに与えた才だ。それ以上のものを望む必要も無い。
「お前は俺の最高の歌い手で、俺が戦うときの相棒だ」
フォゼラの言葉に、ヴェルハが微笑んだ。フォゼラに俺の歌い手だといわれる時、ヴェルハは何よりも幸福だと思う。
花の香りが漂ってくる。城塞都市であるマルヴェイクでは家の外に花壇があるのが普通だ。小さな花が家々の花壇に咲き乱れている。
ヴェルハの口から歌声が流れだした。それにフォゼラが和する。
広場までの道のりを、ヴェルハとフォゼラは歌いながら歩いた。

<おわり>

本編はこれで終了。次回はちょっとしたおまけSSです。
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