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相棒の位置<傭兵と吟遊詩人>おまけSS 

その黒い男は、冷たい風貌に反した甘い声を響かせて、堂々と名乗りを上げた。
「ヴェルハード・ベルゼン」
周囲がざわめき、目を見交わしている。数人後に並んでいた俺も驚き、同時に天を仰いだ。あ、駄目だ。この後なんて割りを食ったな。
街道の要所にある交易都市は、常に野盗に狙われる。当たり前だろう。交易が盛んであれば金も物資も有り余るほどある。だが、王都に比べれば護りは格段に落ちるとあれば、狙わない奴などいる訳が無い。
そういう都市の多くは、町で自警団的な守備隊を誇っているのが常だ。このホルンという街は定期的に傭兵を雇い入れていた。期限付きで常に入れ替わる為、毎日数人が雇い入れられている。
早い者勝ちな場合もあるが、実力のある傭兵は当然別枠で優遇を受ける。黒い長い髪と黒いマントを羽織った男は、当然別枠扱いされるべき傭兵だ。
登録所の受付がびっくりした顔で、手元のリストと男の顔を見比べる。が、やがて満面の笑みを浮かべて男を歓迎した。
早々に諦めて列を離れる奴もいるが、俺はどうしても仕事に有り付かねばならない口だ。駄目元で残る。
「フォミゼイラ・サング」
次の男はガタイのいい中年男だ。こいつも俺のように食い詰めている奴かと勝手に親近感を抱く。金茶の髪を短く刈った男の獲物は幅広の実用重視の重い剣だ。身ごなしもかなり修羅場慣れしていると見た。名に聞き覚えが無いのが不思議なくらいだ。
だが、受付はリストと男を見比べ、軽く首を振る。どうやら、今日の受付はリスト重視の素人だったらしい。これは俺もお断りされるかもと内心うんざりしながら考えていると、目の前を黒い影が横切った。
「行くぞ。フォゼラ」
「ああ」
フォゼラと呼ばれた中年男を伴って立ち去ろうとする黒髪の男に、受付は盛大に慌てている。
「な、何か気に障りましたか」
「俺の相棒に不足があるんだろう? なら、俺にも用は無い」
けんもほろろに告げ、足を速める二人の男に受付の男は泣きそうになっていた。その情けない顔に、俺は置いてきたものの面影が重なり、つい中年男を呼び止めてしまう。
「まぁまぁ。そんなに頑なにならんでもいいでしょう」
俺は引きとめるように中年男の肩を抱え込む。黒髪が鼻じろんだのが判るが、跳ね除ける気配は無かった。
「あんたも二人一緒に雇われれば文句は無いんでしょうが」
黒髪の方を伺いながら、受付の若い男に視線を流す。さすがにこれで断りを入れるほど馬鹿ではなかったらしく、おおきく何度もうなずく。
「な。そこで納めましょうや。あんたもそれでいいんだろ」
冷たい目で俺を見た男に宥める言葉を掛け、中年男に向き直る。
「クッ」
喉の奥で中年男が笑った。堪えきれないというように。
「ヴェルハ。こいつの言う通りだ。大人げないぞ」
ヴェルハと呼ばれた黒髪の男が舌打ちをするが、それはこちらへ聞かせる目的があることは理解出来た。要するにこれで手打ちということだ。
「話が判るな、助かるぜ」
中年男の背を叩き、俺は受付へ向き直る。受付の男はあからさまにほっとした顔で俺を見ていた。良し、印象最高値だな。
「インゲ・クシュカ」
俺が名乗りを上げた瞬間、受付の男がリストに目を落とし、にっこりと笑う。どうやら食いっぱぐれは無くなりそうだ。俺は胸を撫で下ろした。

宿舎とは名ばかりのだだっ広いだけの部屋と、庭の一角が俺たちに与えられた空間だ。まぁ、屋根のある場所で寝られるだけでもいい。それに獲物が大きな奴もいるし、寝具などむしろ邪魔だ。警戒を解かぬまま、庭で野宿する連中もいるぐらいだ。
俺は夜の仕事に備えて、ごろりと横になった。
爪弾かれる弦の音に目を覚ます。控えめに奏でられる優しい音色は外からだ。俺は起き上がると音のするほうへと足を進めた。
そこここに過ごしている連中は樹木に身体を凭せ掛けて眠っている。その中に、三弦を爪弾く男がいた。足音をさせずに近寄ったが、気配がしたらしく、目線が俺を捕らえる。フォゼラとか言うおっさんだ。
「何してるんだ」
「見ての通りだ。弾かないと鈍るからな」
当たり前のように言う。ああ、こいつにとっての大事なものなんだろうな。
「綺麗な曲だね」
「そうか、ありがとう」
照れたように言うおっさんの向こう側から誰かが身を起こす。黒い髪に半分隠された冷たい瞳が俺を睨んだ。
体勢からおっさんの膝枕で寝ていたらしいのは判ったが、睨まれる意味が判らん。これは何か? 相当警戒されてるってことか。
「ヴェルハ。そろそろ時間だ。時の鐘代わりに一曲行くか」
俺たちの仕事は夜番だ。街の周囲の警戒と襲ってきた時の防衛。奴らは少なくとも昼間は襲ってこない。街の流通が途切れては奴らも死活問題になるからだ。
確かにそろそろ皆が起きだす時刻ではあるが。
ヴェルハと呼ばれた黒髪が立ち上がった。すっと息を吸うと、柔らかく甘い声を響かせて歌いはじめる。いい声だ。三弦を奏でているフォゼラと目を見交わし、楽しそうに歌っている。
あの冷たい瞳が嘘のようなヴェルハの変わりように、俺は目を丸くした。
それは他の連中も同様であったらしい。朗々と響く歌声に起き上がった男たちは、様々な表情を浮かべて黒髪の男を眺めていた。
楽しげな表情で歌う『漆黒(くろ)い旋風(かぜ)』という珍しいものを。

「インゲだったな。よろしく頼む」
にっこりと人の良さそうな笑みを浮かべておっさんが言った。ここでの仕事は三人一組の巡回だ。だが、この二人と組むのは誰もが嫌がった。元々、傭兵は基本的には一人ひとりが独立独歩。他人は当てにしない。故に互いの監視役として三人で組まされるのだ。つまり、この二人と組む場合、一対二の構造が出来上がる。そんな不利な状況は御免だと言うことだ。
「いやいや。三人体制はここの金が前払いの所為もあるからでしょ。俺の見た所、あんたらは金には困ってないし、敵に怖気づいて逃げ出すこともない。俺、超楽勝でしょう」
一時金では無く全額前払いというのは珍しい。もっとも俺の手元に金はほとんど無い。俺は既に金を待つものの所へと送っていた。
「いや。まぁいい」
おっさんは口を開きかけて黙る。言いたいことは判った。傭兵たちはこのおっさんを傭兵扱いしていない。あくまで『漆黒い旋風』の『相棒』と言う名のおまけくらいにしか考えていないのだ。このおっさんがそれなりに修羅場潜ってんだろうなってのは判る。でもそれは俺たちも同じこと。
だが、『漆黒い旋風』は違う。後の世にはきっと伝説になるだろうと言う事がはっきりと解る存在だ。現に『漆黒い旋風』を歌った吟遊詩人の歌が二つもある。
じゃあ、相棒として連れているのは何故か。要は下世話な方向だろうというのが総じての意見な訳だ。
ふと、おっさんが顔を上げる。
「ヴェルハ」
「来るか」
「いや、止まった」
小声でなされる会話に、耳を澄ます。微かに馬蹄の音がした。おそらく、言われなければ気付かなかった程の微かな音。一定の距離を置いていることが解る。
「偵察ですか」
「馬鹿じゃないだろうな」
俺の言葉に、漆黒い旋風・ヴェルハが返してくる。何度も追い返されれば手を打ってくるだろう。
「報告に行きます?」
「いや、今日のところは放っておいていいだろう。それよりもこっちの姿を見せながら歩け」
偵察への牽制であろうそれを、静かな声で命じる。俺がそれに従うことを微塵も疑っていない声。街の外周を一通り歩きつつ、俺は疑問を口にした。
「フォゼラ、は何で気がついたんですか」
「俺は楽士だ。耳はいい」
派的に応える声に嫌悪は無い。俺はありがたく名前を呼ばせて貰うことにした。だが、応えられた内容に疑問が残る。
「楽士?」
「旅芸人だ」
それに答えたのはヴェルハだった。
「俺もこいつも傭兵であり旅芸人でもある」
困惑は顔に出ていたのだろう。ヴェルハが言葉を添えるが、ますます疑問だ。確かにあの声なら金は稼げる。演奏の腕も確かだった。だが、こいつらなら傭兵だけでも食えるぞ。
「解らないならそのままでいい」
くすくすと声を上げてフォゼラが笑う。俺は何となく気まずい思いを抱えたまま共に巡回を終えた。
翌朝、報告を終えると、傭兵たちの巡回はもう一回り外側になった。今まで通りに街路を歩く連中もいる。外周組は即時戦闘員という訳だ。もちろん、戦闘力の高い俺たちは外周担当。俺も戦斧を担いだままで歩く。
ヴェルハとフォゼラは腰に剣を佩いたままだが、柄にずっと手が掛かっている。緊張した空気が心地いいと感じるのは、俺も何処か歪んでいる自覚はある。肉を断つ感触を、血の匂いを待ちわびている自分がいた。
仕掛けて来るだろう。来ないのなら偵察は必要ない。
「隙見せとくか。インゲ、お前先に行った連中に付いていけ」
三人体勢を崩すというヴェルハに、俺はうなずいた。目が笑っているが怖い。
「フォゼラ」
ヴェルハがフォゼラを引き寄せ、唇を塞ぐ。いや、あんたらがデキてるのは知ってますが、これは刺激強いですぜ。
俺は呆れて去っていく役柄だろう。肩をすくめて先へ急ぐ。追いついたところで声を上げた。
「戻んな。フォゼラとヴェルハが誘い込みに入った。一気に行く」
振り向いた傭兵どもは喜色に瞳を輝かせて走り出す。俺も戦斧を担いだまま走った。
大勢の馬蹄の響きと野盗どもの声が段々と近くなる。
次の瞬間、声にならない絶叫が闇を破った。
「ち、黒の奴に先越されるぜ」
「おう、急ぐぞ」
走る足が早くなる。そこには既に何人かが駆け付けていた。乱戦に割って入る。担いだ戦斧を払う。血が飛び、肉を断った感触が手に伝わった。
周囲を目線だけで見回す。フォゼラの様子が気になったが、目の前の敵を屠るだけで手一杯だ。
数人が倒れたところで、俺はやっと周囲を見回す余裕が出来る。明らかに気押された連中が引き時を伺って入るのが見て取れた。
ヴェルハとフォゼラはその中央にいた。
前をまっすぐに見たままのヴェルハと、その背中を庇うように立つフォゼラ。二人とも刃も身体も血塗れた。ヴェルハが動くのと同時にフォゼラが動く。まるで背後に目があるかのように。
ヴェルハよりは組みし易いと見てか、フォゼラに数人が躍りかかる。それを力任せの厚刃の剣が勢い任せに弾き飛ばす。ヴェルハはその間にも目の前の敵を刈り取っていった。その旋風が吹いた後には何も残ることは無いとされる『漆黒い旋風』の本領を、俺ははじめて目にした。
ヴェルハの口元に笑いが浮かぶ。赤い舌が唇を舐めた。
「気の毒にね」
俺は戦斧を下ろし、一息吐く。もう数人抜けたところで支障は無い。既に相手は戦意を失くしている。
ヴェルハとフォゼラを見ると、まるで舞うように交互に剣を振るう二人がいた。その姿はまさしく『相棒』という呼称が相応しい。互いに命を預け、全力を掛ける男たち。
「俺みたいな臆病者には出来ない真似でしょう。相手に全てを預けるとか怖すぎる」
大事なものは、絶対に見せないし隠しておきたい。堂々と見せるのは自慢したい馬鹿か、盲目的な自信家か。
遠く置いてきた相手を思う。思い出す顔は幼いままだ。

期限が来て、俺はそのまま隣の国へと行く商隊へと雇われた。これもこの街のいいところだ。途中いくつかの街を行商しながら進む商隊はのんびりとした旅だ。
街へ着くとしばらくお役御免になる。土産でも買うかと広場に足を向けた。
「もう幾つになったんだっけ」
置いてきた相手の年を数えていると、朗々とした歌声が響いてきた。広場によくいる旅芸人の類かと顔を上げる。
長い黒髪の男が長剣を抜いて掲げ持ったまま、微動だにしない体勢で歌い続ける。流れる旋律は聴き覚えが有り過ぎた。漆黒い旋風の歌。隣で金茶の髪のガタイのいい男が三弦を奏でている。
伸びやかな声は自身の生き様を鮮やかに歌い上げていた。
「旅芸人か。確かにね」
あれが、俺と共に傭兵として戦っていた男たちだと主張したところで、誰も信じないだろう。次から次へと様々な曲を歌い上げる男たちは、何処から見ても旅芸人そのものだ。
広場で歌う男たちも、夜の闇で血に塗れる男たちもどちらも本当だ。
「傭兵であり、芸人である。か」
あの夜の疑問の答えは目の前にある。俺はそっとそれに背を向けた。陽の元で歌う男たちは俺には眩し過ぎた。

<おわり>

ラストまでお付き合いありがとうございました。
一言くださると嬉しいです。
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