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貴方と<キャッチ>番外 

無配SSUPです。本編「キャッチ」はこちら

【貴方と】三度の土下座

俺の荷物は旅行かばん一つ。その中に俺の全財産が入っている。余分なものは全て処分して、最低限必要なものだけはダンボール一箱に詰めて、宅配で出した。
俺はこの春に大学を卒業する。就職先も決まって、四年間住んだ下宿を後にした。向った先は恋人のいるマンションだ。
カードキーは貰っているので、玄関で止められることはない。
俺はドキドキしながら、マンションの扉のインターフォンを鳴らした。別に勝手に入ろうと思えば入れる。カードキーは手の内だ。でも、今日だけは特別。
滋さんに出迎えて欲しかった。
案の定、ドアを開いた滋さんは幾分不思議そうに俺を見る。
「どうした?」
問い掛けはしたものの、その場で問いただす気は無いようで、俺の手からバッグを奪って部屋へと促した。まぁ、滋さんにすれば不思議だろう。俺はこの部屋でもう数年も半同棲状態。生活必需品はほとんどこの部屋にもある。今更泊まりに来るのに大荷物を持ち込む必要は無かった。
「あの、滋さん。俺、大学卒業しました」
「ああ。おめでとう」
ソファの前に敷かれたラグに正座したまま報告した俺を見下ろす滋さんの顔が、何処か緊張しているような気がするのは俺だけか。言葉だけは穏やかだけど、どちらかといえば強面気味の顔が、一層怖い。
「お願いがあります」
「俺と別れてくれは無しだろうな」
ひどく緊張した面持ちで滋さんを真っ直ぐに見た俺に、滋さんは先を制するように切り捨てた。それに俺はほっと息を吐く。
「俺をここへ置いてください」
そのまま頭を下げる。調子が良すぎるのは承知の上だ。いくら恋人で半同棲状態であったとしても、大学を卒業した時点で、即刻転がり込むのはずうずうしいだろう。
大体、申し込む前に下宿を解約してくるってどんだけなんだよ。
「おま、え」
呆れたのか、俺の頭の上で滋さんの溜息が漏れる。でも滋さんはきっと断らない。俺は土下座をしたまま、滋さんの返事を待った。
「柳。顔上げろ」
怒気が篭った声に、俺はおずおずと顔を上げる。やばい、怒らせたか。
「お前の家はここじゃない」
断じるように言われて、俺は呆然とした。
「しげ、るさん?」
まさか断られるとは思っていなかっただけにショックが大きい。
「付いて来い」
滋さんが俺のバッグを握り、玄関へと向った。俺はしょんぼりとその後を付いていく。このまま放り出すことはしないだろうけれど、どうするつもりかな。
向った先は、滋さんの経営する店の一つで、この春からの俺の正式な職場だ。
「いらっしゃいって、オーナーですか。柳くん連れてどうしたんです?」
「お前解ってて言ってるだろう。性格悪ぃな」
店長の航さんが笑いかけるのに、俺はぎこちない笑顔を浮かべるのが精一杯だ。今までバイトだったのが、正式に雇ってもらえることになって、これから滋さんの役に立てると思っていたのに。
「おい、柳。こっちだ」
滋さんはいつも使っているテラス席へ上がっていく。その先は店を広げる予定で工事をしていた筈だ。二階のテラス席から上へ上がる階段を昇る。そこにはまだスタッフオンリーの札が下がっていた。
「昨日、やっと工事が終わったんだ」
階段を上がった場所の扉を滋さんが開き、俺を促す。
そこは店じゃなかった。中央にラグが敷かれ、ソファとローテーブルがある。
「ここ、俺の?」
俺は半泣きだった。俺の部屋を用意してくれたのは嬉しい。でもそうじゃない。俺が欲しいのは。
「お前と俺の、だ」
振り向いた俺の気持ちが解ったのか、噛んで含めるように滋さんが言った。
「俺たちの家だ」
壁際には大きめのベッド。その前にある遮光スクリーン。
時間の違う俺たちが一緒にいるために配慮された造りの部屋。
「お前、卒業近くなっても何も言い出さないし、ちょっと焦ったぞ。また俺一人で空回りしてるんじゃないかってな」
「滋、さん」
家族との縁が薄かった俺が、どれだけ一緒に暮らすことに意味を求めているか、この人は解ってる。
滋さんがその場へ膝をついた。
「滋さん、何を」
俺は呆然と滋さんの動きを見守る。滋さんはがばりと俺に頭を下げた。
「柳。俺と一緒に暮らして欲しい」
「し、滋さん、手を上げて。俺に頭下げることなんか」
慌てて滋さんの腕を取ろうとするが、年の割りに鍛えられた滋さんは俺の腕じゃびくともしない。
「お前の答えは?」
鋭く訪ねられて俺は戸惑う。そりゃ、俺は滋さんと一緒に暮らしたいよ。でも、こんなの。
「答えを聞くまでは駄目だ」
「一緒に暮らす!」
どうあがいても滋さんは頭を上げそうに無い。開き直った俺の返事は、ほとんど叫ぶような声だった。
ニヤリと笑った滋さんが顔を上げる。俺が好きな自信満々な男の顔。
「これでフィフティだ。お前と暮らすのも、お前と恋人になったのも、お前を抱いたのも、お前に懇願されたからじゃない。俺がそうしたいからだ」
「う…、」
ずるい、滋さん。カッコよすぎるよ。
「荷物は早いうちに運び込んじまおう。夜中にやってくれる業者があるかな」
夜中なのは、下のカフェの営業時間外にということだ。
「何か夜逃げみたいですね」
「縁起悪ぃな」
俺の軽口を滋さんは一刀両断にする。部屋はまだ新しい木の香りが漂っていた。
それに俺は幼い頃の実家を思い出す。こんな風に新しい木の香りの漂う明るい家だった。まだ、週末には家族がいた。それが徐々に崩れていったのは何時なのか。一抹の不安はある。でも、後悔するのは年をとってからでいい。
「そろそろ仕事の時間だ。いってくる」
「いってらっしゃい」
手を振って送り出した。大きな背中は今日も真っ直ぐに前を向いている。

<おわり>

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