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愛情こめて作ります<2> 

「美弥さん、今日は何処に行くの?」
可愛く聞いてくるさゆは、まさしく天使。目がおかしい自覚はあります。俺は衛雪じゃありません。
内心身悶えつつも冷静に判断して、俺はさゆに切符を差し出した。
「とある小さな美術館で刀剣と武具の展示をやってるんだけど、興味ある?」
「いえ。カッコいいなとは思うけど、飾られてるのを見るもんじゃないよ。美弥さんは?」
恋人になる前から数えると、十年以上の付き合いになる俺がさゆの好みを把握してない筈はない。それでも律儀に答えてくるのはさゆの素直なところだ。聞いてくるには訳があると思っているらしい。
「それは良かった。俺も同意だ。だけど、そこの美術館の中にいいカフェがあってな。展示会場を通り過ぎないと行けない造りなんだ」
「行く!」
目を輝かせたさゆの返事は早かった。さゆは食べ歩きが趣味だ。というよりも実用が講じて趣味になってしまったと言う方が正しい。
考えてみて欲しい。さゆが料理を作るようになったのは小学生の頃だ。小学生の男の子が作れる料理なんて、精々学校の家庭科プラスアルファくらい。いや、それでも上出来だろうとは思うが、高校生の食べ盛りの『兄ちゃん』に満足してもらえるには程遠いことをさゆはきっちりと自覚していた。
「あれ、さゆちゃんじゃん」
当時、高校生で進学塾までの時間つぶしに駅ビルの本屋へ寄るのは日課のようなものだった。そこで俺はさゆが何やら熱心に立ち読みをしているのに気付く。
最初に見掛けたのは数日前。それからずっとだ。迷った末に声を掛けると、さゆは目を見開いて固まった。
「美弥さん」
「どうしたの?」
これが漫画とか小説などであれば、俺も通り過ぎただろうし、目にも留めなかったかもしれない。さゆがいたのは主婦雑誌のコーナーだった。
手にしていたのは『簡単に出来る十分レシピ』。よくある類の簡単料理といいつつ、実は全然簡単じゃない料理本だ。うちの母さんも釣られて買っては無駄にしている。
「さゆちゃん。料理出来るの?」
さゆはコクンとうなずく。
「そうか。すごいな」
「学校で習ったくらいだけど」
そういえば衛雪が今日もさゆが夕飯作ってくれたと自慢してたっけ。
「それでもすごいよ。俺なんか学校で習ったのもすっかり忘れちゃった」
「そうなの? 簡単だよ」
満面の笑みで得意げなさゆは、凶悪に可愛い。
「そっか。じゃ、今度俺にも作ってくれる?」
「うん!」
大きくうなずくさゆの手から、俺はレシピ本を取り上げた。
「美弥さん?」
「先行投資って奴だ。俺が買ってやる」
昼飯を何度か弁当からパンに変えればいいだろう。
「センコウトウシ?」
「つまり、さゆちゃんが俺に美味い飯を作ってくれる未来のために、先にお金を出しておくこと、だよ」
金を払って、ポンとさゆに本を渡すと、さゆは嬉しそうに笑った。
「何だか判らないけど、俺が美弥さんに美味しいもの作ればいいんだよな」
「兄ちゃんをびっくりさせてやろうぜ」
ニヤリと人の悪い笑みで笑った俺に、さゆは一瞬目を丸くしてそれから悪戯っぽい笑みを浮かべる。
「兄ちゃんにはナイショだね」
共犯成立だ。翌日から一緒に本を読んでは買い物に行き、塾に行くまでの間に俺の家で夕飯を作る毎日が始まった。試行錯誤を繰り返し、時には失敗して、成功すると本当に嬉しそうに笑う。
可愛いとは思ってましたよ。最初から。
兄ちゃんの為に頑張る弟を、衛雪には秘密で助けてやるのも楽しかったしね。
何てったって、麻野衛雪は成績優秀で生徒会の副会長。生徒会長の補佐役としても優秀で、体育会系部活との橋渡し役としても知られる男だ。ちなみに俺はといえば、麻野とは中学からの付き合いではあるが、非常に地味な、上の中の成績と武道系の部活でそこそこの成績を残すのみの生徒だった。当然、二年の夏が過ぎれば部活は引退で学内受験の為の塾通い中。忙しい衛雪に代わって弟の面倒を見てやろうくらいの気持ちだった。
秘かな優越感もあったことは認める。いつも人に囲まれている衛雪は、自分の自慢がさゆを追い詰めていることには気付かなかったし、当然さゆの人知れずの努力の結晶も知ることは無かった。
陰湿ないじめにエスカレートすることは無かったものの、さゆが衛雪の弟だと言うのはあっと言う間に知れ渡り、衛雪とは似ていないさゆを衛雪と比べる奴はいくらでもいた。
それを励まし愚痴を聞く俺は、さゆにとってもっとも信頼の置ける相手の地位を勝ち取った訳だ。
「で、さゆがいう訳よ。兄ちゃん、美味しい?って。旨いに決まってんじゃん! さゆちゃんの初めての茄子の肉味噌炒めだよ」
本日も衛雪の昼休み恒例さゆ自慢が続く中、俺は一人弁当を広げていた。うちの学校は大学まで併設の為、食堂もコンビニも校内にある。正直、手作り弁当組は極わずかだ。この間までその他大勢のコンビニ組だった俺の前に広げられた手作り弁当に、さすがの衛雪も目を留めた。
「ナニ、お前彼女?」
「うん。まぁな」
俺の肯定に周囲がざわめく。
「お前この前まで、ナニ入ってるか判んねぇって断ってただろ」
「大丈夫。そんなことしない子だし、俺一緒に作ってるから」
さゆと。と言う言葉は飲み込んだ。さゆがお礼だと言って作ってくれる弁当は、さゆに似て、無器用な優しさに溢れていて旨かった。
「い、一緒にって、お家でお料理デートかよ。うらやま」
「相手はまだ、オコサマよ。理性大事。イエスロリショタ、ノータッチ」
「中学生か。この獣め」
ざわつく教室内で俺は平静に答える。何一つ、嘘は吐いてません。俺の口からは。
これで衛雪とCPしたがる腐った女子どもの妄想から逃れられるのならば、いくらでもネタは提供しよう。正直なところ、俺も後ろめたさが無いでもないのだ。
あの純粋に慕ってくれる可愛らしい友人の弟を、独り占めしたい気持ちは何処から来るのか。考えたくも無かった。

まぁそんなの無駄な抵抗だったんだけれどね。
大学へ進学して、バイト代でさゆをいろいろな場所へ連れて行く頃には、俺はすっかりさゆに落ちていた。兄ちゃんに美味しいものを食べさせるなら、いろんな料理を知ろう。という俺の言葉に乗せられて、さゆちゃんは週末ごとに俺とデートしてくれるようになった。
イベント毎のプレゼントはほぼ実用品。エプロンとか、お揃いの弁当箱とか、フライパンとかね。衛雪はおそらくさゆが買ったのだと思っていたはずだ。さゆが喜んでくれて使う度ごとに俺のことを思い出してくれるようなもの。
エプロン? フリフリの可愛いのなんて買いませんよ。俺は衛雪と違ってちゃんとさゆちゃんに似合うカッコいいものをプレゼントしましたとも!
黒いロングのカフェエプロン。背の高いさゆちゃんにはすごく似合います。
それを着けて家でさゆちゃんが料理を作ってくれるのもいいけれど、今日は外デート。展示会場の長い列に並んでるのも、さゆと一緒ならいい。
「なぁ、美弥さん。何がお勧めかな」
「美弥さんっていい加減に止めない? 俺には柚木って名前があるんだけれど」
美弥寺柚木(みやじゆうき)というのが俺の名前だ。初対面で俺の名前をまともに読めた奴にはお目にかかった事が無い。
「でも、兄ちゃんに」
「あいつあんまり気にしないと思うよ」
元々、美弥寺という名が読めずに『美弥』と呼んだのは衛雪だ。すっかり広まっててしまって、学生時代の友人は全員美弥と呼ぶ。あいつなど俺のフルネームすら覚えているかも怪しい。元々俺たちの付き合いは衛雪には内緒だし、名前を出すこともないだろう。
「じゃあ、ゆう、きさん」
さゆは、たどたどしく俺の名を呼ぶと、すぐに顔を伏せる。耳まで赤くなっているのが見えて、俺まで気恥ずかしくなってしまった。

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