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愛情こめて作ります<7> 

「さゆ?」
扉を開くと、さゆが膝を抱えて壁際に座り込んでいた。見馴れた部屋は、子供の頃からさゆが使用している部屋だ。さすがに机とベッドはさゆの体格に合ったものになっているが、その他は小学生の頃から変わっていない。
「何で兄ちゃんはああなんだろう」
呟くさゆ自身も判りきっている答え。衛雪がああなったのは、衛雪が二度も肉親を失っている所為だ。残されたさゆは唯一無二という奴で、失いたくないと思ってしまう衛雪を止める術は俺には無い。
おそらく、衛雪に弟よりも大事にしたい人でも出来ればいいのだろうが、それは当の衛雪のさゆフェチによって望み薄である。
しかも、衛雪の出来すぎた経歴もそれに拍車を掛ける。今回だって、学校側もさゆが一般生徒であればスルーしたはずだからだ。有能すぎる兄の弟の立場がさゆは恨めしかったが、それで反発するほど子供でもない。
何故なら、衛雪が有能になったのは『さゆに尊敬してもらえる、素敵なお兄ちゃん』を目指した結果だと知っている。さゆに何不自由なく生活をさせる為には、自分の分の学費を捻出する為の奨学金が不可欠だったし、いい企業への就職の片道切符も確約されていた。
「さゆ」
俺はさゆの隣へ腰を下ろし、さゆの頭を抱え込む。いつもならば、子供じゃないと反発するさゆも、こんな時には俺の好きにさせてくれていた。
ゆっくりとさゆの頭を撫でる。硬い髪は見た目よりもサラサラだ。髪を梳くように撫でていると、さゆが顔を上げる。
「兄ちゃんに謝んなきゃ」
「そうだな。さすがに言い過ぎだ。あいつ、今頃自棄酒だぞ」
落ち着いたらしいさゆは、ぱっと立ち上がった。それを惜しいと思いつつ、俺はさゆの後ろに付いて歩く。俺の恋人・マジ男前。
居間のドアを開くと、べそべそと泣きながら酒を煽る衛雪の姿。涙だけならともかく、鼻水垂らした美形の顔にさゆの足が止まる。
さすがにどん引きだ。思わず目を逸らしたさゆは悪く無いと思う。
足早にさゆがソファの横を通り過ぎた。慌てて後を追う俺の腕を衛雪が掴む。
「ざゆぢゃぁんがぁ」
「あー、はいはい」
しまった、捕まった。渋々と隣へと腰を下ろすと、衛雪が俺の腕の中でさめざめと泣き出した。腕の中にいるのがさゆちゃんから、もっと気持ちは盛り上がったんですが、如何せん相手が悪い。腕の中へと飛び込んでこられて、カッターシャツに鼻水付きそうな状況は、いくら相手が美形でもご勘弁。しかも、中身は残念な弟フェチの衛雪だ。
正直、ビジュアルが萌えるなどという理由でこんな男とCPの噂を立てられる俺の身になって欲しい。
「ざゆぢゃんに嫌われだぁ」
「あー、よしよし」
慰める言葉も手つきも適当だ。背中をぽんぽん叩くのが精々である。いや、一時期は真面目に相談に乗ってましたよ。でもね、この男全然人の話なんか聞いてない。
途中からアホらしくなって止めました。こいつを慰められるのは、唯一。

ことりと軽い音を立てて、目の前のテーブルへ小鉢が並ぶ。ポテトグラタン。きゅうりの高菜炒め、目玉焼きとあら引きソーセージ、高野豆腐の煮物。簡単に出来る酒の肴に、衛雪の瞳が見開かれ、そのまま小鉢を置いた相手に視線が移動する。
「ざゆ、ぢゃ」
「ごめん、言い過ぎた」
さゆは目線も合わせずに、台所へと消えた。
この後の衛雪がどうだったかなんて、いう必要も無いだろう。

翌日は、満面の笑みで仕事をする衛雪がいた。昨日とは態度が違いすぎて不審そのものだ。
「何だ、あれは」
「いつもの病気だよ」
慄く同僚連中に、派的な事実を告げる。麻野衛雪の『弟可愛い病』は一緒に呑みに行った連中には有名だ。
「そういえばさ。お前、麻野の幼馴染なんだろ」
「まぁな。エスカレーター私立だから」
「弟見たことある?」
ああ、こいつもか。俺はげんなりと隣の机に座る同期の熊井を眺めた。衛雪をあんなにする弟というのに興味を持つ輩は多い。
「あんまり麻野とは似てないが。どうした?」
「いや、ちょっと後で話聞いてくれないか。昼奢るよ」
タダより高いものは無い。それに昼はさゆとのランチデートだ。
「昼は用事がある。煙草休憩にしろ」
同僚をけんもほろろに断った俺の判断は悪くない筈だという思考が甘いと知らされるのは、その後のことだった。

「さゆちゃん」
「柚木さん」
俺の呼び掛けにさゆが腰を浮かし、手を振る。
「今日の飯、何?」
「へへ。ミートグラタンに高野豆腐の卵とじ。切干大根とたくあんの掻き揚げ」
昨日、衛雪に出した酒の肴に手を加えたバージョンだ。道理でさっと肴が出てきたと思った。下ごしらえ済んでたんだな。
「美味そうだな」
俺とさゆは目を見交わして満面の笑み。可愛いよ、さゆ。思わず、手を伸ばしてさゆの頬を撫でた。
さゆがじっとこちらを見る。
「た、食べようか、さゆちゃん」
そのままキスの誘惑に打ち勝った俺を誰か褒め称えろ。小首をかしげたさゆに困惑の視線を投げ掛けられながら、その日のランチデートも平穏無事だった。

午後の煙草休憩。俺は熊井を誘い出し、喫煙ルームへと向かう。一応、話は聞くと言った手前、無視は出来ないし、かといって誘ってくるのを待つのは時間の無駄だ。
「で、一体何だ?」
「いやぁ。ここでいいのかなぁ」
熊井は非常に歯切れが悪いが、そのまま促す。
「うちの妹が麻野を紹介しろって五月蝿いだよ。それで、美弥寺の知恵を借りたいんだが」
「やなこった。面倒くせぇ」
俺としては一刀両断。当たり前だが、衛雪は連れ出すまでが一苦労なんだ。合コンとかであれば、俺が誘えば付き合いだと割り切るが、限られた同僚と一緒になんて、さゆ第一の衛雪が付き合う筈が無い。
「即答だな。俺なりに考えたんだが、将を射んとすれば、まずは馬をという訳で、お前に麻野の大事な弟くんのことを聞かせて欲しかった訳よ」
「断る」
俺は一気に不機嫌になった。衛雪に近付くためにさゆを利用する奴は昔から多い。
「そういわずにさ」
声を低めた熊井が俺の脇に立った。いやに距離が近い。
「昼間にお前が麻野の弟と会ってるの黙っててやるからさ」
囁かれた声に、俺は頭を殴られた気がした。

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