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愛情こめて作ります<8> 

「さゆちゃん。って麻野の弟の名前だろ」
さゆの名前はおそらく一緒に仕事をしている課の全員が知っているだろう。そのぐらい衛雪の弟狂いは有名だった。おそらくは衛雪に隠れて会っていると言うので、勘ぐったのだろうし、その下卑た想像が外れていないでもない。
「まぁな。唯でさえさゆは麻野の弟だって知られてるからな。友達も彼女もみんな麻野目当てだった所為で、かなりの人間不信なんだ。その上、麻野はさゆとの時間は全部俺のなんて馬鹿げた主張をはじめたお陰で、さゆは見事にぼっちなんだよ」
苦々しく吐き捨てる俺の表情を見て、茶化すような雰囲気だった熊井が顔を引きつらせる。虎の尾を踏む、もしくは逆鱗に触れるとはまさしくこのことだ。
「さゆとのこと、麻野にばらす気なら俺にも考えがあるぞ」
俺のひと睨みに、熊井はおどおどと視線を彷徨わせる。
「それと、麻野に近付くのにさゆを利用するような奴、麻野も容赦ないからな」
完全に望みを断っておいてから、俺は喫煙室を後にした。どうやら、妹可愛さでそこまで考えが回らなかったらしい熊井は盛大に慌てていたが、知るか。お前が妹が可愛いように、衛雪はさゆが可愛いんだよ。
だが。
「これは次の手を打つべきかねぇ」
俺は一人、デスクのパソコンに向いつつ呟く。隣の熊井はいまだ呆然としているのか戻りが遅かった。

「よう、さゆ」
「柚木さん?」
その夜訪ねていった俺に、さゆは怪訝な目を向ける。そりゃそうだ。俺的には、衛雪にもっと距離を置いているように見せ掛けて、衛雪を安心させることがランチデートの目的であった筈だからだ。
「衛雪、いる?」
「うん。今から夕飯。柚木さんも食べる?」
小首をかしげて聞いてくるカフェエプロン姿のさゆは最高に可愛いです。誰ですか、この天使。
「そうだな。俺の分もある?」
「今日はコロッケ丼だから平気」
コロッケ丼は作り置きのコロッケを二度揚げしてキャベツの千切りの上にコロッケを乗せて、ソースをかけただけの簡単丼だ。けれど、これ美味しいんだよね。手造りのコロッケがたまりません。
「何だ。美弥」
「ちょっと話があってね」
二人っきりの夕飯を邪魔されて、衛雪はすごく不満気だ。お前は新婚カップルか。
「すまん。会社じゃ話しにくいことだ」
「熊井に何か頼まれたのか」
「あ、気付いてた?」
熊井の奴、先手でも打った気でいるらしい。だが、落ち着いた衛雪の様子を見るに、俺は熊井よりは信頼されているようだ。
「お前はさゆの為にならないことはしない。熊井よりは信用してるさ」
「ありがたいな」
俺たちの会話に、さゆはどうやら自分のことらしいと衛雪の隣に腰を下ろした。
「熊井の妹がお前と付き合いたいらしいんだ」
「よくある話だな」
これが本当によくある話なところが嫌味な男前だ。
「で、これもよくある話で。お前を引っ張り出したいから、さゆを誘い出してくれってさ」
「ほう」
この類の話題はさゆには鬼門だ。さゆの身体がピキンと音を立てて固まる。同時に衛雪の顔が歪んだ。
「成る程。それでお前に拒否られた腹いせに俺にご注進ってか。アイツ、馬鹿じゃねーの」
「妹が可愛いなら、衛雪も砂雪が可愛いって判りそうなもんだがな」
俺の呆れたような言葉に衛雪は何度もうなずいた。
「俺にとってさゆより大事なもんなんて無いし、俺に近付くためにさゆを利用するような女、真っ平だね」
「妹は関係ないかもしれないけどな」
さすがにそこまで気を回すのは下種のかんぐり過ぎるだろう。
「で。今回、熊井に痛いところを突かれて考えた。やっぱり色々お前に隠してたんじゃ物事進まないってね」
テンション上げて行くぜ。でないと挫ける。真正面には怪訝そうな顔の衛雪。ソファから飛び降りるような勢いで、頭を床へこすり付けた。いわゆるところのスライディング土下座。動作逆だけど。
「俺、さゆちゃんと付き合ってる」
「柚木さん?」
慌てふためくさゆの声が頭上でする。ごめんね、さゆちゃん。でも騙して付き合うのはフェアじゃない気がするんだ。
「さゆも俺も本気だ。お前に認めてほしいとまでは言わないが、せめて反対はしないでくれ」
「兄ちゃんに黙ってたのは俺も謝る」
さゆちゃんの声に視線を上げると、さゆは俺の横に並んで頭を下げていた。
「さゆ?」
「でも、俺も柚木さんが好きだ」
土下座したままのさゆの言葉に、俺は胸が一杯になる。マジ男前、カッコいいさゆちゃん!
がたーんとソファが倒れた大きな音がして、俺は衛雪の蹴りが入るのを覚悟して固く目を閉じた。が、何時までたっても何のリアクションも無い。
恐る恐る俺たちが視線を上げると、衛雪はソファごとぶっ倒れていた。
「わーッ、兄ちゃん、しっかりして!」
「お、おい、衛雪!」
俺たちは慌てて衛雪を二人して寝室へと担ぎこむ。まさか、ショックで倒れるとは思わねーよ。
頭を動かさないようにゆっくりと抱き上げた衛雪をそっとベッドへと降ろす。
さゆが冷えたタオルを衛雪の額に乗せると、衛雪が身じろいだ。
「ん、さゆちゃん?」
「兄ちゃん。大丈夫?」
薄く目を開いた衛雪をさゆが覗き込む。
「さゆ、ちゃん。お兄ちゃん信じたくないよ」
「ごめんなさい。でも俺、好きなんだ。柚木さんのこと」
ぶわりと衛雪の瞳から涙が溢れた。
「俺ね、ずっと兄ちゃんのこと支えたかった。でも、俺はまだまだ子供で、出来ることなんて少ししか無くて、どうしようっておろおろするばっかりで」
さゆのたどたどしい言葉に、俺は出会った頃のさゆを思い出した。必死で料理雑誌を握り締めていたさゆを。
「夕飯作ろうって思ったのはいいけれど、何していいか判らなくて。そしたらね、柚木さんが一緒に作ろうって」
「さゆき」
一生懸命に俺との思い出を語るさゆの頬に、衛雪の手が触れる。
「買ってもらった料理本。今でも宝物なんだ」
ずっと一緒にいたんだよ。二人で兄ちゃんに何してやれるか考えてた。だから。
言い募るさゆに、衛雪は困ったような笑顔を浮かべるだけだ。
「さゆちゃんの気持ちは判ったよ」
衛雪がさゆの髪を優しく梳き、頭を抱きしめる。
「でも!」
衛雪が俺をギロリと睨みつけた。
「何もさゆちゃんに手を出すこと無いだろう! さゆちゃんがいつの間にか大人になってたなんて!」
はい?
「さゆちゃんはまだ、いたいけな高校生なんだぞ! しかもお前ら話からすると昨日今日の付き合いじゃねぇだろう!」
さゆちゃんがいつの間にか汚されてたなんて! と憤慨する衛雪を俺は遠慮無くぶん殴った。
「アホか、俺とさゆはまだ清いお付き合いだっつーの!」
俺とさゆが付き合いはじめたとき、さゆちゃんはまだぴっかぴかの中学一年生ですよ。手なんぞ出すかボケ!

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