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おだやかな恋人たち<バレンタイン> 

図書室の窓から降り注ぐ暖かい日差しの中で、昼寝をするのが、昼休みの小沢健次の日課である。
この学校の図書室は、品揃えは近隣の中規模の図書館と張るくらいの立派なものだ。が、いかんせん、学校自体が、さほど頭の出来のよろしくない男子校とあって、試験前以外では、寄り付くものもあまり無い、さぼりの穴場と化している。
特に、夜間の酒屋の配達のバイトをしている小沢にとって、静かで落ち着くここは、昼寝には絶好の場所だった。しかも、昼休みは、差し入れの弁当で腹も膨れている。寝るなと云う方が無茶な要求だ。

だが、今日の小沢は、まったく眠れなかった。
と云うのも、中学に入ってからと云うもの、すっかりマセてしまった弟の敬次が、昨日、とんでもない事を云い出したからだ。

「兄ちゃん、芳兄ちゃんって、恋人とかいるの?」
「は? 芳? 何で?」
同じクラスの小池芳(かおる)は、最近良く家に遊びに来る。
大人しい性質の芳は、今まで兄が連れて来た様な粗暴な連中とは違い、非常に弟たちにも優しかった。しかも、大きなメガネに隠れて見逃されがちだが、顔立ちも柔和で、整っている。当然のように弟たちが懐くのに、時間は掛からなかった。
「芳兄ちゃんなら、女の子にもモテそうじゃん。兄ちゃんみたいながさつな男と違ってさ~」
可愛くない弟の台詞に、小沢は大人気なくムッとした。
すっかり、成人男性並みになった拳を、弟の頭に落とす。
「生意気云うんじゃ無い。俺にはちゃんと可愛い子がいるの!」
「え~、うっそだ~! じゃ、何で家に連れてくるのが、男ばっかりなんだよ!」
「うるさい!」
もう一度拳を握ると、敬次はさっと立ち上がった。
「兄ちゃんのオーボー! ケチ! いいもん。勝手に、芳兄ちゃんに告白するから!」
「は? 何だ、それ?」
あかんべーと舌を出して出て行こうとする、敬次を、小沢はぐいっと引き止めた。
「何だよ。芳に告白って?」
「俺、芳兄ちゃんが好きなんだ」
「馬鹿云うな。お前、いくら可愛くったって、芳はオトコだぞ!」
「解かってるよ! そのくらい。でも、好きなんだ!」
敬次は、真剣な表情で小沢を睨みつけている。いくら、兄でもこの恋は真剣だと、その視線が訴えていた。
父親のいないこの家では、母を助けて、家計の一端を背負って立つ小沢が家長代わりだ。
自分の役割として、弟が男と恋愛という、インモラルに反対するべきか、一時期の熱病だとやり過ごすべきか。
小沢はひたすら、困惑するしかなかった。


図書室のカウンターに座っている、芳が柔らかに微笑み掛けて来る。
同じクラスであったが、親しくも無かった小沢と芳が、はじめて話をしたのはこの図書室だ。その微笑に小沢は、疲れた自分の精神が癒されるのを感じた。
『親友』などと取り繕っているが、芳と小沢は、実は誰も知らない恋人同士である。
お互いに、ここで相手を盗み見る関係が数ヶ月続いた後、焦れた小沢が告白した。
「僕も小沢くんが好き」
その芳の応えを聞いた瞬間は、夢じゃないかと思ったくらいだ。
今も、実は信じられない。
「小沢くん、もうすぐお昼休み終わるよ」
「ああ。そうだな。教室に帰るか」
二人にとって、この昼休みは大事な時間だ。二人で図書室に来て、芳の母親の作った弁当を二人で食べて、芳の当番が終わるのを待って、二人で教室に帰る。バイトで忙しい小沢にとって、唯一の癒しの時間で、デート代わりの貴重なひと時だ。
「明日、小沢くんの家、行ってもいい?」
おずおずと芳が切り出す。平日に家に行きたいと云い出すのは珍しかった。
「いいけど、俺、夜にはバイトに行くぞ」
「うん。だから、それまででいいんだけど」
駄目?と目線で訴えかけられて、小沢が断れる筈も無い。芳が敬次と接触する危険は冒したくなかったが、自分が隣にいれば大丈夫だろうと、小沢は大きくうなずいた。


「健次。明日普通に出てこれるか?」
バイト先の酒屋のオヤジに聞かれた小沢は、首を捻る。
「来れますけど、何かあるんすか?」
「倉木がよう、バレンタインだとかで休みてえとか云いだしやがって」
倉木はバイト仲間の大学生だ。このところ、カノジョが出来たらしく浮かれている。
「バイト代、弾むからよ。頼むぜ」
「倉木さんの分まで配達ですか? 構わないっすよ」
ここのオヤジは気前がいい。弾むと云ったからには期待していいだろうと、小沢はポーカーフェイスを崩さないままで、承知した。これで、芳を何処かへ連れて行くくらいは出来るかもしれない。
「バレンタインか」
思わず呟いたが、オヤジは耳ざとく聞きつけていた。
「お前も、何かプレゼントくらいは用意しといたらどうだ?」
「え? でも、バレンタインって、女が告白する日じゃ?」
「若けえくせに、そんなことも知らねぇのか? バレンタインっつーのは、大事な相手に感謝する日なんだよ。チョコ持って女が突進すんのは日本だけだ」
「そうなんすか」
オヤジに笑われた小沢の頭の中は、既に別のことが占めている。大事な相手。そう云われて思い浮かぶ相手は一人だけだ。
その相手は、立派に男である。小沢は少ない自分の為に使える手持ち金と、買い物の内容を吟味しながら、何故に、敬次が告白などといい始めたのか、漸く理解した。


「は、ハッピー、バレンタインディ」
玄関先で、芳は上擦りながら云った。かなり恥ずかしいらしい。耳まで真っ赤だ。
差し出された可愛らしいラッピングは、明らかにチョコレートだろう。小沢は、感激してしまった。まさか、自分にくれるとは思ってもいなかったのだ。
「ありがとう」
普段の仏頂面は何処へやら、蕩けそうな表情で、包みを受け取った。それに、芳がほっとした顔になる。
「あ~、兄ちゃん、ずるい!」
後ろにいた弟たちが、異なる理由から声を揃えた。
「敬次くんと順次くんにも持ってきたんだ。はい。うちのお母さんから」
「わーい、ありがとう!」
勢い込んで受け取ったのは、まだ小学生の順次だけで、小沢は固まってしまったし、敬次は複雑な表情を浮かべている。
何か?自分は弟たちと同じか? 小沢は、自分がいつもの仏頂面に戻ってしまったのを、自覚したが、どうしようも無い。
一方、敬次は、引き締まった顔で、後ろに隠していた、綺麗な緑と銀のリボンの掛かった包みを取り出した。
「芳兄ちゃんに」
差し出した敬次の真剣な表情に、芳は込められた意味を知る。
「ごめんね。僕、好きな人がいるんだ。その人以外は、考えられない」
「好きな人?」
受け取ることもせずに、頭を下げた芳を、敬次は呆然と見つめる。それを促して、小沢は玄関の隣の自室へと芳を連れて行った。
襖を閉じると、二階への階段を走る敬次の足音が響く。その後を追うように、順次が走っていく足音が聞こえた。
「傷つけちゃったかな?」
「仕方ないさ。二人は選べない」
そうだろう?と覗き込んだ小沢の胸に、芳は黙って倒れこんで来た。
「俺だけだろ」
そう問い掛ける小沢に、芳はこくりとうなずいた。
ゆっくりとしていたいが、バイトがある。芳の柔らかい髪の匂いを、惜しいと思いながら、小沢は芳から、身体を離した。立ち上がって、年代ものの勉強机から、紙袋を取り出す。
「リボンとか掛けてなくて、悪い」
さすがに、このバレンタインに、男の自分がラッピングなどして貰うほど、厚顔にはなれなかった。
紙袋を覗いた芳の瞳が、驚きに丸くなる。
中身は板チョコと、チョコレート色のブックカバーだ。
「ハッピー・バレンタイン・ディ」
さすがに恥ずかしかったが、台詞だけは決めてみる。芳の大きな瞳に、涙が盛り上がった。
ぎゅっと抱きしめようとしたが、芳ははっと気付いたように、メガネを外して、涙を拭う。
「小沢くん。これは僕から」
芳の手にあったのは、いかにもな感じのコンビニで売ってあるラッピング済のチョコレートだ。それでも、きっと買うのには勇気がいっただろう。
「小沢くんが、好き」
呟くような告白は、今まで、どんな女から受けた告白より、小沢を熱くさせた。
「俺も、芳が好きだ」
十年後も二十年後も。一緒にこの日を過ごそう。
Happy Valentine Day――――


<おわり>


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季節はずれのSSシリーズはここで終わりです。
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